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「結局Brexitってどうなるの?」イギリス政治学者がわかりやすく解説

12/5(水) 19:10配信

クーリエ・ジャポン

11月25日にEUの緊急首脳会議が開催され、イギリスのEU離脱案が正式決定された。いよいよ、イギリスは「Brexit(ブレクジット)」へと進む、と思いきや、難関は議会承認。最終的な採決は11日に控え、苦境に立たされるメイ首相──。いったいどうなっているの? 英政治学者が仏紙の疑問に答える形でわかりやすく回答。

英国ではBrexitをめぐって「離脱派」と「残留派」の間に亀裂が生じている。この亀裂は既存の二大政党の枠組みにはおさまらず、「若者」と「年寄り」、「裕福な地域」と「貧しい地域」を対立させている。英国の政治学者アナンド・メノンが解説する。

──英国でEU離脱の是非を問う国民投票が実施されてから2年半が経ちました。しかし、英国はいまも二分されています。

英国政府はエネルギーのほとんどを離脱交渉に向けています。英国経済の見通しも不透明です。英国のEU離脱は失敗だったのでしょうか。

結論を出すには時期尚早です。Brexitについて評価が下せるのは10年後のことです。すべては英国内の不平等の問題がこれからどのようになるのかにかかっています。国民投票の前から英国社会には亀裂が入っていたのですが、あの国民投票がきっかけでその亀裂に光が当たりました。

それは「若者(離脱に反対)」と「年寄り(離脱に賛成)」の間の亀裂であり、「裕福な地域(離脱に反対)」と「貧しい地域(離脱に賛成)」の間の亀裂です。

Brexitの成否は、英国とEUの通商関係が今後どうなるかという話だけで決まるわけではありません。英国の政治家が、国民投票で「離脱派」が勝利するまでずっと見ないふりをしていた問題に、どのように対処していくのかで決まってくるのです。

10年後の英国社会がいまより平等ならBrexitは成功です。つまり、EUの27ヵ国との交渉結果より、英国政府が今後、どんな政策を打ち出していくのかが重要になってくるわけです。

──テリーザ・メイ首相がEUと合意した離脱協定案ですが、これは英国内のさまざまな声をまとめあげられるものなのでしょうか。

英国内の諸派をまとめあげることは可能です。そもそもこの離脱協定案は、英国とEUの関係を繕うだけでなく、英国内の対立も解消できるように練られています。英国の有権者が求めたのは次の3事項です。

「欧州市民の自由な移動を終わらせること」、「欧州司法裁判所の管轄から外れること」そして「EU予算への分担金の支払いをやめること」。

メイ首相は、まずこの3条件を確保したうえで、英国経済を守ったり、アイルランドに物理的な国境を設けないようにしたりしなければなりませんでした。プラス面とマイナス面を考え合わせると、EUと合意した離脱協定案はそれなりにプラスのものです。いくつかの難題がクリアできそうです。

もちろん残留派にとってはEUに残留できれば、それにこしたことはありません。また、強硬な離脱派にとっても、この案は完全に納得できる内容ではありません。ただ、これは妥協案なのです。英国政府もEUもお互いに譲歩しています。

メイ首相は、英国が関税同盟に残れる基本方針を離脱協定に盛り込めるようにしました。一方、EU側も英国から譲歩を引き出し、将来の通商交渉を非常に優位に進められる立場になりました。


──離脱派は「主権の回復」を約束していました。しかし、EUとの合意を見ると、英国には欧州のルールが何年も適用されるのに、英国はそのルールに何の発言権も持てないことになっています。

2016年の国民投票で約束されていた「主権の回復」が反故にされたということになりませんか。

大半の離脱派にとって大事なのはEUから離れることです。欧州市民が英国に移民として入ってくるのを終わらせたいのです。つまりヒトの移動の自由を終わりにすることです。これは実現できます。その意味ではEUとの合意は国民投票の結果に忠実です。それに離脱派の主張には矛盾があります。

離脱派の一部は保守党に属し、EUの過剰な規制から決別したいと考えています。しかし、離脱派には労働党もいます。労働党の離脱派は、緊縮財政を批判していて、国家の力を回復したいと望んでいるのです。全員を納得させるのは不可能です。

──EU残留を希望する欧州派も、きっぱりとした離脱を求める強硬離脱派も、EUとの合意は主権を侵害するものだと批判しています。

いま残留派と「合意なき離脱」を求める強硬離脱派の間には、奇妙な同盟関係が成り立っています。両方とも英国議会でこの合意文書が批判されてほしいと願っているのです。

残留派は、それをきっかけに二度目の国民投票を実施し、最初の国民投票の結果をひっくり返したいと思っています。一方、強硬離脱派は、議会で可決されなければ、EUとの交渉を妨害でき、「合意なき離脱」へと進めると考えています。

──英国の経済は欧州の経済と密接に結びついています。EUのルールを受け入れなければ、英国の経済を守れません。メイ首相は、そのことを国民に一度も説明してきませんでした。そのせいでEUとの合意が受け入れにくいものになってしまったのではないでしょうか。

この妥協をすることで離脱協定案を締結できたわけです。EUとの交渉はただでさえ緊張したものです。メイ首相が毎度、国民に自分の手の内を明かしていたら交渉はさらに難しくなっていたはずです。ある意味、味方を欺くことで合意に到達できたのです。

──Brexitが21世紀のヨーロッパで初めてのナショナリズムとポピュリズムの勝利といえるのでしょうか。

イタリアをのぞくと西ヨーロッパでポピュリズムが勝利したのはBrexitだけです。欧州諸国では金融危機の衝撃が大きかっただけでなく、欧州の統合や移民問題に対する不満がくすぶっていることなど、共通点がたくさんあります。こうした要因が英国のEU離脱という危機をもたらしました。

加えて英国民はもともとヨーロッパ人というアイデンティティが希薄でした。英国内で移民問題といえばEU圏内から来たニューカマーのことでした。

──アイルランド問題に関しては見て見ぬふりがずいぶん長く続いていました。英国がEUから離脱することでアイルランドの南北統一が加速すると考えますか。

世論調査を見ると、離脱派は北アイルランドを失いかねない事態を軽んじているように思えます。そのような北アイルランド軽視の姿勢が世論に影響を及ぼしています。北アイルランドがイングランドの態度を見てぎょっとしているわけです。

現時点では南のアイルランド共和国は慎重な姿勢を保っていますが、英国がEUから離脱することになれば、アイルランドが南北統一に向かう可能性は高まります。以前からその気運は高まっていました。カトリック系住民の人口の割合が増加していたからです。その趨勢が加速することになります。


──世論調査を見ると英国ではEUへの残留を望む人が僅差で過半数となっています。英国の世論が転換する可能性はあるのでしょうか。

たしかに世論調査では残留派が増えています。これは2016年の国民投票で自分の意見を表明しなかった人、表明できなかった人の声を反映していると思います。しかし、世論が転換したというわけではありません。全体的に見れば、EU離脱の是非に関して意見を変えた人はあまりいません。

Brexitによって英国社会に生じた亀裂は、既存政党の対立軸に沿って走っていません。昨今の英国人は、自分の政治信条を語るとき、「左派」や「右派」とはいわずに、「残留派」や「離脱派」と言うようになっています。残留派は自由主義であり、離脱派は保守主義です。

階級の違いよりも、こちらの対立軸のほうが重視されているのです。これが政界に激震を与えています。既存の二大政党をバラバラにしているわけですからね。

──12月に英国議会がEUとの合意を否決すると、どんなことが起きるのですか。

この離脱協定案以外に過半数を集められる案はありません。先行きが不透明になります。いくつかのシナリオが想定できます。メイ首相が1週間待って、英ポンドを急落させた後、もう一度、採決にかけることが考えられます。そこでポジティブな結果が出るのを望むのです。

内閣不信任案を突き付けられる可能性もありますが、その確率は低いです。今回の「取引」に反対する保守党議員でも、保守党政権を崩壊させるのには躊躇するはずです。なぜなら、彼らは労働党のジェレミー・コービンが権力を握ることを最も恐れているからです。

ちなみに、現状から二度目の国民投票に進む道は、私には見えません。国民投票を実施するための法案を提出できるのは政府だけですが、政府がそれに反対だからです。一方、EUからの「合意なき離脱」も過半数を集められません。

いずれにせよ12月の議会の採決ですべてが決まるわけではありません。離脱協定案が可決されたとしても、2019年1月から、それを具体的に前に進めていくために一連の採決をしなければなりません。修正を盛り込もうとする議員も出てくるかもしれません。

「合意なき離脱」をしない保証を政府に求める動きも出てくるかもしれません。そうなればEUとの交渉がまた始まることになります。

──フランス人のなかには英国がEUからの離脱で混乱しているのを見て喜んでいる人もいるようです。そのことについてはどう思いますか。

気持ちは理解できます。フランスにとって英国はEU加盟国のなかでも厄介なパートナーだったわけですからね。でも、そんな風に考える人は英仏両国が相互依存関係にあることをわかっていません。そのことがわかっていない英国人もいますよね。

両国の経済は固く結ばれていて、一方の繁栄がもう一方の繁栄をも意味するのです。それに英国がEUを離脱した後も、EUには「移民」、「ユーロ」、「東と西の溝」という3つの問題が残ったままです。フランス人も2017年の大統領選ではルペンやメランションというEUに懐疑的な候補にたくさん票を投じたわけです。

結局、そうした候補が当選しなかったのでフランス人は上から目線でBrexitを見ているのかもしれませんが、英仏両国とも同じ病気に悩まされているのです。

選挙で過激な政治家が勝てない仕組みになっていれば安心という話ではありません。不平等の問題を解消していく手段を見つけなければなりません。そうしないと、また別の国にBrexitに似た衝撃が走ることになります。

──英国のメディアではBrexitの危機を、1956年のスエズ危機と比較する論調が目立ちます。(あのときフランスと英国はアメリカの圧力のもと、スエズ運河から撤兵した。

英国はその後、アメリカに接近したが、フランスはEUの建設に取り組んだ。)英国はあのときと同じでヨーロッパかアメリカの二者択一を迫られているのでしょうか。

たしかにいまの状況とスエズ危機は似ています。世界の中で自国の立ち位置をどうすべきかが問われているからです。とはいえスエズ危機のときのほうが、いまよりもはるかに状況は制御されていました。

英国はBrexitの前から「不平等」「政治不信」「スコットランド」「北アイルランド」といった複数の危機に直面していました。Brexitによってその危機が拡大しています。

英国は、いまだかつてなく不安定化している世界の中で、EUの外に自国の居場所を見つけなければなりません。その意味ではスエズ危機のときより課題は重いです。

Philippe Bernard

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