ここから本文です

「徴用工」問題、解決策を見つけられない文政権

11/20(火) 12:14配信

Wedge

韓国大法院(最高裁)は10月30日、日本統治時代に動員された韓国人の元「徴用工」4人が新日鉄住金に対し損害賠償を求めた訴訟の差し戻し上告審において、新日鉄住金側の上告を棄却、1人あたり1億ウォン(約1000万円)の賠償を命じた2013年の高裁判決が確定した。

 本件裁判における核心的論点は、「日韓請求権並びに経済協力協定」(1965年の日韓基本条約の付随協定)によって個人の損害賠償請求権が消滅したか否かである。請求権協定の第2条は、「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、(中略)、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定している。しかし、韓国大法院の判決は、以下のような論理で、原告への損害賠償を認めるべきであるとした。

・原告の損害賠償請求権は、日本の不法な植民地支配を前提とする「強制動員の慰謝料請求権」である。

・請求権協定は、日本の不法な植民地支配に対する賠償を請求するための交渉ではなかった。

・日本政府が植民地支配の不法性を認めず、強制動員に対する法的賠償を根本的に否定した中で行われた請求権協定の交渉過程を考えれば、「強制動員の慰謝料請求権」が請求権協定の適用対象に含まれるとはみなし難い。

 今回判決は、国際法にも歴代日韓政府の見解にも違反する、由々しい判決である。韓国の歴代政権は、「徴用工」については請求権協定で解決済みであるとの立場を維持し、盧武鉉政権下では個人補償をする場合の責任は韓国政府にあるとの見解を出した。そして、それに基づき実際に国内支払いが行われている。今回判決はそれと矛盾する。更に今回の裁判の原告は徴用ではなく「募集」に応じた者であることが明らかになっている(国家動員令には「募集」と「官斡旋」、「徴用」があった)。11月1日、安倍総理は衆議院予算委で「徴用工」ではなく「旧朝鮮半島出身労働者」と呼びたい旨答弁した。

 今回判決について、韓国主要紙の社説等は、日韓関係への悪影響を心配するが、具体的な解決策は示していない。解決策など見つからないのだろう。文在寅政権も、従来政府が取ってきた法的な立場と齟齬するので、「立場を整理中」と対応に苦慮しているように見える。韓国における日韓問題が夙(つと)にそうであるように、青瓦台と外務部は当事者能力を失っている。文在寅の青瓦台は黙りを決め込み、知日派の李洛淵首相に丸投げしているのが現状である。そもそも、文在寅の青瓦台は、今回裁判を間接的に促進してきた責任を免れない。文政権までは裁判は止まっていたが、今回判決は、文政権が任命した金命洙大法院長の下で出された。11月9日付けの中央日報(電子版)は、韓国の検察は、「徴用工訴訟」を遅延させた疑いにより、2011年から2014年まで法院行政処長(最高裁判事)を務めた車漢成氏を召還、調査したと報じている。他の法院行政処長経験者も調査する方針だという。

 韓国では、いまだに、日本は歴史を直視すべし、日本は未来志向の「大胆な措置」を執るべし、などといった議論が見られる。しかし、2015年の慰安婦合意は、「大胆な措置」以外の何物でもない。同合意のような内容と提供金額は、当時、日本の国内政治上可能かどうか疑いを持ちえたほどであり、適当かどうかさえ議論の余地があった。そうした日本側の「大胆な措置」が今や文在寅政権によりズタズタにされている。一部に見られる「日本には何をしてもいい」といった風潮をやめ、疲労感のない日韓関係にすべきである。それには韓国の指導者のリーダーシップが不可欠である。

 しかし、文在寅は、8月15日の光復節演説でも明らかなように、親日派を交代すべき旧主流派とみなし、北朝鮮への宥和的姿勢を隠さない、典型的な韓国の進歩派の歴史観の持ち主である(9月10日付け本欄『文大統領の光復節演説に見る進歩派の歴史観』)。10月には、済州島で行われた国際観艦式に際し、海上自衛隊に対し旭日旗(自衛艦旗)の掲揚自粛を要請、日本側がこれを拒否して観艦式に参加しないという事態となった。対北朝鮮戦略では「日米韓の協力により対処」というのが常套句だが、文在寅政権の韓国との関係を修復できる見通しを立てることは難しい。

 ただ、日本側の強い反発に韓国は驚いており、外交上、経済上の影響を懸念する声も上がっている。特に、経済関係の悪化による韓国経済への影響が顕在化するようなことがあれば、文在寅政権への国内の支持が揺らぐ可能性はあるかもしれない。国際法の筋論に加え、そうした面からも、日本政府が進めている、韓国による国際的ルールの軽視を国際社会に広く示していくという強い対応は、適切であると思われる。

岡崎研究所

最終更新:11/20(火) 12:14
Wedge

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊Wedge

株式会社ウェッジ

2018年12月号
11月20日発売

定価500円(税込)

■特集 留学生争奪戦――「金の卵」に群がる産業界と大学
■INF条約破棄 日本は非核三原則に向き合う時
■EU分裂で形勢逆転を狙う英国
■再エネコスト低減の〝幻想〟に終止符を

あなたにおすすめの記事

Yahoo!ニュースからのお知らせ