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待望の「認知症基本法」骨子案を元厚労官僚・精神科医が危ぶむ理由

11/28(水) 6:00配信

ダイヤモンド・オンライン

 介護保険で真正面から取り組まれなかった認知症ケア。その後、認知症本人や家族のつらい状況が理解されるようになり、やっと認知症の人への考え方や基本理念、採るべき方針、政策などに向き合う動きが出てきた。それらを集約させた「認知症基本法」の制定に向け動きが高まってきたのである。

 公明党が9月に「認知症施策推進基本法案・骨子案」を定め、自民党も早ければ年内に独自案を提案する予定だ。来春には与野党の調整を経て、6月頃までには議員立法として通常国会に提出されそうだ。

● 議論のスタート台になる 「公明党骨子案」の内容

 基本法は、その領域の個別法に対して優越的で、「親法」のような地位にある。介護保険法をはじめ介護、医療、福祉の分野の行政諸政策は、基本法の理念や目的などに沿わねばならない。それだけに、一言一句が注目される。

 現在、原子力基本法をはじめ農業基本法、教育基本法など49の基本法がある。

 「認知症基本法」については、公表されている公明党の骨子案が今後の議論のスタート台になる。

 その冒頭で基本法の目的として「認知症に関する施策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにし、並びに認知症施策の推進に関する計画の策定について定める……」とある。

 基本理念としては「認知症施策は……認知症の人がその有する能力に応じ、その意思を尊重し支援を受けられ」と記し、医療・介護サービスなどが「認知症の人の意向に応じ、常に認知症の人の立場に立って行われるよう」と続く。

 次いで、国に基本計画の策定を責務とさせ、自治体に推進計画の策定を促し、地域づくりや認知機能の低下予防、成年後見制度の利用、医療介護サービスの提供、若年性認知症の人の就労促進などの施策を提唱している。

 また、9月21日を認知症の日とし、9月を認知症月間と定める。

 政府がかつて決めた認知症の総合施策「オレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)」と「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」に沿う網羅的な施策を列挙している。「施策推進」という同じ表現を法の名称にしていることからも、両プランの延長線上に位置付けていることがわかる。「施策」を提供する行政が、主役である。

 10月5日には、日本介護福祉士会や日本介護支援専門員協会、全国老人保健施設協会、全国老人福祉施設協議会、日本看護協会など介護医療の関係20団体が、自民党の岸田文雄政調会長に同法の制定を求める要望書を提出した。

● 公明党案は当事者の自己決定権を無視? 認知症の人を主体にした「宮島案」とは

 だが、この公明党案には疑問点や大きな課題がある。「発想の原点が違うのでは」と異論を唱える私案が注目を集めている。元厚労省の官僚だった宮島俊彦さんの「宮島案」である。宮島さんは2008年に厚労省老健局長に就き、介護保険施策の指揮をとってきた。6年前に退官しているが、行政のトップ経験者だけに影響力は大きい。

 宮島さんは「支援のための施策ではなく、認知症の本人の側に立つべき」と説き、「障害者基本法をベースに考えて」私案を作成した。

 認知症と診断されると、周囲から「問題のある人」とみなされ、本人の自主性や自己決定権がないがしろにされがち。そこへ「支援を提供する」こと、つまり施策を講じるというのが公明党案。がん対策基本法や災害対策基本法、自殺対策基本法と同様に「なくすための対策」という発想でいいのだろうか、という疑問が生じる。

 認知症を引き起こす病名はいろいろあるが、その予防策や根治薬はなく、だれでも当事者になる可能性がある。「病気」とみなして医療が関わる「医学モデル」では対応できない。認知症の人の日々の暮らしに着目し、その生活に寄り添う「生活モデル」が今や主流となりつつある。日々の暮らしを阻害する要因を取り払うには、当事者が「普通の人」であることを確認する基本的人権の確立がうたわれねばならないだろう。

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