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“アイドルゾンビ”が佐賀市を救う 『ゾンビランドサガ』の楽曲&作劇に溢れるオルタナティブな挑戦

11/8(木) 16:01配信

リアルサウンド

 この秋、10月のテレビ番組改変期に合わせて、50本以上もの新作アニメが登場。『ソードアート・オンライン アリシゼーション』や『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』といった人気シリーズの続編や、『転生したらスライムだった件』『ゴブリンスレイヤー』など原作の人気が高い作品が出揃い、近年稀にみる豊作ぶりとなっている。そのなかにあって、一風変わった作風でダークホース的な注目を集めているのが、ここで紹介する『ゾンビランドサガ』(以上、TOKYO MXほか)という作品だ。

 アニメ制作スタジオのMAPPA、制作会社のエイベックス・ピクチャーズ、アニメ事業への出資にも積極的なCygamesの3社が共同で作り上げたこのオリジナルアニメ。『ゾンビランドサガ』というタイトルから察せる通り、ゾンビを題材にしているのだが、一般的にイメージされる「ゾンビもの=ホラー」という内容を期待すると、完全に裏切られることになる。『ゾンビランドサガ』は、「ゾンビ」「アイドル」「ご当地」の要素をコメディータッチで鮮やかにハイブリッドした新感覚ゾンビアニメなのだ。

 その半ば強引とも言える組み合わせから、イロモノのように感じる方もいるかもしれないが、これが意外にもかつてなかったタイプのアイドルアニメとして見事に機能している。アイドルアニメと言えば『THE IDOLM@STER』(TBS系)『ラブライブ!』(TOKYO MXほか)シリーズの隆盛や、『アイカツ!』『プリティーリズム』『プリパラ』(以上、テレビ東京系)シリーズといった女児向け作品の一般への浸透もあって、今や多用化の一途を辿っている状態。なかには「アイドル」×「国会議員」の『アイドル事変』、「アイドル」×「ヤクザ」の『Back Street Girls -ゴクドルズ-』、そして「アイドル」×「魔法少女」×「男体化」の『魔法少女 俺』(以上、TOKYO MXほか)といった異色作も登場し、飽和が進む中で設定を先鋭化させることによって、他にはないオルタナティブな個性を生み出そうとする動きが顕在化しつつある。

 そういった流れの中で、「ご当地」×「アイドル」の組み合わせは過去にも『普通の女子校生が【ろこどる】やってみた。』(TBS系)『Wake Up, Girls!』(テレビ東京系)といった作品で描かれてきたが、「ゾンビ」×「アイドル」を主題に置いたアニメ作品はおそらく本作が初めて。しかもゾンビという存在をコミカルに描写することで、シュールなドタバタ劇の要素も加わっており、本来は死人である登場キャラクターたちの生前の過去を匂わせることでドラマ的な奥行きが生まれるなど、作劇的にも非常にハイセンスなものとなっている。なにより普段はあまり陽の目を浴びることの少ない佐賀という場所を「ご当地」として選び、実際に佐賀県の協力のもと、佐賀の良さをしっかりとアピールする作品としての姿勢が素晴らしい(これはCygamesの渡邊耕一代表取締役社長が佐賀県出身ということに由来するようだ)。

 また、本作はアイドルアニメということもあって、毎回音楽的な見どころも用意されているのだが、これもやはり一筋縄ではいかない。まず第1話「グッドモーニング SAGA」でフィーチャーされたのがデスメタル。この回で主人公の源さくら(CV:本渡楓)たち7人のゾンビ娘は、甦って早々ライブを行うことになるのだが、しっかりと意識を持って喋ることができるのはさくらのみ。残りの6人はいわゆるゾンビ的な唸り声を上げることしかできない。そんな状態でデス娘(仮)としてステージに立った彼女たちだが、そのプロデューサーを務める謎の青年・巽幸太郎(CV:宮野真守)の計らいでデスメタルのサウンドが流された瞬間、ゾンビ特有の唸り声をデスボイスに変換して、首が折れんばかりの(というか実際に折れてるのだが……)ヘドバンを決めながら最高のパフォーマンスを披露するのだ。ここでは「伝説の特攻隊長」こと二階堂サキ(CV:田野アサミ)の拡声器を使った絶叫もすさまじいが、何より山田たえ役を務めるベテラン・三石琴乃がデスボイスに挑戦した事実に衝撃を受ける(この時点では山田たえ役のキャスト名は伏せられていた)。

 さらに第2話「I▽HIPHOP SAGA」ではタイトル通りラップにチャレンジ。深夜に幸太郎の屋敷を飛び出して街に出たさくらたちは、そこでフリースタイルをしながらナンパをかますチンピラ3人組、サガ・アーケードラッパーズと遭遇。その前振りを経て、その後ステージ上で言い合いになったさくらとサキがなぜかラップバトルを始めてしまうという、何ともトリッキーな展開が繰り広げられるのだ。ここでさくら役の本渡楓が披露するフリースタイル風のラップは堂に入ったものでお見事の一言。また、サガ・アーケードラッパーズの配役には、『ヒプノシスマイク』の山田一郎役として知られる声優界随一のBボーイ・木村昴、作曲家・MCのLotus Juiceと共にAMADEUSという音楽ユニットでも活動する武内駿輔、趣味・特技にフリースタイルラップを挙げる宮城一貴の3人を起用する徹底ぶりだ。

 第3話「DEAD OR LIVE SAGA」でようやくグループ名がフランシュシュ(サキいわく漢字で書くと〈腐乱臭衆〉らしい)に決定し、アイドルとしての活動を本格化させる彼女たち。そこで披露された「目覚めRETURNER」は、キラキラしたダンスポップに乗せて“目覚めの奇跡”を高らかに歌い上げる王道のアイドルソングで、一度は死んで夢絶えたものの、今度はゾンビとなってアイドルを目指す彼女たちにピッタリの楽曲と言えるだろう。また、第5話「君の心にナイスバード SAGA」では佐賀県に実際に存在する飲食店・ドライブイン鳥とのコラボレーションが大々的に行われ、同店舗のCMソングをそのままオンエアしたほか、そのフランシュシュ版も制作する凝りよう(劇中に登場するドライブイン鳥の社長も本人が声を担当している)。こういった遊び心をクリエイションに置換する本気の取り組みが、この作品をひと際ユニークなものにしている理由のはずだ。

 昭和のアニメ~特撮ソング感溢れる熱さと懐かしさが今の時代に逆に新鮮に響くオープニングテーマ「徒花ネクロマンシー」(作曲・編曲はワルキューレ「僕らの戦場」などで知られる加藤裕介)、浄化作用満点の合唱系バラードに仕立てられたエンディングテーマ「光へ」を含め、「ゾンビ」×「アイドル」×「ご当地」の掛け合わせが最大限効果的に発揮されるような音楽的取り組みがなされている『ゾンビランドサガ』。この先もあらゆる仕掛けやサプライズで、楽しい絶叫を引き出してくれそうだ。

流星さとる

最終更新:11/8(木) 16:01
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