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味も見た目も一変 「する」「むる」「もむ」……、覚えておくべき和食の塩使い

1/12(土) 10:12配信

NIKKEI STYLE

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、日本の伝統文化への注目が集まりつつある。食の世界でも、2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界的にも和食への関心が高まっている。和食を象徴する言葉の1つに「水の料理」がある。日本では良質の水が手に入れやすかったことに起因するのだろう。大量の水でゆでたり、さらしたりして食材の雑味を取り除く手法があるし、軟水のためだしの風味を上手に引き出し、口当たりよく仕上げることができる。塩はこうした水の料理に、とてもマッチした調味料と言えるのだ。
和食における塩の使い方は非常に多彩である。家庭でも簡単に応用できるものも多くあるので、ぜひ覚えて使ってみてほしい。

・塩ずり(板ずり)
食材に塩をまぶし、手のひらでこする、またはまな板の上に置いてすりつけることで表面のぬめりや汚れを除去するほか、うぶ毛などを取り除き口当たりをよくする。
・たて塩
塩分濃度3%程度の塩水を使用。ふり塩では塩味が付きすぎるような身の薄い魚の下味つけや下ごしらえに使用される。味付けのほか、汚れとり、貝の砂抜きなどにも。うま味が出て水が食材の中に入り込んでしまうことを防ぐ。
・塩もみ
塩の浸透脱水作用を利用して、食材から水分を出してしんなりとさせること。塩分濃度2%以上で浸透脱水作用が働く。塩分濃度を2%未満にする時は、置く時間を長くすると多少しんなりする。
・強塩(ごうしお)
食材に大量の塩をふりかける。塩の浸透脱水作用を利用して、水分の多い食材から水分を抜いてうまみを凝縮する。もともとは保存のため。食材に大量の塩分が浸透するため、食べる時は塩抜きしてから使う。
・水塩
繊細な味の食材にまんべんなく塩味をつけたり、食材を漬けこんで食感を軟らかくジューシーにしたりする。塩が溶けている状態なので、入れた瞬間に味が決まるため、和食では椀(わん)ものによく使用される。もともとは塩を作る過程で海水を煮詰める際に、塩の結晶ができる直前(塩分濃度20%程度)まで濃縮した状態の海水のことを指す。現在では、塩を煮溶かしてこしたものが多用される。卵白と塩を混ぜてからに溶かして、カルシウムを析出させて除去する場合もある。


・ふり塩
味付けを目的として、一定の高さから全体に均一に塩をふること。材料より20~30センチくらいの高さから、指先と手首は固定して、ひじから先を動かすようにして指の間から塩を落とすようにするとうまくいく。厚みのある食材の場合は30分程度おき、中まで味を浸透させる。
・紙塩
薄身の魚や貝を和紙に挟んで水で湿らせ、その上から塩をふって軽く塩味をつけること。材料の味が非常に繊細な時や、材料に直接塩をふると塩が強くなりすぎる場合に使われる。
・呼び塩
塩蔵食品の塩気を抜くために、塩分濃度1%程度の薄い塩水に浸すこと。真水に浸すと、食材から塩が抜けるのに時間がかかる上、塩が抜ける時に同時にうまみも抜け、さらに真水が食材の中に浸透して水っぽくなってしまう。一方、塩水に浸すと早く塩が抜けるほか、うまみは抜けず、水っぽくもならない。
・塩打ち
乾燥豆を塩水に漬けて煎ること

様々な技法を紹介したが、塩の効果は味付けや下ごしらえだけでなく、飾りつけにも絶大な効果を発揮する。きらきらと光る塩の結晶が料理の美しさをより一層ひき立て、見ているだけでも食欲を増してくれるのだ。
・化粧塩
魚の焼きあがりを美しく見せるために、下ごしらえの塩とは別に、焼く直前に塩をふること。また、魚のひれなどの焦げやすい部分に塩を多めに刷り混んでから焼くこと。 
・敷き塩
サザエやカキのように皿に置いたとき、安定が悪い食材を支えるために、塩に卵白を混ぜ合わせたものや粗塩を皿の上に敷き、その上に食材を乗せること。塩は保温効果が高く、また、氷点が低く家庭の冷凍庫では凍らないため、冷やした塩を使用することで食材の冷却効果も期待できる。
塩の活用方法についていくつか紹介したが、守ってほしいポイントがある。それは下ごしらえに使う塩の量である。下ごしらえとして使用する塩は口に入るまでに洗い流されることがほとんどだ。もったいないから、減塩だからと下ごしらえに使用する塩の量を減らすと、狙った効果を出すことができない。下ごしらえに使う塩は、「これでもか」と勇気を持ってたっぷり使うことが料理上手への近道なのである。
一方、味付けに関しては、非常に微妙な濃度調整が肝要だ。なぜなら、塩はおいしいと感じられる濃度の範囲が、砂糖などと比べて非常に狭いのだ。体内の塩分濃度は平均すると0.9%程度なのだが、一番おいしいと感じやすい塩分濃度も同様に0.9%程度である。スープなど最後まで飲み干すような料理の場合は少し薄めの0.6%程度が望ましく、ごはんと一緒に食べるようなおかずの場合は1%~1.5%程度、多少の保存性を期待するような場合は3.0%程度が望ましい。
その日たくさん汗をかいたかどうか、酒を飲んでいるかどうかなど、体調や状況によっても適切な塩分濃度が変化する。まずは薄めに味付けをして味見をして、そこからちょっとずつ足して様子を見るのがお勧めだ。なぜなら、塩味は足すことはできてもひくことができないものだからである。


また、塩を入れるタイミングによって、食感に影響が出てくる。例えば魚のすり身で団子を作る時、塩を最初の段階から入れることで、身を構成するたんぱく質が溶けてくっつくことで粘り気がでてくる。これがふっくらもちもちした食感のある団子を作りだす。もし塩を最後のほうに入れると、たんぱく質の結合が起こらないため、ぼそぼそ、ごろごろとした食感の団子ができあがる。野菜をいためる場合などは、先に入れてしまうと食材から水分が出てきてべちゃっとした仕上がりになってしまうため、最後にいれるのがよい。
和食の味付けの中心はいわゆる「さしすせそ(砂糖・塩・酢・しょうゆ・味噌)」と酒、だしなどが挙げられるが、しょうゆが一般家庭に広く普及して使われるようになったのは江戸時代中期以降のことで、それまではあくまでも塩が味付けの中心をになってきた。
かつて、徳川家康が「世の中で一番うまいものはなにか」と家臣に尋ねた際に、「それは塩でございます。食べ物の味を調えるもの、それが塩です」と答え、さらに、「ではこの世で一番まずいものはなにか」と尋ねられると、「それも塩でございます。どんなにおいしいものでも塩が勝てば食べられません」と答えたという逸話がある。
また、「いい塩梅(あんばい)」という言葉が「ちょうどよいさま」を示す言葉として現在にも伝わっているように、塩の加減が調理においてどれほどまでに重要だったかということが推しはかられる。ほかにも、「通常はぴんと元気な青菜が、塩をふりかけると脱水してしんなりとしてしまう=人が打ちひしがれてうなだれているさま」を表すことわざとして「青菜に塩」があるように、調理における塩はずっと昔から私たちの身近にあったのである。
和食の塩使いは一見面倒くさいようにも感じるかもしれないが、非常にシンプルでもある。一度覚えてしまえば、ぐっと料理の出来上がりがよくなるので、ぜひチャレンジしてみてほしい。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)

最終更新:1/12(土) 12:15
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