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「日本サッカーの日本語化」はなぜ重要なのか? 23歳のGM林舞輝が訴えたい“ポリバレント論争”が秘める闇

12/7(金) 21:33配信

footballista

去る6月上旬、中島翔哉のW杯メンバー落選をめぐって「ポリバレント論争」というのが起きた。複数ポジションでプレーできるという意味なら、2列目ならどこでもこなせる中島はポリバレントな選手であり、西野監督の落選理由は矛盾しているのではないか――という疑問だ。しかし、そもそも「ポリバレント」という言葉の意味が共有されていないので、議論は空回りするばかり。イングランドやポルトガルで指導者経験を積み、23歳にして奈良クラブのGMに就任することが発表され話題となった林舞輝氏がこの論争で感じた、日本サッカーの発展を阻む闇とは。


文 林 舞輝


 「ポリバレントではなかった」――ポルトガルリーグで昨季10ゴール10アシストを叩き出し、ロシアW杯期待の星として注目されていた中島翔哉の不選出理由を、西野朗元日本代表監督は記者会見でこう述べた。この発言と様々な解釈により、オシム監督が日本サッカー界に輸入した「ポリバレント」というサッカー用語に再びスポットライトが当たることになった。

「ポリバレント」と「ユーティリティ」の違い

 後に西野監督は「ポリバレント」を単に「複数ポジションをこなす」という意味で使っていたことを明言したが、この言葉を好んで使い日本に広めたオシム監督にとっては、おそらく単に「複数ポジションを担える」以上の意味があったと考えられる。

 そもそも、ポリバレント(Polyvalent)は化学の分野で頻繁に使われる用語だ。日本語の専門用語に訳せば「多価」となり、イオンや塩基などの価数が複数あることを示す。他と結合できる手がたくさんある分子構造図を想像していただければ、イメージとしてわかりやすいだろう。語源までさかのぼると、polyはギリシャ語が由来の接頭辞で「多くの」「複数の」という意味を持ち、valentはもともとラテン語で「~の力を持つ」という意味だ。従って、語源からそのまま訳せば、「多くの種類の力を持つ」「複数の価値を持つ」と訳するのがふさわしいように思える。

 この時点で、ポリバレントはいわゆる「ユーティリティ」とは少し違うことがわかるだろう。キーは、「複数の種類での繋がり・組み合わせが可能」ということだ。ただ位置を変えられるというだけでなく、その変化によりその選手の特性の生かし方や他選手との繋がりを変えられる、もっと言えばチームの戦い方そのものを変えられるような選手だ。「多機能型選手」や「多目的型選手」という言い方がそれほど外れない意訳の仕方になるかもしれない。代表的な日本の「ポリバレントな選手」として、オシム監督は阿部、今野、長谷部などの名前を挙げていた(『オシムの戦術』中央公論)。オシム監督はまさにこの点を突き詰めて、ポリバレントな選手たちによる臨機応変・変幻自在なサッカーを目指していたのだろう。

 ちなみに、ポリバレントという言い方は主にロマン語圏や旧ユーゴ地域で使われることが多く、英語(イギリス)ではあまり耳馴染みのない言葉だ。念のためイギリス人のサッカー関係の友人に訊いてみたところあまりピンとこないようで、あるコーチからは「俺にはその言い方はtoo educated(教養が深過ぎる)」と返された。一方、ポルトガルやスペインではよく使われ、周りに訊くと「ポジションを変えることによって複数の機能を果たせる選手」というような趣旨の回答が最も多く、代表的な選手では「キミッヒ」という回答がダントツで多かった。ユーティリティとの違いを訊くと、あくまでユーティリティは「どこでもできる」という範囲でしかなく、どちらかと言うと、チームにケガ人が出た時や主力を休ませたい時にどこでも代わりを務められる使い勝手のいい「ベンチにいたら便利な選手」というようなイメージが強いようだ。代表的なユーティリティ・プレーヤーとして最も多かったのは「ミルナー」という答えだった。

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最終更新:12/7(金) 21:33
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