ここから本文です

「滑っても滑っても登る子グマ」、話題の動画から浮かび上がるドローン撮影の功罪

11/12(月) 7:11配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

野生動物への影響懸念

 最近、野生のヒグマの母子を撮影した動画がネットで話題になった。映像は、ドミトリー・ケドロフ氏がロシアのオホーツク海沿岸でドローンを使って撮影したもの。雪が積もった足場の悪い斜面を母グマと歩く子グマが、何度も滑り落ちながら一生懸命、母のもとを目指して登ってゆく様子をとらえた。

【動画】雪山を滑っても滑っても必死で登る子グマ

 映像は、斜面を滑り落ちた子グマが無事頂上までたどり着き、母グマと一緒に去ってゆくハッピーエンドで終わっている。この動画はテレビでも報道され、ニュースのほとんどが「成功するまで何度でも挑戦するのよ!」という子グマの奮闘を見守る母グマという観点で報じた。しかし、ソーシャルメディアでは、この動画の撮影法に懸念を示す科学者たちの声が相次いだ。

 例えば、映像が1分を過ぎたあたりで、斜面を登り切る寸前の子グマと、それを待つ母グマの姿が画面に大きく映し出される。すると、母グマはドローンを追い払うように、前脚を振る動作をする。この後、子グマは斜面のはるか下まで滑落するのだ。映像を見ると、子グマは母グマの突然の動作に驚いたように見える。

 ケドロフ氏はロシアのウェブサイトに対して、クマの姿が大きく映るようになったのはカメラをズームしたことによるもので、ドローンを接近させたからではないと説明。ドローンがヒグマを怖がらせることは一切なかったとも語っている。しかし、同氏の説明を疑問視する専門家もいる。

クマにはドローンは未確認飛行物体でしかない

 ドローンがアメリカクロクマに与える生理的な影響を研究してきた米国アイダホ州、ボイシ州立大学の野生生物生態学者マーク・ディトマー氏は、「ビデオカメラのズーム効果の可能性もありますが、消費者向けのドローンの大半は、積載できる重量は軽いため、高性能ズームレンズを装備したカメラを取り付けることはできません」と言う。

「もちろん、この映像で、ドローンがクマに近づいたというのは私の推測に過ぎません。でも、動画の母グマは、ドローンが高速で近づいてくるのを見てパニックになり、思わず前脚でドローンを払い落とそうとしたように見えます」

 アイダホ大学の野生生物生態学者ソフィー・ギルバート氏は、「映像の母グマの様子をよく見ると、かなりの時間、ドローンを凝視していることが分かる」と指摘する。「母グマにしてみれば、ドローンは文字通りのUFO(未確認飛行物体)です」

「母グマには、ドローンが何の目的で近くにいるのかなど、まったく分かりません。ドローンを見るのも初めてでしょうから、幼い子グマを連れている彼女にとっては、ドローンはむしろ危険な存在に見えたと思います」

 もう一度映像を冒頭から見てみよう。そもそもクマの親子が、わざわざ危険な斜面を選んで歩いていたことが、ドローンの存在(と、それから逃げたいという気持ち)がなければ説明しにくい。というのも、子グマを連れた母グマは、よほどのことがないかぎり、進んで難しいルートは選ばないからだ。

 ドローンが野生動物に「ハラスメント」をしていると思える動画は、ほかにもたくさん投稿されている。

 ギルバート氏はドローンが動物の行動に影響を与えた動画の例として、サケを食べているヒグマの映像、ムースを襲うオオカミの上空でドローンをホバリングさせて撮影した動画、低空飛行するドローンから逃れようとして走るエダヅノレイヨウの映像などを挙げた。

1/2ページ

記事提供社からのご案内(外部サイト)

ナショナル ジオグラフィック日本版の前後の記事

あなたにおすすめの記事

Yahoo!ニュースからのお知らせ