ここから本文です

“痩せたい”は「お金」「スマホ」でも叶わない(古市憲寿)

11/8(木) 5:55配信

デイリー新潮

 テレビ番組のインタビューで悩みを聞かれた。散々悩んだあげく出てきた答えは「痩せたい」。このエッセイでも何度かダイエットについて書いてきたが、それは自分の中で分類の難しい問題だから。

 僕は夢や希望を「努力すればできること」と「永遠に無理なこと」の二つに分類するようにしている。たとえば「いい本を書きたい」とか「ヨーロッパに暮らしたい」とかは頑張ればできること。完全に僕の決意次第でどうにでもなる願望だ。

 一方で「100mを10秒で走りたい」とか、「サッカーに詳しくなりたい」とかは一生無理なこと。無理だとわかっているから、努力しようとも思わない。

 しかしダイエットだけは分類が難しいのだ。努力すれば痩せるとも言えるが、その努力がとにかく難しい。食事制限をするのはチョコ好きの僕には無理だし、運動なんてもっと無理。しかし痩せるのは永遠に不可能と割り切って、ぶくぶくと太りたくもない。

 だから常に楽をして痩せる方法を考えている。友人によると、僕の会話の3割ほどはダイエットに関することだという。羊水塩がいいとか、ルフロがいいとか、色々と聞いては試す。そしていつの間にか止めている。そんなサイクルを繰り返してきた。

 現在公開中の「億男」という映画の中で、無限のお金があったら何をするかという問いかけがあった。映画を観ながら真面目に考えてしまったのだが、今の生活とあまり変わらなかった。

 友だちとご飯を食べて人狼ゲームをする。時々、好きな国にふらっと旅をする。気に入った服を買う。そりゃ無限にお金があれば、飛行機をファーストクラスにしたり、ホテルのランクを上げたりくらいはするかも知れないが、お金を使うにも限度がある(そしてマライア・キャリーを見てもわかるように、お金があっても簡単に痩せられはしない)。

 お金に関して面白いと思うのは、多くの人が持つスマートフォンの向こうには、金銭の格差があまりないことだ。ゲームの課金などを除けば、お金持ちも貧しい人も、同じような性能のスマホを持ち、LINEやらインスタグラムやら、同じアプリを使って生活している。

 スマホの向こう側は、貧富の差も地域差も超える。マンハッタンの高級ホテルにいても、中国の田舎にいても、スマホでは同じ画面を見ることができるのだ。

 しかもその時間は、下手をすると一日の大半を占めたりもする。最近、iPhoneに「スクリーンタイム」という機能が搭載された。それによると、僕は1日平均4時間ほどiPhoneを触っているらしい。移動が多い日には7時間ということもある。下手をすれば、スマホのこちら側にいる時間よりも長い日もあるのだろう。

 しかしスマホも全ての夢を叶えてくれる万能の機械ではない。「痩せたい」と検索しても「生活に運動を組み込む」「毎日体重を記録する」とか当たり前のことしか出てこない。その当たり前のことができていたら、とっくに痩せている。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

「週刊新潮」2018年11月8日号 掲載

新潮社

最終更新:11/8(木) 5:55
デイリー新潮

記事提供社からのご案内(外部サイト)

デイリー新潮

新潮社

「週刊新潮」毎週木曜日発売

「デイリー新潮」は総合週刊誌「週刊新潮」が発信する最新の話題に加え、専任取材班よる綿密な取材に裏打ちされた記事を配信するニュースサイトです。

あなたにおすすめの記事