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米空港の安全を守るワンコ、垂れ耳が求められるワケとは

1/11(金) 19:25配信

ニューズウィーク日本版

──キツネも家畜化が進み人馴れすると耳が垂れる......

■ 立ち耳の犬は怖い?

米運輸保安局(TSA)はこのほど、同局で活動している探知犬について、「親しみやすい」という理由から「垂れ耳」の犬種を増やしていく意向を明らかにした。TSAは、空港を中心に鉄道やイベント会場など人が集まる場所で、爆発物などの不審物を見つける保安検査を行うなどで安全性の確保を担っている。

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米経済誌のワシントン・イグザミナーによると、TSAのデビッド・ペコスク長官は先月、ワシントン・ダレス空港で行われたイベントで、TSAでの探知犬プログラムを拡大したい意向を明らかにした。その際に、TSAでは意図的に垂れ耳の犬を増やすよう取り組んできたと説明。「子供たちを怖がらせない」ため、乗客からの反応も垂れ耳犬への方がいいと加えた。

TSAのマイケル・ビレロ補佐官は米ABCニュースに対し、「立ち耳の犬を見ると、軍用犬や警察犬だと思うからだと思います」と説明している。

ワシントン・イグザミナーによると、TSAで活動している犬は、ラブラドール・レトリバー、ジャーマン・ショートヘアード・ポインター、ジャーマン・ワイアーヘアード・ポインター、ビズラー、ゴールデン・レトリバーの5つの垂れ耳犬種と、ジャーマン・シェパードとベルジアン・マリノアの2つの立ち耳犬種で、合計1200頭ほど。うち垂れ耳は80%、立ち耳は20%の割合だ。しかし昨年は、高齢から引退する犬が毎日のようにいたという。そこでTSAはこの機会を使い、新たに採用する探知犬は垂れ耳にしているというわけだ。

1200頭のうち3分の1が、空港で乗客の検査をする役割を担っており、この業務を与えられているのはほとんどが垂れ耳の犬種だという。

■ キツネも家畜化が進み人馴れすると耳が垂れる

しかし米ニューヨーク・タイムズ紙によると、TSAのこの方針に不満をあらわにする人もいるようだ。

動物愛護団体モリス・アニマル・レフュージはツイッターに、ディンゴという名が付いた立ち耳の大型犬の写真と共に、「こんなにかわいいディンゴは、TSAがなぜ自分みたいな立ち耳の犬が『子供を怖がらせる』と言って、垂れ耳の犬を欲しがるのか理解できません」と投稿した。

とはいえ、TSAの主張には科学的な根拠があるらしい。

1959年に当時ソビエト連邦だったロシアのシベリアで、生物学者のドミトリ・ベリャーエフ博士が開始し、現在も継続されている研究がある。野生のギンギツネ(キツネはイヌ科に属する)から、「落ち着いた性格で人懐こい」という特徴を持った個体だけを選んで繁殖し続けるというものだ。5世代目くらいになるとギンギツネの家畜化が進み、犬のように尻尾を振ったり人の手を舐めるという行動を取るようになった。さらに、10世代目くらいになると今後は耳が垂れてきたという。

この研究に関して書籍『How to Tame a Fox (and Build a Dog)』(キツネを手なずけ犬にする方法)(シカゴ大学出版)を書いた米ルイビル大学の進化生物学者リー・ダガトキン博士はニューヨーク・タイムズに対し、性格がもの静かで人懐こい動物は、軟骨などの細胞を生育させる幹細胞の一種、神経堤細胞が少ないことが分かったと説明した。これが耳に現れると、軟骨が少ないために耳が立ち上がらなくなるのだという。

ただし、TSA側は、立ち耳の犬を今後一切採用しない、というわけではないと説明する。TSAが犬を採用する際に注目する点は、健康、異臭を察知する能力、そして社交性の3点で、耳の形状よりもこうした特徴が優先されるという。TSAの広報担当者はワシントン・イグザミナーに対し、耳の形状を考慮するというのはあくまでも非公式な決定で、正式な書類があるわけではない、と説明している。

松丸さとみ

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