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“黄金世代”ベトナム、スズキカップ制覇で視線はアジア杯へ。栄光までの軌跡を辿る

2018/12/29(土) 11:31配信

フットボールチャンネル

 東南アジア王者を決定するAFFスズキカップが行われ、ベトナム代表が実に10年ぶりの優勝を果たした。そんな新チャンピオンに輝いた同国代表チームの視線は、すでに来年1月に開催されるアジアカップへと向いている。(取材・文:宇佐美淳【ベトナム】)

●日本人にも衝撃を与えたベトナムの成長ぶり

 サッカーの東南アジア王者を決定する2年に一度のAFFスズキカップは、前評判が高かったベトナム代表の2度目の優勝で幕を閉じた。東南アジアでは強豪と見做されるベトナムだが、スズキカップ優勝は、“ベトナムの英雄”レ・コン・ビンが印象的な活躍をした2008年大会以来で、実に10年ぶりのことだ。

 今回は、熱戦が続いた今大会のベトナム優勝までの軌跡を振り返ってみよう。

 AFFスズキカップには、オーストラリアを除く、ASEANサッカー連盟(AFF)加盟国の11か国が参加。まず過去の2大会で成績が低かった2か国で予選を行い、本大会には、この勝者を含めた計10か国が出場。

 出場国数がこれまでの8か国から10か国に拡大したほか、グループリーグで特定の開催国を設定せず、ホーム&アウェイ(ホーム2回、アウェイ2回)とするなど、今大会から一部レギュレーションの変更があった。

 “ベトナムのメッシ”ことFWグエン・コン・フオン(元水戸)を筆頭とする“コン・フオン世代”、その一つ下の年代で、2017年にU-20ワールドカップ初出場を果たしたMFグエン・クアン・ハイやDFドアン・バン・ハウらを擁する現在のベトナム代表は、“黄金世代”の呼び声も高く、彼らを中心とするU-23代表は2018年に、AFC U-23選手権で準優勝、アジア大会でベスト4に進出するなど躍進。スズキカップでも優勝候補の筆頭と考えられていた。

 因みに、AFC U-23選手権では、日本はベスト8止まり。アジア大会では、準優勝の日本(U-21)の方が最終成績で上回ったが、グループリーグでベトナムと対戦した時は、日本がベトナムに完敗しており、多くの日本人サッカー関係者がベトナムの急成長ぶりに衝撃を受けていた。

●不気味なフィリピンを退け鬼門突破

 2018年の締め括りとなったスズキカップは、ベトナムが最も重要視する国際大会。ベトナムは、グループリーグ初戦で格下ラオスに敵地で3-0の快勝を収めると、ホーム開幕戦となった2戦目では、強敵マレーシアに2-0の勝利。

 続く3戦目は、こちらも3年前のU-20ワールドカップに初出場するなど躍進著しいミャンマーと敵地でスコアレスドロー。4戦目は、本田圭佑GM兼実質監督の就任で話題となったカンボジアをホームで迎え撃ち、これを3-0で一蹴。グループ1位で準決勝に駒を進めた。

 特筆すべきは、ロシア出身のGKダン・バン・ラムを中心とした鉄壁の守備で、この時点で大会唯一の無失点をキープ。

 快進撃で国中が盛り上がる中、ベトナム代表を率いる韓国人指揮官のパク・ハンソは、常に冷静沈着だった。歴史を紐解いてみれば、ベトナムにとっての鬼門が、まさに準決勝であることが分かる。

 前回大会のインドネシアとの対戦では、規定の2試合を終えても決着がつかず延長戦の末に惜敗、日本人指揮官の三浦俊也監督が率いた前々回大会では、1stレグで先勝しながらも2ndレグで守備が崩壊して、2大会連続でベスト4敗退を喫している。パク監督は記者会見で報道陣に対し、過去の教訓を思い出すよう再三忠告しており、楽観視することはできないと述べていた。

 今大会の準決勝の相手はフィリピン代表。通称の“アスカルズ”は、タガログ語で雑種の野犬を意味するが、実際のチームも海外出身の混血選手でスタメンを固めており、東南アジアでも異色のチームと言える。

 大会直前、指揮官に名将エリクソン監督が就任したことで、ダークホースとして注目を集めていた存在だった。ベトナムは、この不気味なフィリピン相手に、まずは敵地での1st レグで2-1の勝利。大きなアドバンテージを得て臨んだホームでの2ndレグも2-1で勝ち切り、10年ぶりの決勝進出を果たした。

●完全アウェイでもベトナムは屈せず

 そして迎えた運命の決勝戦。対戦相手はグループリーグで一度下したマレーシアとなった。

 マレーシアは、MFチャナティップ・ソングラシン(札幌)やFWティーラシン・デーンダー(広島)、DFティーラトン・ブンマタン(神戸)など海外組が不参加だった王者タイを相手に、ホームでスコアレスドロー、アウェイで2-2の引き分け。アウェイゴール差という僅差で決勝に駒を進めてきた。

 多くのベトナムサポーターが望んでいた宿敵タイとの頂上対決こそ実現しなかったが、ホーム&アウェイで戦うことを考えると、マレーシアほど嫌な相手はいないかもしれない。マレーシアの本拠地ブキット・ジャルリ国立競技場は、東南アジア最大の収容能力を誇り、ベトナムは決勝1stレグで、8万人以上のアウェイサポーターの前で戦わなければならない。

 実際、大会3連覇を狙ったタイもマレーシアのホームゲームでは、防戦一方の展開となり、ただひたすら耐えるだけの時間が続いた。

 公式記録によると、今大会の決勝1stレグは8万8482人の観客を動員。完全アウェイの中、ベトナムは2点を先行する素晴らしい立ち上がりを見せたが、その後は、徐々にマレーシアの圧力に押されるようになり、同点に追いつかれて2-2で試合を終えた。

 引き分けたとはいえ、アウェイゴールで優位に立ったベトナムは、本拠地ミーディン国立競技場で行われた2ndレグでも序盤から積極的な姿勢を見せ、開始早々に見事な連係プレーから先制。

 その後は、逆転を目指すマレーシアの猛攻を受けたが、虎の子の1点を守り切り、1-0で完封勝ち。2試合合計3-2でマレーシアを下し、10年ぶりの東南アジア王者に返り咲いた。

●海外メディアが注目した選手とは?

 大会を通して抜群の安定感を見せた守備が印象的だったが、攻撃陣では、やはり今大会のMVPに輝いたグエン・クアン・ハイが圧倒的な存在感を放っていた。全8試合にフル出場して3ゴール2アシストを記録。

 大会を取材した、ある欧州の評論家は、狭いスペースでもボールを失わず、味方に正確なパスを供給でき、さらに守備力も高いことから、グエン・クアン・ハイを“ベトナムのシャビ”と称した。

 グエン・クアン・ハイのもとには、これまでに日本、韓国、タイ、南米などのクラブから獲得オファーがあったが、スズキカップの活躍でまた株を上げたため、争奪戦は一層激しいものになりそうだ。

 東南アジア全土が熱狂したスズキカップは、こうして幕を閉じたが、新チャンピオンとなったベトナム代表の選手たちは、ほとんど休む間もなく、2019年1月にUAEで開幕するAFCアジアカップに向けたキャンプをスタートさせた。

 今回のアジアカップには、ベトナムの他、タイとフィリピンの東南アジア3か国が予選を勝ち抜いて、本大会に出場する。

 スズキカップで、鎬を削ったライバルたちも、ジャイアントキリングを虎視眈々と狙っている。次の舞台はアジア。飛躍を遂げたベトナムがどんな戦いを見せてくれるのか、大いに注目したい。

(取材・文:宇佐美淳【ベトナム】)

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