ここから本文です

「同性婚反対」に傾いた台湾社会の矛盾

12/2(日) 12:15配信

Wedge

 11月23日の夜、台北市のランドマーク101ビルに光り輝いていた「記得投票(投票を忘れずに)」「公民權益(国民の権利と利益)」という文字をまぶしく見上げた。1987年の戒厳令解除以降に民主化が進んだ台湾では、「自分たちが台湾の未来を決める」という当事者意識が高く、自分の一票を行使するために海外からわざわざ帰省する台湾人も少なくない。今回行われた「107年地方公職人員選舉」は通称「九合一選挙」と呼ばれ、全国の県市町村における首長から県・市会議員・町内会長までを決める、日本における統一地方選にあたる。

 11月24日の投票日には、朝から投票所にたくさんの行列ができ、いつもながら民主に対する台湾の人々の意識の高さを感じさせた。激烈な接戦となり翌日未明にまで当確がもつれこんだ台北市長選以外は当日中に開票を終え、与党・民進党の惨敗が明らかになったが、もうひとつ「九合一」選挙で注目されていたのが「公民投票」(国民投票)である。

 2017年の公投法改正で発案のハードルが大幅に引き下げられた結果、10項目もの案が乱立した。我が家にも家人の投票用紙が届いた際、その稀にみる分厚さに驚いたものだが、これらが投票行為を煩雑にし、どの投票所も平均して1~2時間もの待ち時間となった。そうした予想外の状況においても、投票率は66.11%と依然として高く、冷静に自分の「一票」の権利を行使された台湾の方々に、まずは敬意を表したい。

「同性婚」をめぐる5つの投票項目

 選挙結果については、各新聞や専門の方々から詳細な分析が行われているので、この文章では選挙と同時に行われた公民投票、そして特に筆者や筆者の周囲が最も注目していた「同性婚」の立法に関する提議5項目について記したいとおもう。

 まず10項目にも及ぶ公民投票案はいかなる内容で、どういった投票結果となったかを簡単に説明すると、野党・国民党などから提出された近年の大気汚染や食品安全の問題に関する4つの提議は以下の通り。(資料:中央選挙委員会)

第7案 火力発電所を減らす
第8案 火力発電所の新しい建設に反対する
第9案 脱原発法を廃止する
第15案 日本の福島を含む近郊5県からの食品輸入禁止の継続

 この4つは全て同意多数で通過した。また、2020年の東京オリンピックで台湾がこれまでの「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台湾/TAIWAN」という正式名称で参加するという提議(第13案)については、出場停止などのリスクを恐れた運動選手たちの「不同意」への呼びかけも選挙前に行われ、10%の差で未通過となった。

 台湾では、2017年5月に「同性婚を認めないのは違憲」とする台湾の大法官の憲法解釈が出された。東アジアで初めて「同性婚」が法的に認められた台湾社会は、その先進性を国際的に大いにアピールしたものの、これに異を唱えたのが主にキリスト教系団体によって構成された「下一代幸福連盟」である。

 下一代幸福連盟によって提出された公投案は以下の3つ。

第10案 婚姻の提議…民法による婚姻の組み合わせは、一男一女に限る
第11案 義務教育(小学校及び中学校)においてLGBTについての教育を行わない
第12案 民法の規定以外に特別法を制定し、同性同士のパートナーシップ権益を守る

 今回の公民投票は、この3つ全てにおいて「同意」票が「不同意」を大きく上回り通過した。クセモノなのは、この「第12案」である。これは、本来ならば憲法解釈から2年後にあたる2019年の5月以降は自動的に、民法によって「婚姻の自由とその権利」が同性同士にも平等に適用される予定を、特別法の制定によってなし崩しにしようというものだ。結婚に関する法律で一番強力なのが民法であるため、子供の養育や遺産相続について問題が起こった場合、特別法の内容如何によっては当事者の権利が必ずしも平等に行使されるとは限らなくなってしまう。

 ゲイの当事者である知人のひとりは、セクシャリティーのために中学校の時に受けた強烈なイジメ体験を思い出したことをSNS上で吐露していた。また公民投票が行われる前後で、反対派の家族の無理解に絶望し、自殺を図ったLGBTの若者が幾人もいるという話も耳にした。

 一方で、同性婚反対派に対抗する形でLGBT人権団体より提出されたのは以下の2つ。

第14案 民法により、性別にかかわらず婚姻関係を保証する
第15案 義務教育の各段階に見合ったジェンダー・LGBT・性教育を実施する

 この2案については、340万前後の同意票を700万弱の不同意票が上回った。つまり今回の公民投票は、現・蔡英文政権がこの2年のあいだに進めてきた「脱原発」「婚姻平等」「独立主権」というリベラル的な方向性すべてに「NO」を突き付ける結果となった。

1/3ページ

最終更新:12/2(日) 12:15
Wedge

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊Wedge

株式会社ウェッジ

2018年12月号
11月20日発売

定価500円(税込)

■特集 留学生争奪戦――「金の卵」に群がる産業界と大学
■INF条約破棄 日本は非核三原則に向き合う時
■EU分裂で形勢逆転を狙う英国
■再エネコスト低減の〝幻想〟に終止符を

あなたにおすすめの記事