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M・ナイト・シャマラン、転落からの復活「自分はただ、そこに絵があると信じさえすればいい」

1/3(木) 11:45配信

Rolling Stone Japan

私財を投げ打って撮影した『スプリット』の成功

シャマランの制作会社の壁には、『ヴィジット』を却下した全映画関係者の名前を記載した紙が張ってある。監督曰く、彼らのほとんどはその後失業したという。「このリストは僕にとっていろんな意味があるんだ」とシャマランは語る。「(名前を)書いたばかりの頃は、『それみたことか』という意味。それから少しずつ意味合いが変わっていって、リスト上の名前が次から次へと消えていくうちに、もうそういう気分にしがみつくこともなくなった。このリストを見て、承認欲求を満たそうとするなんて不健康じゃないか。リストに載っている人々は何も悪くない。彼らのハートに火を点けるのが、僕の仕事なんだから」

彼はさらに賭けに出て、再び私財を投げ打って次回作『スプリット』を撮影した。今回の制作費は900万ドル。リリースするやヒットを飛ばし、あっという間に元をとって、全世界で2億8000万ドルの興行収入をあげた。『スプリット』は、ケヴィン・ウェンデル・クラムと名乗るシリアルキラーを、不気味に、かつ見どころたっぷりに描いた物語。ジェームズ・マカヴォイが多重人格者を見事に演じ分けた。お得意の「この映画はあなたの予想を裏切ります」的なヒネリを長年封印してきたシャマラン監督は、『ヴィジット』でこれを復活させ、『スプリット』ではさらに進化させた(以下ネタバレあり)。

この映画には2つのヒネリが仕掛けてある。映画をまだご覧になっていない方には申し訳ないが、少々ネタバレするとしよう。まず、マカヴォイ演じる人物は単なる精神病者ではないことが判明する。彼のもっとも恐ろしい人格ザ・ビーストは、超人的な力の持ち主。映画のジャンルそのものが、サイコスリラーから史上最強の悪役誕生ストーリーへと変わるのだ。さらに終盤で、前触れもなく『アンブレイカブル』のサントラがいきなり流れ始め、ブルース・ウィルス演じるヒーロー役がなんと17年ぶりにスクリーン上に登場する。

その瞬間、『スプリット』はおそらくハリウッド史上初の隠れ続編となり、『ミスター・ガラス』へのお膳立てをした。ウィリスの登場は、ジャクソンはもちろん、ユニバーサルのお偉方にとっても寝耳に水だった。彼らが心配していたのは、もともと競合会社であるディズニーに属していたキャラクターだということ――。だが、シャマラン監督はすでにディズニーとカメオ出演の契約を結んでおり、そのため『ミスター・ガラス』の劇場公開プランはユニークなものとなった。ユニバーサルは全米での配給を、海外配給はディズニーが担当する。両社ともこの映画のために、他の超大作の公開予定日を空けてくれた。5年間、映画監督として干された身には申し分ない条件だ。

シャマランは『ミスター・ガラス』で三度賭けに出た。前作2作の稼ぎはもちろん、所有地を抵当に入れて製作費に充てた。一部の報道によれば、制作予算は2000万ドルともいわれている。「バカじゃないかって?」と、監督は笑みを浮かべながらいった。「ベガスに行って、『この手で勝ったんだ、次も全額賭けるよ』、その次も『全額賭けるよ』って言い続けるみたいなものだね。自宅はいま完全にこの映画でがんじがらめさ……もし1月にこの映画が上手くいかなかったら、君んちのカウチで寝泊まりさせてもらおうかな」

もしシャマランがキャリアの方向を修正できたとすれば、彼が正しいエネルギーを宇宙に向けて注ぎ、正しい物事に集中したからだと、本人は信じている(もし、人生や芸能生活において彼が一風変わった精神世界に傾倒しているとすれば、ヒンドゥー教の家庭に育ちながら、カトリックの寄宿学校に通っていた経験に由来しているかもしれない)。「もし僕が作曲家なら、曲に集中するだろ」と監督。「わざわざエネルギーを費やして『お客に曲がどううけるか?』なんてコラムを書いたりしないよ」、さらに彼はこう続けた。「僕は自分の全てを注いだ。観客はお金を払って、全財産を注ぎ込んで全てを賭けたアーティストを目にするんだ。駆け出しのときみたいだったよ。全額つぎ込んで、撮影現場でそわそわしてるうちに朝が明けてきてさ。トレーラーなんかないから、凍え死にそうになりながら、『これで十分かな? いまのカットは上手くいったかな? 完成できるかな?』と思いをめぐらせる。こういうことすべてが、最高の自分を引き出してくれるんだ。もしうまく行かなくても、全てを過ぎ込んでいるわけだから、それだけでも十分だよ」

できることなら昔に戻って、「『アンブレイカブル』公開直後、カウチに寝そべりながら、(『シックス・センス』ほどの興行収入をあげられなかったから)失敗作だったかな、と思い悩んでいた若い頃の自分」に、きっといつかその思いは報われると言ってやりたい、というのが彼の願いだ。

おそらくシャマランにとって最も重要なことは、彼が映画人としてのアイデンティティを取り戻したということだ。彼曰く、20代の頃は「一生スリラー映画を作っていくのも悪くないよ、なんて言っても納得できなかっただろうね。最初の頃は『待って、僕は他にもできるんだよ』って気分だった。でもそれは偽善的じゃないか。だって、本棚からアガサ・クリスティの小説を選んだとき、自分自身も映画でそれをやれるという期待感があったわけだから。今はよくわかる……これからずっとスリラー映画を作っていくのもいいかな、と思えたとき、全てが上手くいったんだ」

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最終更新:1/3(木) 11:45
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