ここから本文です

ドイツ最後の炭鉱閉鎖にみる、独エネルギー政策の深い苦悩

1/11(金) 8:00配信

現代ビジネス

独産業史の重要な一時代に幕

 2018年末、ルール炭田地方でドイツ最後の炭鉱が閉鎖された。

 ルール地方はドイツ西部のノートライン-ヴェストファーレン州にある。もちろん、イメージは炭鉱一色。人々が200年余りも、文字通り炭鉱と共に生きてきた土地である。

 ドイツ最後の炭鉱の名は、「プロスパー-ハニエル炭鉱」。1950年代、年間1.46億トンを採掘していた時期もあったが、2018年はわずか260万トン。100年以上も新しい鉱脈を求めて掘り進んでいるうちに、すでに坑道は延べ90km、深さも1.2kmを超えている。

 炭鉱の衰退は、安価な輸入炭が出回り始めた1950年代の終わりごろから、すでに始まっていた。それは、燃料が、石炭から石油へとどんどん変わっていった時代でもあった。

 しかし、急激に炭鉱を閉鎖することはできなかった。この州は、あまりにも多くを鉱業に依存していた。しかも、人口密集の大産業地帯。炭鉱が無くなれば、失業者の坩堝となることは目に見えていたのだ。

 そこで、唐突なショックなしに炭鉱を閉鎖するための長期計画が立てられた。鉱山は統合され、遠い将来の静かな死のために、1989年から2017年までに401.5億ユーロという膨大な補助金が注ぎ込まれた。そして、ついに2018年12月21日、最後の時がやってきた。

 その日、炭鉱の敷地には、シュタインマイヤー独大統領、欧州委員会のユンケル委員長、ノートライン-ヴェストファーレン州の州知事ほか大勢の政治家、産業界の重鎮、文化人、そして、ユニフォームを着た炭鉱夫たち、総勢500人が集まっていた。

 彼らが固唾を飲んで見守っていたのは、炭鉱に続くエレベーターの鉄格子。採掘はその前の週、すでに公式に終了していたが、10人ほどの炭鉱夫がこの日、「最後の採掘」のために鉱区に下りていた。

 しばらくすると、エレベーターの箱が上ってきて、中から10人ほどの炭鉱夫が出てきた。それを、横で待ち構えていた鉱山会社の社長、大統領らが抱きかかえるようにして出迎える。500人の来賓のあいだから拍手が湧き起こった。しかし、誰の顔にも笑みはない。テレビの画面を通して、現場の沈鬱な雰囲気がひしひしと伝わってきた。

 最後に出てきた炭鉱夫は、ずっしりとした石炭を抱えていた。重さ7kg。黒く鈍い光を放っている。重苦しい空気が立ち込める中、そのドイツ最後の石炭が大統領に手渡された。

 鉱山会社の社長が言う。

 「これは普通の人にとっては一個の石炭です。あなたにとっては、ドイツ産業史の重要な一時代のシンボルでしょう。そして、私たち鉱山労働者にとっては、私たちの世界でした」

 大統領がお腹の前に黒い石炭を抱えたまま、話し始める。

 「今日、私たちは歴史的瞬間の証人です。最後の交代勤務が終わった。そして、ここにあるのが、ドイツで採れた最後の石炭です。これはルール地方だけではなく、全ドイツに関わることなのです。ドイツの一つの歴史が終わろうとしているのです」

 荒々しい炭鉱夫たちが、流れる涙も拭わず、じっと聞き入っている。すでに闇の帳(とばり)の落ちた殺伐とした風景の中、彼らに煌々とスポットライトが当たる。ロマン、ノスタルジー、悲哀・・・。

 そのあと、会場にいた人たち全員で「炭鉱夫の歌」をア・カペラで歌ったとき、雰囲気はエクスタシーに達した。ドイツ人は、こういう感動的な式典の演出が本当に上手だ。

1/3ページ

最終更新:1/11(金) 8:00
現代ビジネス

記事提供社からのご案内(外部サイト)

「現代ビジネスプレミアム」

講談社『現代ビジネス』

月額1000円(税抜)

現代ビジネスプレミアムは「現代ビジネス」の有料会員サービスです。2万本以上の有料記事が読み放題!会員だけの特別記事も配信。豪華ゲストによるセミナーも開催中。

あなたにおすすめの記事