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40代までに始めたい、睡眠による認知症予防

11/9(金) 11:44配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

いますぐにでも無料で始められる予防策

 私のコラムを読んだり、講演を聴いて「これからは睡眠を大事にしたいと思います」「快眠のためにも運動や食事など生活習慣を見直すことにしました」など嬉しいコメントをいただくことも多い。

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 睡眠に関する講演会にはさまざまな年齢層の聴衆がおいでになるが、熱心なのは60代以降のいわゆるリタイア世代である。歳とともに睡眠時間が短くなるほか、途中で目が覚める中途覚醒や朝早く目が覚めて二度寝ができない早朝覚醒などの不眠症状に悩んでいる人が多いからだろう。

 睡眠の質の向上のために生活習慣の改善を行ういわゆる「快眠法」は、即効性は乏しいものの、根気強く続けることで一定の効果が得られる。適度な運動や規則正しい食生活、ストレス発散やリラクゼーション、寝室の温度や照明を調整する、夕方以降のカフェイン摂取を控えるなど、すべて自宅で手軽にできるのも嬉しい。

 睡眠問題と健康の関係についてもよく質問を受ける。リタイア世代にとって糖尿病や高血圧と並んでとりわけ関心が高いのは「睡眠と認知症」の関係である。このコラムでも何度か取り上げたように、睡眠不足や不眠は代表的な認知症であるアルツハイマー病の罹患リスクを高めるという調査結果が繰り返し報告されている。

 質のよい睡眠をとり、睡眠不足を解消することは生活習慣病やうつ病の治療や予防にも役立つことが実証されている。そのため、「思い立ったが吉日ですね、頑張ってください!」とエールを送るのだが、こと認知症予防の観点では、リタイア後からの取り組みでは残念ながら「後の祭り」である可能性が高い。

脳は眠っている間にきれいになる

 睡眠不足や不眠が認知症のリスクを高めるメカニズムについては、「認知症と睡眠の切っても切れない関係」や「脳の掃除は夜勤体制」の回で詳しくご紹介した。アルツハイマー病ではアミロイドβというタンパク質が脳内で過剰に蓄積することが病因に深く関わっているのだが、そのアミロイドβを脳内から排泄するシステム(グリンパティックシステム)は主に睡眠中に活発に作動していることが明らかになったのである。

 では、最近物忘れが気になりだした人が、少しでもアミロイドβが蓄積しないように快眠法に励んだとして果たして効果はあるのだろうか。残念ながらその効果を実証した研究はない。というのも非常に手間がかかる研究だからである。

 質がよく十分な睡眠をとることが認知症の予防効果を発揮するか確かめるには、睡眠問題のある高齢者を多数リクルートして2群に分け、片方のグループではこれまで通りの睡眠習慣で、もう片方のグループでは睡眠改善のための指導を受けてもらい、認知症の発症頻度に違いがでるか何年にもわたって観察するようなコホート研究(前向き観察研究)を行う必要がある。この種の研究には膨大なマンパワーや資金がかかり、おいそれと実施できるものではない。

 とはいえ、いくら人員や予算があっても私であればこのような研究は行わない。なぜなら先にも書いたように高齢になって思い立った時にはすでに手遅れである可能性が高いからである。それを確信させる研究がアルツハイマー病の新薬開発の現場で頻発している。

 脳内のアミロイドβの量はポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)検査などの画像診断法の進歩により正確に定量できるようになった。そのおかげで、アルツハイマー病の診断精度や薬効評価は格段に向上している。これはアミロイドβの蓄積を抑える作用を持ったアルツハイマー病治療薬の開発にとって大きな利点になっているはずなのだが、最近まで行われた大規模な臨床試験(治験)のほとんどは惨敗し、新薬開発は遅々として進んでいない。

 失敗の原因についてはさまざま論議されているが、「認知症の症状がしっかり出てからでは手遅れ」だというのが多くの研究者に共通した意見である。さらにはごく軽度の症状しかない認知症の前段階ですら手遅れだと主張する研究者も少なくない。一体どういうことだろうか。

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