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データ不正提供疑惑・計算ミス発覚の個人被曝線量論文。早野教授は研究者として真摯な対応を

1/10(木) 8:32配信

HARBOR BUSINESS Online

 昨年12月27日の毎日新聞が、福島第1原発事故後に測定された福島県伊達市の住民の個人被ばく線量のデータを基に、早野龍五・東京大名誉教授らが英科学誌に発表した2本の論文について、本人の同意のないデータが使われた疑いがあるとして東大が予備調査を開始したというニュースを報じました。(参照:毎日新聞)

 同記事では、調査のきっかけとなった住民からの申し立てで、“図の一部に不自然な点があり、「線量を過小評価するための捏造(ねつぞう)が疑われる」”と指摘されたと報じ、それに対して早野氏が、同紙の取材に対し“「適切なデータを伊達市から受け取ったという認識で対応していた」とメールで回答。「計算ミスがあり、線量を3分の1に過小評価していた」として出版社に修正を要請した”と応じたとしています。

◆問題となった論文と、その「政治性」

 論文自体がどういうものかをみておきます。これは I, II からなる2本で、だれでも無料でダウンロードし、読むことができます。

●Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): 1. Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys

●Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident(series): II. Prediction of lifetime additional effective dose and evaluating the effect of decontamination on individual dose

 論文の内容ですが、詳細は福島県立医科大学のウェブページにある紹介を確認して頂ければお分かりになりますが、簡単にまとめると以下のような内容です。

 第一論文では、福島県伊達市は2011年8月から市民を対象としたガラスバッジによる個人線量測定のデータを使い、空間線量率の調査結果から、個人線量を推定する方法を確立するための研究をおこなっています。

 実測された個人の外部被ばく線量は航空機モニタリング調査における居住する場所の空間線量率によく比例し、その比例係数はおよそ0.15倍だったという結論を得ています。(参照:福島県立医科大学)

 第二論文では、第一論文の結果を使った解析を行い、住民が受ける追加積算線量を推定し、また、除染が地域全体の個人線量の分布を全体として低減させる効果は見えない、と結論しています。(参照:福島県立医科大学)

 実際にどのような解析をしたのかをもう少し詳しくみてから、なにが問題となっているかを検討していくことにしましょう。

 伊達市では、2012年7月から2013年6月には全市民を対象に、ガラスバッジによる個人線量測定を行いました。(参照:「全市民で取組んだ被ばく線量測定-伊達市健康福祉部健康推進課」、「だて復興・再生ニュース第8号–2013年11月28日発行」)

 その前後の期間でも、全市民ではないものの測定を行っています。その、個人毎の住所と被曝量のデータと、航空機モニタリング調査による空間線量推定値を使って、空間線量推定値から対応する場所での個人被曝量を推定する方式を確立し、さらに、将来にわたる追加被曝線、また、除染が被曝線量に与える影響を見積もる、というのが第一および第二論文の内容です。

 第一論文については Science 誌に「Fukushima residents exposed to far less radiation than thought」なる記事が掲載されました。

 また、週刊ダイヤモンドの2017/3/22の記事、「福島の被曝調査で分かった安全基準の過剰、除染の意義揺らぐ」では、第二論文の内容まで踏み込んで、

・現在、伊達市で空間線量が高い地域でも、生涯の被曝量もたいしたことはない。

・除染しても被曝量はさして減らない。

ということが「研究成果」として述べられています。そして、これはもちろん、

・空間線量が高いところでも、実際の被曝は少ないんだから住んで問題はない。

・除染で空間線量が下がっても、被曝量は減らないんだから除染には意味がない。

という、非常に政治的な主張になっています。

◆指摘された問題点と早野氏の対応

 毎日新聞の記事によると、指摘された問題点は

a) 論文では、約5万9000人分のデータを解析しているが、約2万7000人分について本人の同意を得ていない

b) 論文の著者の一人が所属する福島県立医大の倫理委員会に研究計画書の承認申請を行う前の15年9月に早野氏が解析結果を公表している

c) 図の一部に不自然な点があり、「線量を過小評価するための捏造が疑われる」

の3点であり、早野氏は、 (a) については「適切なデータを伊達市から受け取ったという認識で対応していた」(c)については「計算ミスがあり、線量を3分の1に過小評価していたとして出版社に修正を要請した」としているとのことで、(b) についてはノーコメントであるようです。

 念のため、それぞれの点について、原資料ないしはなるべくそれに近いものをみてみます。まず、(a) です。

◆データ提供は適切になされたのか?

 約5万9000人分のデータを解析している、というのは、第一論文の表1に2012年第3四半期のモニタリング参加者について N=59056 と書いてあり、約59000人のデータを扱っていることは間違いないようにみえます。

 同意を得ているかどうかについては、各メディアの報道によれば、測定に参加した5万8000人あまりのデータが提供されたが、同意しなかった97人と同意書が未提出だった2万7233人が含まれていたということです。

 また、このこと自体には伊達市からの発表はありませんが、12月20日になって、「被ばく線量データ提供に関する調査委員会(仮称)の設置について」(参照:伊達市)という報道発表が行われており、“被ばく線量データの外部提供に関する経緯について、今後第三者を含めた 「調査委員会」を立ち上げ、詳細調査を進めることとした。なお、平成30年12月19日の議会全員協議会において、この旨説明した”とあります。なので、なんらかの問題があった、と伊達市側で判断し、調査を開始することになったことがわかります。

 この件について最初に報道したのは、「OurPlanet-TV」で、12/6のことです。ここでは、

“さらに高橋議員は、研究計画書に「同意した住民のみを対象とする」と記載されているにも関わらず、同意しなかった住民データ約3万人分も含まれていると指摘。解析結果は、海外の科学雑誌に掲載され、ICRP(放射線防護委員会)の防護基準見直しや国の避難基準の緩和に活用される恐れがあるとして、市に対応を求めた。田中直轄理事は「論文の中身については執筆者の二人が対応すべき。依頼文書に基づいた論文に変更があれば、お知らせがあるはずだ」と理解を求めた。

市によると、測定に参加した住民5万8481人のうち、同意したのは約半数の3万1151人。97人が「不同意」を表明し、残りの2万7233人は同意書を未提出だった。”

 と、この件についてまとめられています。しかし、同じページにある伊達市議会の公式動画からの髙橋一由議員の質問の部分を見ると、極めて信じ難い答弁がなされています。

 それは、「GIS化したデータは早野教授に依頼して作成した」「GIS化したデータは(早野教授から)納品してもらっていない。伊達市はもっていない]「GIS化したデータは(宮崎氏に)伊達市から提供したものではない」というものです。

 論文には、

 This study was approved by the ethics committee of the Fukushima Medical University (approval No. 2603)(この研究は福島県立医科大学倫理委員会許可(許可番号2603)を得ています)とあります。これは、その委員会に「研究計画書」を提出して、研究する許可を得た、ということです。研究計画書自体は、やはり OurPlanet-TV の12/10付けの記事に写しが公開されています。(参照:OurPlanet-TV)

 研究計画書4ページ目の「研究対象者の選定方針」には

“本研究に提供されるデータベースには、 2011年8月から2015年6月にかけての3年11ヶ月間に伊達市が全市民を対象に行ったガラスバッジによる外部被ばく線量調査、ホールボディカウンターによる内部被曝線量調査の結果が含まれており、閲覧解析の対象者はデータを本機関に提供する同意があったものに限られる(同意書を資料2、 3に呈示する)伊達市が行った調査への参加意向に沿い、本研究を含めた事業への参加は任意である。”

 また5ページ目の「研究方法」には

データベース化:伊達市における作業

 ○各個人へのID付与

 ○個人被ばく線量把握事業の全結果と施行日をIDごとのデータとして整理

 ○ID付与者の居住地を航空機による空間線量モニタリングの各メッシュと突合

 ○ID付与者世帯における除染時期の明示(A、Bエリアのみ)

 とあります。これと市担当者の答弁をあわせると、

・研究計画書には 同意を得た人のデータだけを使う、と書いてあるが実際にはそうなっていない

・研究計画書には、「ID付与者の居住地を航空機による空間線量モニタリングの各メッシュと突合」とあるが、実際には

– GIS化(すなわち、住所から緯度経度データへの変換)は市から早野氏に依頼している

– しかし、変換したデータを市は受け取っていない

 となります。

 市の担当者が間違った答弁をしているのでなければ、研究計画書に書いてあることとは異なり、「ID付与者の居住地を航空機による空間線量モニタリングの各メッシュと突合」したのは早野氏であるということになり、また、そのデータを市は受け取っていないのですから当然早野氏・宮崎氏に渡すことも不可能であり、論文は、研究計画書に記載された手順とは無関係に市から早野氏にGIS化依頼した際に渡されたデータを使って書かれているということになります。

 また、これは OurPlanet-TV の記事でも指摘があることですが、論文では

 The geocoded household addresses of the glass-badge monitoring participants were pseudo-anonymized by rounding both longitude and latitude coordinates to 1/100 degrees prior to data analyses.

 とあり、緯度経度データは1/100度まで丸めた、と書かれているのですが、論文の図3でサーベイ参加者を地図上にプロットしており、それは1/100度より精度の高い、特に人口密度が低いところでは個人や住所を特定できかねないものになっています。つまり、論文に「データ処理はこうした」と書いてあることと、実際のデータ処理の結果に明らかな矛盾があります。また、「適切なデータを伊達市から受け取ったという認識で対応していた」という早野氏の回答は、市の担当者の答弁とは矛盾するものです。

◆倫理審査通過前にデータが渡っていた!?

 (b)の「研究計画書の承認申請を行う前の15年9月に早野氏が解析結果を公表している」についても、OurPlanet-TV の12/10 付けの記事にあるとおりで、2015年9月13日の「The 12th dialogue on Sep 12-13, 2015」での早野氏の発表ビデオに確かに、このデータがなければ作成不可能な解析結果を示すスライドがあります。

 つまり、研究計画書に基づいた倫理審査をパスする前にすでにデータが早野氏に渡っており、さらに解析結果の発表もされてしまっている、ということです。この点について早野氏からコメントがないのは極めて大きな問題でしょう。

◆研究の質を疑うレベルの「計算ミス」

 (c) 図の一部に不自然な点があり「線量を過小評価するための捏造(ねつぞう)が疑われる」については、早野氏のコメントとして「計算ミスがあり、線量を3分の1に過小評価していたとして出版社に修正を要請した」とのことです。

 図の問題の指摘は 高エネルギー加速器研究機構(KEK) 名誉教授黒川眞一氏によるものが公開されており(参照:https://arxiv.org/abs/1812.11453)、これは宮崎・早野論文が掲載された雑誌に「コメント」として掲載予定であるとのことです。

 ちなみに、これは第二論文についてのものであり、生涯被曝量の計算がおかしい、との指摘です。おかしい点の詳細についてはここでは省略しますが、極めて初歩的なミスであり、意図的でなくこんなミスをするのは論外である一方、意図的にやったのであればあまりに下手なやり方であり、どちらにしても研究の質を疑わざるを得ないものです。

 早野氏が最終講義で語ったところによれば(参照: 早野龍五教授最終講義「CERNと20年福島と6年 ―311号室を去るにあたって」 – 早野龍五 / 物理学)、

“では、伊達市の「除染A地区」と言われる、もっとも線量の高い地域に生涯住み続けた場合に、事故由来の外部被曝はどのくらいになるかというと、生涯で18ミリシーベルトです。一生住んでも20ミリシーベルトに満たないということがわかった。これは、ショッキングなほどに低い数字です。そして除染は、個別にはいろいろあるかもしれませんが、集団の生涯積算線量には、ほとんど寄与しないこともわかった。この論文も、今年出るUNSCEARの報告書に採用される予定だそうです。”

 とのことで、もしも3倍も間違った結果がUNSCEARの報告書に採用されてしまったなら大変なことです。

◆報道で指摘された点は大きな問題

 まとめると、毎日新聞の記事で指摘されていた3点についてはいずれも問題点を確認できるだけでなく、 (a) の個人情報の問題については、研究計画書との不整合、特に、生データが研究計画書が提出される前に別に不透明な手続きで伊達市から早野氏にわたり、研究はそのデータを使って行われたのではないかという可能性を現在のところ否定できないという大きな問題があるようです。

 伊達市では調査委員会が設置され、また東大でも予備調査が始められるとのことなので、調査がねじ曲げられることなく、何が起こったかが明らかになり、データの不正利用や不正な結果に基づいた政策提言が防止されることを望みたいところです。

◆報道を受けて発表された早野氏の見解にもさらなる問題が

 そして、この問題を受けて、早野氏も1月8日、文部科学省記者クラブに「伊達市民の外部被ばく線量に関する論文についての見解」を貼出し、“重大な誤りとその原因、意図的でなかったこと、今後の対応、伊達市の方々への陳謝など”(早野氏Twitter https://twitter.com/hayano/status/1082488374043103232より)の見解を表明しました。

 しかし、この「見解」には、極めて重大な問題がいくつも見受けられました。それだけで別記事をたてる必要があるほどのものですが、研究者の対応として最大の問題だけをあげると、論文としては同見解の「2.この誤りについて、2018年11月28日に、JRP誌に『重大な誤りを発見したので、Letterへのコメントとともに論文の修正が必要と考える』と申し入れ、2018年12月13日に、JRP誌より『修正版を出すように』との連絡を受けました」とあるものです。

「S. Kurokawa 氏からの問い合わせにも深く感謝申し上げます」と、黒川氏から雑誌編集部に送られている問題点を指摘するレター論文(参照: Comment on “Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): II)を読んだことを明らかにしているにもかかわらず、そこで指摘されている問題点に対してまともに回答していないのです。

 黒川氏のレター論文では10箇所近い誤りが指摘されているにもかかわらず、早野氏の「見解」では、「3倍するのを忘れた」という1つだけを誤りとしており、それは黒川氏が指摘しているものではありません。 仮に黒川氏の指摘が誤りである、というなら、そのことを根拠をあげて説明することが研究者に最低限求められることでしょう。単に無視し、全く別のことを答える、というのでは研究者の論文に対する指摘への対応としておよそありえないことです。

◆事故発生後の早野氏の削除されたTweet

 以上、前半では問題となっている論文についての解説を行いましたが、後半ではその理解をより深めるため、早野氏の過去、特に2011年以降の活動を振り返ってみます。

 早野氏は 2011年3月の東日本大震災とそれに伴っておきた福島第一原発の事故のあと、 twitter による情報発信で広く知られるようになった物理学者です。専門は原子核物理で、特に、「反物質」の実験的研究の成果で知られています。2008年には、「反陽子ヘリウム原子の研究」で、仁科記念賞を受賞しています。仁科記念賞は、日本の原子物理学とその関連分野でのおそらくもっとも権威ある賞です。

 Twitterでのフォロワー数は 2011/3/11 の2300程度から3/18には14万と爆発的な伸びを示し、 3.11 以降の twitter、あるいはネットメディアにおけるもっとも影響力のある物理学者となりました。

 ただ、私個人の印象としては、早野氏のTwitterでの発言は当初から福島第一原発事故の推移について、楽観的見通しを無責任に発信し、間違いが明らかになるといつのまにか修正する、というものでした。おそらく、そのようなスタイルこそが、多くの人に、「間違えることのない、信頼できる科学者」として受け入れられた理由になっているものと考えられます。

 具体例をあげておきましょう。Twitter での、早野氏の3.11 以降の福島原発についての最初の発言は、早野氏のツイログのトップに残されている、3月11日 23:55:51 の

“全くです.RT @y_mizuno: 九州大学の吉岡斉さんは、原発関連の科学技術政策の専門家なのだけれど、今回の福島原発で冷却できないとメルトダウンの可能性がある、などと言及されるのは理解できないなぁ。…そのコメントをするのであれば、関連分野の専門家を呼ぶべきでしょう。残念。”

というものでした(元Tweetは削除済み)。ここで RT されているのは京都女子大学社会学部教授の水野義之氏の発言ですが、水野氏の前職は大阪大学核物理研究センター助教授で、水野氏の物理学者としての専門分野も早野氏と同じ原子核実験です。

 ちなみに、この水野氏の発言を少し前に辿ると、

“@motokinoshita テレビで九州大学の吉岡斉さんがメルトダウンMDの可能性もあるとコメントされたそうです。BWR型では原理的にMDはあり得ないのでは?たとえ冷却できなくても核分裂反応が継続せず。分裂生成物の残留放射能の熱があるのみ。吉岡説のようにMD可能性あるのですか?”(水野氏の2011年3月11日23時33分のTweet)

 という発言があり、そこでメンションされている方の発言を見ると

“冷却不能=冷却水がなくなってきた、ので炉心破損の可能性がでたようですが、メルト ダウンにはなりません。圧力容器と格納容器は保たれます。 QT @misasaguy 放射能漏れの可能性と、放射能漏れとメルトダウンは全く違います。デマに惑わされないようにご注意下さい。 [修羅場なう]”(motokinoshitaこと木下幹康氏の2011年3月11日22時09分のTweet)

 と書いています。この motokinoshita さんは、工学博士で、1974年から電力中央研究所で原子力・核燃料を中心に研究開発に従事し、2005年からは原子力委員会の材料の放射線影響研究の特任プロジェクトリーダーなど、原子力を中心に多数の公職を歴任したという経歴の方で(参照:http://www.directforce.org/pdf-2012/14-2012.3.30.pdf)、原子力、特に核燃料や、材料への放射線影響研究の専門家です。

 というわけなのかどうか水野氏も早野氏も木下氏のいうことを吉岡氏のいうことより正しい、と思うことにしたようです。

 しかし、あとから振り返ってどうだったかというと、 2015年になって木下氏は以下のようにTweetされています。

“@(木下氏のレス相手) 一番大事なときに、まちがったツィートをして、皆様に判断を誤らせる情報を流したことは事実です。私は核燃料が専門なのですがプラントの専門家ではありません。にもかかわらず責任のとれないツィートをしたのは一生の不覚で、これも含めて今は償いをする日々です”(木下氏の2015年3月3日のTweet)

 要するに全くの間違いを流してしまったと書いているわけです が、その全くの間違いを全く疑うことなく信じて、実は科学的に正しく、また原発事故に関する常識でもある、冷却系が止まるとメルトダウンは時間の問題である、ということを否定したのが水野氏であり、早野氏だったのでした。

 研究者であれば、この時点でなすべきことは「計算(概算)の根拠を示し、自分でもチェックする」ことではないかと思います。

 核燃料の専門家である木下氏や実験物理学者である早野氏にこれくらいの計算ができないはずはないのですが、やらなかった、そして間違えた、ということです。

 早野氏の間違いは3/12以降も続きました。以下、3/12日のツィートから特徴的なものをあげます。

“格納容器が守られていれば,大惨事にはなりません.”

posted at 20:44:49(https://twitter.com/hayano/status/46537124727623680)

“格納容器の損傷は無い.中がどうなっているかは現時点では言い切れないだろう.とにかく海水を満たして冷やさねばならない. ”

posted at 20:50:45(元Tweet削除済み)

“はい.建屋は壊れるが,格納容器は丈夫です.これが原子炉の重大事故を防ぐ最後の砦.破壊されなかったらしいので,ひとまず安心.朗報です.RT @le_chopper: @hayano これは、水素の爆発によるエネルギーが、格納容器を破損するほど大きくないということでしょうか?”

posted at 20:57:28(元Tweet削除済み)

 いずれのTweetも、「大きな問題にはいたっていない」という印象を受ける、非常に楽観的な情報発信になっていることがわかります。

 現在の理解では1号機は3/11深夜にはすでにメルトダウンにいたっていたということがわかっており、何を寝言をいっているのかと思います(当時も思いました)が、もちろん東京電力も政府もメルトダウンなんてことは認めていなかった時期でもあり、「専門家」の発言として広く受け入れられたことは理解できます。

◆1年半後のインタビューと「事実」の相違

 早野氏自身は、当時の自分の情報発信について、「早野龍五氏ロング・インタビュー2 ――原発事故後、なぜ早野氏は『黙らなかった』のか」(参照:https://blogos.com/article/45679/)で以下のように振り返っています。

 これは、糸井重里氏との共著の『知ろうとすること』でもほぼ同じ内容が繰り返されます。

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最初のツイートがツイログに残っていますが、この時にセシウムと聞いて意味がわかった人は日本中にほとんど居なかったはずです。ですから、セシウムというのはどういうものかというのを、解説しはじめたのが最初です。

“3月12日 14:22 hayanoCs137が出す662 keVのガンマ線を確認したという意味か.福島第一原子力発電所.Cs137は天然には存在せず,Sr90とともにウランの核分裂で生じる代表的な放射性同位元素.”

その日の夕方1mSv/hを超えてしまった。この時はまだ枝野さんがμSvとμSv毎時の区別ができなかった頃ですね。

“3月12日 17:30 hayano放射線レベルの大きな上昇があったということは,原子炉も格納容器も破損したと推定するのが妥当だな.

3月12日 17:32 hayano放射線レベルが(敷地境界で)1015μSv/hになった.これはシリアスだ.“

それから、これは格納容器もきっと壊れているのではないかというようなことを言い始めた。

“3月12日 18:06 hayano原子力安全保安院会見を聞いても,要を得ない.これだけの情報では,何が起きたか推測するのは僕には無理です.”

それで僕はデータをあつめて解析して、と科学者がいつもやっていることをいつも通りにやろう、と思ってグラフを作ったわけです。

福島第一原発から送られた、字が潰れたようなファックスをスキャンして、PDFにして貼ってあった数値をひとつずつ読んでグラフにするというのを始めたわけです。それが3月の13日です。

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 既に紹介したように、早野氏の「最初のツィート」は3月11日 23:55:51 の

“全くです.RT @y_mizuno: 九州大学の吉岡斉さんは、原発関連の科学技術政策の専門家なのだけれど、今回の福島原発で冷却できないとメルトダウンの可能性がある、などと言及されるのは理解できないなぁ。…そのコメントをするのであれば、関連分野の専門家を呼ぶべきでしょう。残念。”

 であって、その14時間後の

“3月12日 14:22 hayanoCs137が出す662 keVのガンマ線を確認したという意味か.福島第一原子力発電所.Cs137は天然には存在せず,Sr90とともにウランの核分裂で生じる代表的な放射性同位元素.”

 ではありません。つまり、2012年8月、原発事故から1年半後には、すでに堂々と自分の過去を改竄しているわけです。さらに、

“それから、これは格納容器もきっと壊れているのではないかというようなことを言い始めた。”

 と書いていますが、実は

“はい.現場の方々の御努力に期待します.RT @sakumotsu0403: @hayano 冷却に成功すれば大惨事は回避出来たと考えていいのでしょうか?”

(3月12日 21:49:20 のTweet(削除済み))

 にあるように「壊れていない、問題ない」と言い続けています。

 なぜこのような過去の改竄が行われたか? 真実のところはわかりません。

 しかし、2012年になって早野氏の発言を読む人に、当時の間違った発信や政府・東電発表をそのままオウム返しにしていた発信は「なかったこと」にして、「自分は当時、東電や政府と違ってちゃんと問題を理解し、必要な行動をとった」というイメージを与える結果にはなっていると思われます。

 2011/3/12以降も早野氏は次々と間違った情報発信と過去の改竄を続けていましたが、それらの個別の指摘はさておくとして、まずは問題となった論文について、そして黒川氏の指摘について、なぜこのようなことが起きたのかが明らかになることを望みます。

 多くの被災者に大きな影響を与えた論文にあった多くの「誤り」だけに、「見解」を文科省記者クラブに貼出し、Twitterに画像をポストする、ということでは済まない問題なのです。

<文/牧野淳一郎>

まきの じゅんいちろう●神戸大学教授、理化学研究所計算科学研究センターフラッグシップ2020プロジェクト副プロジェクトリーダー・学術博士。国立天文台教授、東京工業大学教授等を経て現職。専門は、計算天体物理学、計算惑星学、数値計算法、数値計算向け計算機アーキテクチャ等。著書は「シミュレーション天文学」(共編、日本評論社)等専門書の他「原発事故と科学的方法」「被曝評価と科学的方法」(岩波書店)

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最終更新:1/10(木) 21:41
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