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眼の前の「モノ」を大切にするところから、社会は変えられる

1/2(水) 15:31配信

HARBOR BUSINESS Online

 モノには魂が宿る、のかもしれない。俺には不思議なものを見たり感じたり、という能力はない。がしかし、そうであるのではないか、と思うことは多々ある。皆さんにもそういう経験があるのでは? オーガニック・バー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」を2018年3月に閉める際、2018年9月から時折「たまTSUKI アゲイン」としてオープンして11月に完全閉店した際、不思議な経験をした。

◆閉業した翌日、レジは壊れた

 まずは2018年3月末日で閉店した翌日と翌々日のこと。開店時から使っていたレジスターと電子レンジが、動かなくなった。

 レジスターがないとお客様のお勘定(精算)に手間と時間がかかってしまう。日々や月々の売り上げの把握、さらには確定申告する際にも、手間と計算が膨大になる。当たり前だが、店になくてはならないものだった。

 それが3月31日に営業が終わって、翌日4月1日に動かなくなったのである。電源が入らないレジスターの中にはいつもお釣りで用意している小銭やお札が合計3万円入っていた。必死に開けて3万円を回収した(笑)。

 電子レンジは、当店が開業する以前にここで営業していた方が残していってくれたもの。電子レンジというものは、電磁波を利用して食べ物に熱を与えるが、その過程で食べ物自体の分子構造が破壊されて健康に良くない、と思っているので使用頻度は少なくしていた。

 とはいえ忙しい時はどうしても使わないと早く出せないメニューもあったので、あるものは壊れるまではありがたく使わしてもらおう、という想いで使ってきた。終業2日目の4月2日、電子レンジの中を掃除しようと思ったら、動かなくなっていた。

 3月に1回閉じた店だったが、9月から事情により「たまTSUKIアゲイン」と題して、週に1~2回店を開けた。そして11月末日をもって完全閉業した。その折りにも、長年動いてきてくれた機器が動かなくなった。

 まずは給湯器。そして業務用冷蔵庫。業務用冷蔵庫は「コールドテーブル」と言われているもので、調理台を兼ねている重要なものだ。彼らも、3月の閉業まで踏ん張ってくれていたのだろうが「たまTSUKIアゲイン」の3か月は耐え切れなかったのだろう。俺のために、懸命に自らの使命を果たすべく長い寿命を全うして生きてくれた。

◆意思があるとしか思えない、健気なモノたち

 レジスターも電子レンジも、給湯器も冷蔵庫も、詳しい人に聞く限り耐用年数を充分に超えていた。いつ壊れてもおかしくない状況だった。なのに14年ずっと動いてくれたのだ。俺がこの店を終わるまで老体にムチを打って頑張って動いてくれていたとしか思えない。

 時折、調子が悪くなって「もうオイラ、ダメだ!」という気配が何度もあったが、それでも、動いてきてくれてきた。なんて健気(けなげ)なんだろう。特に、レジスターと電子レンジの、閉業に合わせた逝き方には、あっぱれ!

 彼らに意思があるとしか思えない。魂があるとしか思えない。きっとあるのだろうと信じる。だから、サヨナラする時は感謝の気持ちを込め、掃除をして送り出した。丁寧に処理してくれる知人の業者に、ちゃんと料金を払って引き取ってもらった。

 皆さんも、車やパソコンや日常を共にするもので、同じような経験をしているはずだ。俺も、店の機器だけでなく、そういう経験をたくさんしてきた。買い換えようと思ったら壊れるとか、逆に調子よくなるとか。新しい商品が届いた瞬間、古いものが動かなくなるとか。車が、自分の気持ちを反映するとか。

 だからこそ、モノを長く大切に使うことが大切だ。モノに感謝し、日々折々その気持ちをモノに伝えることも大事だ。手放す時、最大の礼を尽くしてサヨナラすることも大事だ。俺はそう思うし、そうしてきた。

◆使い捨てが蔓延した社会で、ヒトは逆襲される

 すべてのモノには魂がある。すべてのものに神が宿る。それが真実かはわからない。しかし、そう思うことによって、モノとの交流が始まり、友となり、感謝の念が生まれ、モノは長生きし、持ち主の心が豊かになる。

 そしてもう一つ、いちばん重要なこと。人類が生き残って行くための持続可能な環境をかろうじてでも保持して行くためにも、「すべてのモノには魂がある」という精神性を俺たちは取り戻さなければいけないなのではないか。

 モノを大切にすることの対極は、使い捨て文化だ。ビニール袋、ペットボトル、缶、割り箸、俺たちはそれらが当たり前と思うようになってしまった。必ずしっぺ返しを食らう。海に捨てられるプラスチック類で海洋生物が危機に瀕するだけでなく、食物連鎖の帰結としてマイクロプラスチックが人間の体にも蓄積されていることが明らかになってきた。温暖化の脅威はその最たるものだろう。今年の夏の異常な暑さや災害、世界中で起こった異常気象を鑑みれば、明らかだ。

 電気だって使い捨て。必要ない電気が使われ続ける産業構造。分かりやすいところでは、夜も煌々と光る広告ネオンも一つの例だ。でっかいネオン広告を見て「あ、買いたい」とか「企業イメージ、いいね」と思う人がどれだけいるのだろうか。

 そのために未来世代に残さねばならない石油や石炭を使い、温暖化を進め、時には危険な原発で発電せねばならない要素になり、何の意味があるのか。新幹線と平行に走らせるリニア新幹線もそうだ。自然を壊し、地中深く深く長い長いトンネルや地中の駅などを作り、新幹線の3倍の電気を要するので浜岡原発が必要だとの名目になる。リニアで電気は使い捨てにされ、今ある新幹線も使い捨てされるベクトルになる。

 ヒトも使い捨てにされる時代になった。派遣労働、請負労働、それだけでなく、外国人労働者の受け入れも強引に決まった。人件費を下げたい経済界の要請からであり、利益効率のためで、そこには人権は考慮されない。日本人の賃金も値下げ競争にさらされる。

◆「経済効果」の名のもとに、押しつけられる負担

 東京オリンピックだ、大阪万博だ、と騒ぐが、それも使い捨てだ。それを名目に、巨額を投じて無駄なモノを作る。たいてい、その後に赤字になる。借金や維持費で自治体や住民に大きな負担が残る。使い道は限られ、無駄になる。

 その過ち、散々と繰り返してきているではないか。新国立競技場の建設のために、使えるのに壊された旧国立競技場や周辺の建物。新たに作るための木材調達で、マレーシアのサラワクの森の木々が乱伐され、森を糧として生きる現地の人々が困惑し、反対している。温暖化の危機の中で、森をなぜ切るのか。

 経済効果、などというお題目に騙されてはいけない。その一瞬だけ一時期だけを切り取れば効果があるだろうが、そのお金が住民や地域に還元されるわけでもなく、資本家や大企業やコンサルティングに吸い取られるだけだ。

 その後の後始末のマイナスは考慮されていない。経済効果とは目に見えない効果と裏腹で、目に見えるモノは使い捨てになることが前提なわけだ。

◆モノは大切にすればするほど、ヒトに報いてくれる

 人口減少と環境の時代において、新たに生み出すものは大切に長く使い、循環させる。今あるものは大切に維持メンテナンスし、ニーズが小さくなれば減築する。必要なくなるものや壊すものも小さくしてリユースする。

「常に新しいものを!」なんて考えなくても、そうした技術や経験で充分に経済は回るし、それは地域の中小事業が担えるし、ブルーオーシャンで次の時代の世界市場を先導できる。人々は今より安心で豊かになり、人類が生き延びてゆける。

「経済成長の名のもとで新しいものは常に古くなり、モノもヒトも役割がなくなれば使い捨てされる」という宿命は逆転する。経済成熟の名のもとで「古いものが常にリニューアルで生まれ変わる」という価値観になり、なんでも誰でも大切にされる社会になる。どっちが豊かだと思う?

 韓国やニュージーランドは2018年、レジ袋の禁止を発表した。欧州議会では、使い捨てプラスチック禁止法案が可決された。すでに規制を導入済みの国・地域が、少なくとも67に上るとの調査結果を国連環境計画(UNEP)が出している。アメリカ、インド、エチオピア、オーストラリア、モロッコ、タスマニア、フランス……そうした国々の各自治体で取り組みが始まっている。

 1人当たりのプラスチックゴミの排出量が世界で2番目に多い日本。政府は「プラスチック資源循環戦略」を打ち出したものの、経済界に配慮した及び腰で実効性が疑わしい。そんな中、京都の亀岡市で「レジ袋禁止」条例が制定されるという朗報が入った(紙袋OKなのが気になるが)。

 俺らから、小さな地域から、世界は変えられる。コンビニで袋を断わろう。電気をこまめに消そう。今使っているモノたちやそばにあるモノたちを大切にし、愛着を持ち、感謝し、壊れてもメンテナンスや修復を施し、長く長く使おう。

 最後は、必要な人に差し上げたり、リユースしたり、できるだけ世の中に役だつように配慮してサヨナラしよう。やってみればわかる。その方が経済的にも良いと肌感覚で納得する。何より、大切にすればするほど、モノたちも魂をもってアナタに喜びと豊さを贈ってくれるはずだから。

【たまTSUKI物語 第12回】

<文/髙坂勝>

1970年生まれ。30歳で大手企業を退社、1人で営む小さなオーガニックバーを開店。今年3月に閉店し、現在は千葉県匝瑳市で「脱会社・脱消費・脱東京」をテーマに、さまざまな試みを行っている。著書に『次の時代を、先に生きる~まだ成長しなければ、ダメだと思っている君へ』(ワニブックス)など

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