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『宝塚歌劇』楽曲の魅力を語ってみる “芝居”と“ショー”それぞれの演目が生み出す音楽体験

11/14(水) 15:20配信

リアルサウンド

『宝塚歌劇』の音楽をなにか知っているだろうか。

 おそらく『宝塚歌劇』というものに対しもともと興味がないか、「どうやらそういうものがあるらしい」くらいの知見である多くの人にとって、それは少し、古めかしさや、仰々しさや、「男役」なるものに対する不自然さといったイメージの額縁の向こうにある世界なのではないかと推察する。

 そんな額縁のなかの音についてのみ取り出して語るのはとても難しく、ある意味ナンセンスなことのようにも思えるが、その魅力について語ってみるという蛮行を試みてみたい。というのも、『宝塚歌劇』における楽曲とは「お芝居」の演目のそれと、「ショー」の演目のそれとで、だいぶ性格が異なるものの、人の心の琴線を震わせてやまない魅力に満ちているからだ。

■記憶が公演や場面に紐付く音楽体験

 「お芝居」の楽曲の多くは、(海外ミュージカルの潤色作品などではない限り)座付き作曲家によるオリジナルであり、新作演目であれば当然「誰も聴いたことがない」ところから出発する。しかしその耳慣れなかった曲が、兵庫県宝塚市にある「宝塚大劇場」と日比谷の「東京宝塚劇場」で行われる本公演、その約3カ月の間にファンに浸透し、その音源を買い求めたい気持ちにさせる。

 一概には言えないかもしれないが、多くの一般的な楽曲は個人的な感情や記憶を惹起するところ、『宝塚歌劇』の「お芝居」ものの場合、そういった記憶の紐付けは「あの公演の、あの場面(シーン)」とのみ強固になされる。iPhoneのiTunesアプリで、通勤電車内で聴いていたとすれば、脳内で再現された舞台の、「オペラグラス越しに見たあの日の贔屓(※1)のあの表情」が蘇るしくみだ。よって個人的体験なり記憶なりはどこかへ行ってしまう。

■脳内で処理しきれないほどの情報が繰り出される「ショー」

 一方、「ショー」の楽曲はもっと自由だ。メインテーマこそオリジナルであることが多いものの、ショーの演出家によって演目ごとにだいぶ性格が異なる。一筋縄ではない。

 シーンによって、それこそジャニーズの曲やら童謡やらNHK「みんなのうた」の曲やらアニソンやら懐メロやら西城秀樹やらK-POPやら過去の宝塚演目の名曲やらシャンソンやらが入り混じっているのだが、そこに歌う生徒(※2)の個性、衣装、化粧、かつらとその装飾、ダンス、舞台機構、時に寸劇、演出その他といった『宝塚歌劇』的な要素がかけあわされ、独特な音空間が創り出されていく。

 55分間(※3)の「ショー」を指してよく「体感5分」と言わしめるジャーゴン(専門用語)が宝塚ファンの間ではまかり通っているものだが、めくるめくスピードで繰り出される舞台上の要素を脳内で情報を処理しきれないのがその理由だろう。客席に座ってただ観ているだけなのに強烈に疲れるのだが、それはある種サウナに似て、観劇後の人体の精神の血行を活性化させる。

■決して難しい教条主義的な存在ではない『宝塚歌劇』

 2018年時点で、104年もの歴史をもつ『宝塚歌劇』は「お芝居」「ショー」含め、オリジナル楽曲だけでも膨大に擁していて、その歴史はあまりにも厚い。ある一つの公演を取っても、その演目の歴史をふまえているかいないかで、楽しみ方が変わってしまう側面があることは否定できない。長い期間ファンであることが己の喜びを涵養する。それは『宝塚歌劇』ファンに年配者が多い理由の一つだろう。ただし小・中学生の時点でこの世界観にどっぷりはまりこむ子どもも多数派ではないが年々一定数発生している。『宝塚歌劇』が決して難しい教条主義的な存在ではない、良質なエンターテインメントであることの証左である。

 もう一点。「宝塚大劇場」と「東京宝塚劇場」での演目は、「オケピ(オーケストラピット)」内で演奏される生オケに合わせて「お芝居」も「ショー」も進行する。

 指揮者がいて、本当にその場で演奏しているので、もともとの音楽好きならばその点だけでも驚き、あまりのタイミングの正確さにも驚嘆させられるだろう。その他にも、個別の演目の楽曲の魅力についても語りたいのはやまやまなのだが、紙幅も尽きたのでそこはまた別の機会に。

<脚注>
※1)贔屓
オタク用語でいうところの「推し」のこと。宝塚ファンが特定のタカラジェンヌのことを指してそう呼ぶ。

※2)生徒
宝塚歌劇団で団員は女優という呼び方はされず、退団するまで「生徒」と呼ばれる。宝塚歌劇団の一員となるために必ず卒業しなければいけない「宝塚音楽学校」に入学したばかりの生徒は「予科」生、2年目の生徒は「本科」生と呼ばれ、そのへんまでは部外者にもわかるのだが、晴れて入団した1年目の生徒から「研究科1年(研1)」~以降在団年数の分だけ数字が増えていくという風にキャリアを数えられるということはあまり知られていない。また、入団年度が同じ生徒同士は「同期」と呼ばれ、例えば2018年入団の生徒は104期生であるというように、年度と期の数字はつねにイコールで結ばれている。

※3)55分間
「宝塚歌劇」の本公演は、基本的に「90分のお芝居、30分の休憩、60分のショー」で成り立っており、1回劇場に入ると最低3時間はそこで過ごすことになる。これは芝居やミュージカルに慣れた身にも若干長く感じられるボリュームなのだが、すぐれたショーほど60分間(構成上は55分)を体感5分程度しかなく感じられるものであるため、狐につままれたよう。

秋鹿ひろ海

最終更新:11/14(水) 15:20
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