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発達障害24歳男性と「会話」が成立しないワケ

1/11(金) 12:00配信

東洋経済オンライン

■自分だけが「変化」から取り残されていく

 濃密な親戚付き合いの中で、幼い頃から自分を受け入れてくれた人々には「変化」が訪れる。でも、きっと自分はその「変化」にはなじめない。そして、自分だけが「変化」から取り残されていく――。

 将来について尋ねると、「自分には普通の生き方はできない」という。続いて、ユーチューバーや有名声優、お笑い芸人などの名前を出してきたので、何かしら芸事の世界で自立できないかと考えているのだろう。声優養成学校に通っているのも、アニメや声優にあこがれてというよりは、いわゆる会社員といった選択は難しいと覚悟している、フミヒコさんなりの試行錯誤にも見えた。

 とりとめのないように思える話の中で、ふいに「60過ぎの親に養われて……」「(役所を定年退職後に再就職した)父親は60歳過ぎでも必要とされているのに……」「親も疲れてきている。疲れた人から死亡する、破綻する」などと言ったりする。

 20歳を過ぎても、自活できない自分をふがいなく思っていること、両親に感謝し、同時に申し訳なく感じていること――。独特の表現ではあるが、フミヒコさんの不安や焦りがうかがえた。

 フミヒコさんに話を聞いたのは、オープンキッチンのあるカフェレストランの禁煙席。取材中、突然、彼が「においが……」と言って立ち上がった。そう言われ、私も初めて煙草のにおいが漂ってきていることに気が付いた。見渡してみると、すぐ横にある窓ガラス越しのテラスが喫煙スペースになっていた。

 とはいえ、嗅覚は相当に敏感なほうの私が、かろうじて感じとれる程度のにおいだ。しかし、フミヒコさんはいてもたってもいられない様子で、別の席に移ろうとする。私は急いで店員に事情を説明し、奥の席へと移動した。

 ふり返ってみると、店に入ったときは昼時で、店内はほぼ満席だった。もしかしてと思い、“音”は気になりましたか? と聞いてみた。案の定、「皿を洗う音とか、赤ん坊の泣き声とか、黙らせたいと思ってた」という。フミヒコさんは最後まで、大きなサングラスを外すこともなかった。

 フミヒコさんの五感を通して見える“世界”。それは私が感じる世界と、どれほど違うのだろう。埋めがたい隔たりと、彼の生きづらさを思った。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。

藤田 和恵 :ジャーナリスト

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