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フランスで続く大規模デモを収拾できない、マクロン大統領の“金持ち優遇政策”

2018/12/24(月) 8:31配信

HARBOR BUSINESS Online

 フランス革命時に民衆が蜂起したとき、、マリーアントワネットは「パンがなければケーキを食べれば良いではないか」と言い放ったというのはよく知られた逸話だ。だが、これは史実ではないようだ。

⇒【画像】立ち上がれフランスのニコラ=デュポン=エニャン党首

 いま、フランスでは革命時のような蜂起が起きている。それに対して、エマニュエル=マクロン大統領の対策は、マリーアントワネットのような呑気さだ。いま、フランスで何が起きているのだろうか。

 フランスでは11月から毎週土曜日に、全国規模のデモが起きている。黄色いベストを着ていることから「黄色いベスト運動」と呼ばれている。キッカケになったのは、マクロン大統領が来年1月から燃料税を増税するという政策だ。

 マクロン大統領は地球温暖化対策でエコカーを普及させるべく、来年1月から軽油やガソリンなどの増税を行おうとしたのだ。これはマクロン大統領の大統領選挙の公約だ。マクロン氏は「2040年までにガソリン車やディーゼル車を廃止して、電気自動車と水素自動車にする」と約束した。

◆マクロン大統領の“金持ち優遇策”と“大衆課税”

 エコカーの転換のために、ガソリンや軽油への税金を上げる。つまり、環境税として持ち上がったのがなぜにここまで混乱を引き起こしてしまったのか。オランド政権で与党だった環境政党「欧州エコロジー=緑の党」のダビッド=コマン党首が解説する。

「私たちは環境税そのものには賛成ですが、今回のマクロン大統領のやり方はいただけない。マクロン大統領は左翼政権だったオランド大統領の下で、経済産業大臣を約2年間、務めました。本来の彼の政治姿勢は中道左派で、低所得層のための政治をするように見えました。

 しかし、当選後に方向転換してしまった。マクロン政権が誕生した当初は中道勢力に勢いがあり、マクロン大統領としてもその勢いを取り込むために中道的な政策を打ち出した。ですが、今のマクロン大統領は変わってしまった。

 例えば、彼が首相に任命したのはエドゥワード=フィリップ氏です。彼はフランス保守の重鎮として知られ、ジャック=シラク元大統領の最側近だったアラン=ジュペ元首相(国民運動連合初代総裁)の愛弟子で、緊縮・増税路線派です。社会保障政策で貧困層にとって負担増となる方針も出していますから、今や右寄りの政治姿勢に傾いています。

 オランド政権が真っ先にやったのは、富裕層の所得税を75%にまであげて、富める者から税をとり、貧困に苦しむ人たちに還元するということでした。しかし、憲法会議が所得税75%を『違憲』と判断したために実現できなかった。

 一方、マクロン氏はどうでしょうか。2018年から富裕税(ISF)を不動産富裕税(IFI)に転換しました。これは富裕層への減税です。債券からの収入(インカムゲイン)への課税を30%に一律課税とすることも実施しました。最高税率が60%でしたから、これも富裕層優先です。

 だから、『マクロンは金持ちの味方だ』と言われました。燃料税増税がこれだけ盛り上がるのは、マクロン氏が貧困層には目を向けず、金持ちを優遇してきたからです」

 つまり、金持ち優遇政策を推進してきたから、環境税としての燃料税の値上げが大衆課税だと思われてしまったのだ。

◆仏デモで約1400人拘束、135人が負傷

 マクロン大統領は当初、2019年1月1日から燃料税増税を強行するつもりだった。しかし、生活への負担増に抗議する「黄色いベスト運動」という庶民による自発的な大規模デモが勃発し、広がりをうけたために、マクロン政権は12月4日に6か月間の延期を表明した。しかし反対運動が収まる気配は見られず、12月5日に燃料税の値上げの中止を発表した。

 エドゥアール=フィリップ首相は12月5日、国民議会で「政府は対話の用意がある。2019年予算から増税は取り下げられた」と表明した。大統領府も「ほかの解決策や環境問題に対応する財源を、別途見いだすことになるだろう」と説明した。政府は燃料税の値上げの中止と車検制度見直しの6か月延長などを表明したが、運動の呼びかけ人の多くが「不十分」と反発。予告したとおり12月8日にもデモを実施した。

 フランスで12月8日に行われたマクロン政権に抗議する大規模デモで、クリストフ=カスタネール内相は同日夜、全土で治安部隊を含む135人が負傷し、1385人が拘束されたと発表した。拘束者数は、一連のデモでは最多だった。

 参加者は警察発表によるとフランス全体で12万5000人、パリでは1万人に上った。デモ隊の一部は車両やタイヤに放火するなど暴徒化し、警官隊がゴム弾や放水銃、催涙ガスで鎮圧を図った。シャンゼリーゼ通り沿いの店舗はのきなみ破壊し尽くされ、略奪を受けた。

 パリでは12月1日の抗議デモが過去数十年で最悪の暴動に発展していたことから、8日は約8000人の警官が出動し、エッフェル塔などの名所や地下鉄駅を閉鎖するなど厳戒態勢が敷かれた。フィリップ首相によると、当局は全国に計8万9000人の治安部隊を展開したが、抗議者の暴徒化を防ぐことはできなかった。

 この事態を受けて、記者会見したフィリップ首相は「(マクロン)大統領が近く意見を表明し、(市民との)対話を推進する方策を提案する」と述べた。

◆マクロン大統領がテレビ演説、最低賃金の月額1万3000円アップを約束

 マクロン大統領は12月10日にテレビ演説を行い、過熱するデモについて自身の責任を認めた。また「経済的・社会的な非常事態だ」と宣言。低所得者への配慮として、2019年から最低賃金を月100ユーロ上げる政策を発表。

 さらに「残業代や賞与を非課税にする」「企業に対して、できる限り年末ボーナスを従業員に支給するよう要求する」など大幅な「譲歩案」を打ち出した。フランスの月額最低賃金は手取りで1185ユーロ(15万2000円)。100ユーロあげるということは、日本円にして約1万3000円となる。

 マクロン大統領のこの政策を「立ち上がれフランス」党首のニコラ=デュポン=エニャン下院議員は次のように批判する。

「“焼け石に水”程度の効果しかない。親グローバリズム、富裕層優先といった政策はまったく変わっていない。私たちはマクロン大統領の辞任を求めていきたいと思います」

◆審判は来年5月の欧州議会議員選挙

「マクロン氏が有権者の審判を受けるのは、2019年5月に実施される欧州議会議員選挙だ」と指摘するのは、フランス政治が専門の研究者・藤谷和廣氏。

「欧州議会議員選挙は完全比例制。政党の支持率が議席にほぼ正確に反映されます。マクロン大統領は政権発足時に63%あった支持率が、オランド政権の末期と同じ23%にまで落ちた。『分断を修復する』と宣言して大統領に就任したにもかかわらず、極右の伸長を許した1980年代の社会党と同じ轍を踏んでいます。

 また、マクロン大統領が環境税を目指したのは、マクロンの支持層は高学歴・高収入で都市部に住むエリート。増税の負担感は少なく、それよりも環境の方が重要だと考えています。増税撤回は妥当な判断だと思います。

 極右のマリーヌ=ルペン『国民連合』党首や急進左派のジャン=リュック=メランション『服従しないフランス』の支持層はしょうがないとしても、より穏健な層が完全にマクロン離れを起こすと、いよいよフランス社会が危うくなります。マクロン大統領は失業率を7%まで下げると公約しましたが、企業の租税負担軽減をこのまま進める限り、雇用の回復は望めません。

 失業保険の拡充などセーフティネットを確保するしかありません。グローバル化時代を生き抜くにはそれもやむをえないという主張は分かります。あれもこれも高い目標を設定するのではなく、犠牲となってしまう部分についてしっかり国民に説明する姿勢が大切だと思います」

 世論調査でマクロン与党の共和国前進に投票すると答えたのは、本年5月では33%で、極右の国民連合は12%だった。それが、11月の調査で共和国前進に投票すると答えたのは18%で、国民連合は24%と追い抜かれてしまった。

 他党の支持率を上位からあげると、サルコジ与党だった共和党が11%、服従しないフランスが9%、欧州エコロジー=緑の党が8%、立ち上がれフランスも8%、オランド与党だった社会党が4.5%となっている。世論調査を見る限り、共和国前進は日を追うごとに支持率を下げている。はたして、マクロン大統領は今後の政治行動で状況を変えられるのか。それともこのまま没落していくのか。審判は2019年5月に下される。

<文/及川健二(日仏共同テレビ局France10日本支局長)>

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最終更新:2018/12/24(月) 8:31
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