東野幸治が仲間たちの秘話をつづる連載「この素晴らしき世界」。今週のタイトルは「たぶんもう一生売れない男、リットン調査団藤原(3)」。ライブイベントで藤原さんが、千葉ロッテマリーンズのユニフォームで登場した理由とは。
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バイトをしてはすぐに出世する、リットン調査団藤原光博さんの話の続きです。
藤原さんは現在、横浜の居酒屋でウエイターのアルバイトをしてます。
「テレビ出てないから安心してバイトしてるけど、たまに顔指される~嫌やわ~」
本当に嫌がってるのか嬉しいのかは定かではありません。
まさにちょうどこの原稿を書いている時、藤原さんは新たに掃除のアルバイトも始めたそうです。後輩でパタパタママというコンビの木下貴信君は清掃会社をしていて、タレントの仕事だけでは食べていけない仲間をアルバイトとして雇っています。急な仕事が入ったらバイトを休んでもOKなので、タレント側としてはありがたいそうです。
木下君がツイッターで教えてくれました。
〈本日よりリットン調査団藤原さんが働くことになりました。大変丁寧に鏡を拭いておられて恐縮でした。30年後輩の若手に鏡の拭き方を指導してもらっているレジェンドの姿は美しかったです。〉
……なによりです!
そんな藤原さんも、東京に進出した際、メンタルをやられた事がありました。尊敬するジャイアント馬場さんが亡くなった時です。
「バイトも手につかへんし、呑んだくれて、自暴自棄になって泣いてたわ~」
確かにプロレスが好きなのは知っていましたが、「馬場さん死んだのは悲しいかも知れへんけどそこまでなるか?」というのが私の正直な感想でした。さらに藤原さんは大真面目に続けます。
「そしたら、ある日夜中に目が覚めてん。そしてベランダ見たら馬場さんが立ってんねん。馬場さんに『馬場さん!』て泣きながら抱きついたら、馬場さんが『アンタいつまで泣いてるんだい。俺は生きてるよ』って言われてん。それで立ち直ったわ~」
よくわからない話ですが、藤原さんが本気でそう思っていることは伝わってきました。けれど、どこまで本気なのか? もしかして本当に病んでいるのかも? こういう場合は問い詰めないほうがいいだろう。とにかく藤原さんが元気になったから良かった……。
藤原さんが千葉ロッテマリーンズのファンというのは我々芸人の間では有名な話なのですが、LIVE STANDという吉本芸人が全員出演するイベントが千葉の幕張メッセであった時のこと。出演者は皆、揃いのTシャツで登場したのに、藤原さんだけなぜかロッテのユニフォームのTシャツを着て参加したのです。
「なぜだ? ベテラン芸人は好きなTシャツを着てOKなのか? それともヤケクソになっているのか?」
若手芸人達が恐る恐る聞くと「ロッテの試合の帰りにちょっと寄っただけ」と言われ、みんなズッコケました。吉本芸人が全員出演するイベントに、リットン調査団が呼ばれてなかっただけでした(その理由は分かりません、聞かないで下さい)。
藤原さんは相撲好きとしても有名です。貴乃花が横綱だった時のこと、稽古をプライベートで見学していたらたまたま横綱に密着中のドキュメント番組に映り込み、そのまま放送されたこともあったそうです。
同期の我々はデビューした頃、ほとんどの仕事で一緒になりました。ウケたりスベったり、試行錯誤しながら頑張っていた時、こんな約束をしました。
「藤原さん。5年後どっちが売れているか勝負しましょう! 売れてない方が売れている方に千円払うってどうですか?」と何気ない提案でした。(続く)
東野幸治(ひがしの・こうじ)
1967年生まれ。兵庫県出身。東西問わずテレビを中心に活躍中。著書に『泥の家族』『この間。』がある。
「週刊新潮」2018年11月29日号 掲載
新潮社
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