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「自分だけの抗がん剤」という夢の薬は、アルゴリズムで進歩する

11/14(水) 19:10配信

WIRED.jp

若き生化学者メリッサ・ムーアは、RNA(リボ核酸)にあれこれと手を加えていた。90年代初期の話だ。

飲み込んだ超小型カプセルから「健康診断」できる時代がやってくる

RNAには、細胞内で遺伝子の設計図をタンパク質合成装置へと運ぶ働きがある。この遺伝分子をつくるには、当時はマイクロピペットを使ってほんの少しずつ構成要素を加えていかねばならず、大変な労を要した。

ノーベル賞受賞者のフィリップ・シャープが勤めるマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究所でさえ、わずか数滴の作成に何日もかかることがあった。ムーアは30年近くのち、学究の世界を離れて入った会社で一度に20リットルもつくれるようになろうとは、想像もしていなかった。

ムーアはバイオテックのスタートアップであるモデルナ・セラピューティクス(Moderna Therapeutics)でRNA研究を率いている。米調査会社CBインサイツ(CB Insights)の調べによると、企業評価額は推定70億ドル(約7,770億円)で、民間の医療会社では世界屈指の時価総額を誇る。拠点はボストンにある。メッセンジャーRNA(mRNA)を用いて、人間の細胞が“体内で薬をつくり出せる”ようにする技術を開発する数社のひとつである。

このひも状の物質には、ある指示が書き込まれており、がん細胞を破壊する化学物質や心臓の治癒を促すタンパク質、ウイルスを捕まえる抗体といったものを患者の体自体につくらせることが可能になりうる。ムーアは言う。

「こうした薬を体内の必要な場所へ届ける方法をいったん理解すると、体はあっという間に遺伝子の配列を変えて新しい薬をつくることができます。わたしたちの体の能力がすっかり変わってしまうのです」

秘密主義のスタートアップの無菌室に潜入

素晴らしい話かもしれないが、モデルナは設立から8年経つというのに、公開している新薬候補群の開発状況は初期段階にとどまっている。設立から2年間、内密に事業を進め、秘密主義との評判を早々に得た。英科学雑誌『Nature Biotechnology』では、苦境に陥ったセラノスなど、ほかのバイオテック企業と併せて情報公開がなっていないと非難されたこともある。

状況が変わったのは、わずかここ1年半のことだ。モデルナはいくつかの新薬候補の臨床試験を実施して状況を公開し、最終的には論文を発表し、開発中の技術の詳細の一部を明らかにした。このような臨床試験の数は他社でも増加しており、現在10件が進行中、11件以上が準備中となっている。モデルナもやはり事業規模を拡大している。

モデルナは2018年7月17日に薬の生産施設を開設した。20万平方フィート(約18,580平方メートル)の広さで、1億1,000万ドル(約121億6,000万円)が投じられている。ここではいまのところ、臨床試験チームと前臨床研究チームがmRNAを好きなだけ使える予定だ。

「普通のスタートアップでは考えられないことでしょうね」と話すのは、モデルナのスタッフ長であり施設長のスティーヴン・ハービンだ。商品として薬を製造するのはまだ何年か先であることを認め、こう付け加えた。「もっとも、当社ではごく当然のことですが」

モデルナの新施設を取材に訪れたのは7月初めだった。開設したその日に、ハービンは建物内の説明をしてくれた。白衣と手袋とヘアネットを着用した科学者たちが動き回ることになるのは、病院のように蛍光灯で照らされた5つの無菌室だ。ここでモデルナ初の「GMP認定mRNA」が製造される。GMPとは医薬品規制当局が求めるガイドラインで、「医薬品の製造および品質管理の基準」を指す。

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最終更新:11/14(水) 19:10
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