ここから本文です

トラック運転手がハンドルに足を上げて休むのには、やむにやまれぬ事情があった

11/17(土) 8:40配信

HARBOR BUSINESS Online

 「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてもらいたい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。今回は、前回の「トラックが路上に駐停車して休憩する理由」に引き続き、「ドライバーがハンドルに足を上げて休憩する理由」について説明していきたい。

 前回述べた通り、トラックには、路上に駐停車して待機せざるを得ない事情がある(まずはそちらを読んでいただくことをお勧めする)。

 一方、他の一般ドライバーにとっては、こうした「路駐停のトラック」はただの邪魔でしかなく、その存在だけでも大きなストレスになるところ、その車内のドライバーがハンドルに足を上げてふてぶてしく休んでいる姿まで目に入ってくれば、イライラはさらに募ることだろう。

 実は、長距離を走るほとんどの大型トラックの座席後部には、大人1人分の「ベッドスペース」がある。決して広いとは言えないが、大柄な男性でも、横になって睡眠を取るには十分な空間だ。が、それでも彼らは、敢えてあのような足を上げた体勢で休憩を取ることがあるのだ。

 その理由は、「不規則な休憩時間」にある。

 彼らが取れる休憩時間のタイミングや長さは、とにかく悪く、そして短い。

 荷主の元で数時間かけて荷積みをし、搬入先に向けて真夜中の暗闇をひた走る。ようやく気分が乗ってきたころに、トラック業界の労働基準法「改善基準」で義務付けられている「4時間連続走行で30分の休憩」を取るタイミングとなり、先を急ぎたい気持ちを抑えてクルマを停める。

 途中、事故渋滞や交通規制に巻き込まれれば、タイトな時間との戦いに気を揉み、搬入先付近に到着する頃には、睡魔も疲労も限界。が、それらを解消できるほどの休憩時間を取れないまま、搬入先での荷降ろしの時間がやってくるのだ。

 そんな状況の中、わずかな時間の「仮眠」のために、後ろにあるベッドへ体を埋めるとどうなるかは、トラックドライバーでなくても想像に難くないだろう。「寝過ごす」のだ。つまり、疲れ切ったその体には、ベッドはあまりにも快適すぎるのである。

 こうして、休憩時間が短い場合、多くのドライバーが運転席で仮眠を取ることを選択するのだが、その狭く不安定な座席で、最も楽にいられるのが、例の「ハンドルに足を上げた体勢」なのだ。通称、「足上げ」。束の間、アクセルやクラッチから解放された足を、心臓よりも高い位置に置くことで、長時間の着席状態で生じた「浮腫み」を和らげる。

 が、そんな体勢が「快適」であるわけがない。数十分もすれば襲ってくる足のしびれや腰の痛みが、彼らの「目覚まし代わり」になるのだ。

 筆者もトラックを運転していた当時、足の浮腫みには大変悩まされていた。走り始めたらストレッチどころか、立ち上がることすらできなくなるため、手で押して確認するふくらはぎの「パンパン度」は、毎度デスクワーク時以上にひどかった。

 トラックに乗り始めてしばらく経ったある日のこと、あるサービスエリアで毎度仲良くしてくれていたドライバーのおっちゃんたちに「足が浮腫む」とこぼしたところ、「こうすれば幾分楽になるぞ」と、わざわざ実演交えて教えてくれたのが、この「足上げ」だった。女性である手前、彼らのように高々と上げることは憚られたが、両足をハンドルと窓の間に入れ込むだけでも、その違和感は大分和らいだ。

◆ハンドル足上げは、エコノミークラス症候群を防ぐためにも有効

 見た目には決して褒められた格好ではないが、この「足上げ」をトラックドライバーに推奨する専門家も少なくない。というのも、トラックドライバーの習慣には、「エコノミークラス症候群」を引き起こす要素が非常に多いのだ。

 エコノミークラス症候群とは、足や下半身の血流が悪くなり、できた血液の塊(血栓)が肺の血管に詰まる病気で、呼吸困難や胸痛などを引き起こし、最悪の場合は死に至ることもある。東日本大震災時、避難所での突然死や車中死が頻発したことで、国民に広く認知されるようになった病でもある。

 トラックドライバーは、こうした長時間の着席体勢や、慢性的な睡眠不足だけでなく、前回紹介したように、クルマを停められる場所の少なさから、トイレの回数を減らそうと、水分の摂取を抑えたり、眠気防止のために足を温めすぎないようにするなどといった、エコノミークラス症候群を引き起こしかねない独特の「長距離運転対策」を講じることがある。

 そのエコノミークラス症候群の予防の1つが「足を高くして寝ること」なのだ。つまり、ドライバーが楽な体勢として取る「足上げ」は、エコノミークラス症候群予防としても、理に適っているのである。

 しかし、見た目の問題や衛生的観点、さらには「食わせてもらっているハンドルに失礼だ」という企業理念などから、この「足上げ」を禁止する運送業者や荷主も、中には存在する。が、ドライバーとて足上げなどせず、休憩時間くらい後ろのベッドで眠りたいというのが本音である。

「国の血液」とも称される日本のトラックドライバーたちだが、彼らを取り巻く過酷な労働環境や荷主都合主義の風潮、現況に合わないルールやインフラなどといった原因により、こうして十分な休憩や睡眠時間、ひいては健康すら保障されない彼ら自身の体内では、ホンモノの血流が停滞の危機に晒されるという皮肉な現象が起きている。

 さらに、これらの原因は昨今、悲惨な交通事故やドライバー不足などといった「日本の物流の『血栓』」をも生み出し始め、彼らの労働環境をより一層悪化させている。

 こうなればドライバーも、足だって上げたくなる。いや、彼らが上げたいのは、足ではなくもはや“両手”なのかもしれない。

 路上で見る彼らの足上げ姿は、過酷な労働環境の表れだ。

「足上げて寝とると、足でクラクション鳴らしちまって、びっくりして飛び起きるんだよな」と明るく笑い合う、あの頃のおっちゃんたちを思い出す。フロントガラス越しの「足上げ姿」ひとつで、彼らが「サボっている」と単純に誤解されるには、あまりに悲しい背景がそこにはある。

【橋本愛喜】

フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:11/17(土) 8:40
HARBOR BUSINESS Online

あなたにおすすめの記事

Yahoo!ニュースからのお知らせ