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岩淵弘樹監督が振り返る、全身全霊を懸けた1週間 「“変化と順応”がこの作品のテーマ」

1/12(土) 11:28配信

リアルサウンド

 BiSH、BiS、GANG PARADE、EMPiRE、WAggが所属する事務所WACK。多数いるアイドルたちの中でも、独自の魅力を放っているのがWACK所属のアイドルたちだ。映画『世界でいちばん悲しいオーディション』は、WACKのアイドルになるべく、合宿型オーディションに参加した出場者たちの姿を切り取ったドキュメンタリーである。

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 カメラの前でアイドルを志望した理由を語る姿、オーディションを勝ち抜く“ポイント”を稼ぐために、身体を壊すほどの激辛デスソースを口に運ぶ姿、そしてオーディションから脱落していく参加者たちの姿……カメラは1週間の合宿の様子を一定の距離を保ちながら映し続けていく。

 リアルサウンド映画部では、岩淵弘樹監督にインタビュー。カンパニー松尾監督作『劇場版 アイドルキャノンボール2017』でもカメラマンとして、WACKのオーディションに密着していた岩淵監督が、本作ではどう被写体たちと向き合っていたのか。じっくりと話を聞いた。

●与えられた“役割”に順応していく参加者たち

ーー誰が合格して誰が不合格になるか、事前には当然分からないわけですが、ある程度「こんな姿を切り取っていこう」という構想はあったのでしょうか。

岩淵弘樹(以下、岩淵):おっしゃる通り台本があるわけではない予測不能なオーディションなので、はっきりとした構想のようなものはありませんでした。ただ、プロデューサーの渡辺(淳之介)さんから、映画『サマーセール』のように撮ったらどうかと話がありました。『サマーセール』は、僕が3日間、シンガーソングライターの大森靖子さんに密着したドキュメンタリーなんですが、僕がダメ男過ぎるが故に大森さんの優しさや歌の強さといった魅力が際立っていくという1作です。なので、今回も僕がひどい男になって、オーディション参加者たちに密着するのはどうかと。という可能性も頭に入れつつ、本当に何が起きるか分からないので、誰かひとりに密着するわけではなく、この事象自体を捉えていくことができたらと思っていました。

 九州の離島・壱岐島で合宿を行っているので、不合格者はフェリーに乗って翌日に帰っていきます。帰って行く姿を映すとき、「帰って何するんですか」「後悔してないですか」と、2つの質問をしていきました。脱落して辛い思いを抱えて帰るのではなく、話すことで「ここに参加してよかったな」という思いを少しでも取り出せたらと思ったからです。そういった部分では、合格者たちよりも、不合格となった参加者たちの印象が映画では強く残るかもしれません。

ーー岩淵監督は『劇場版 アイドルキャノンボール2017』にカメラマンとして参加していますが、やはりそのときの経験が活きましたか。

岩淵:『アイドルキャノンボール』はカメラマンが不合格となった参加者たちにハグやキスを許してもらい、どこまでポイントを稼げるか、というものでした。とんでもない企画ではあるんですが(苦笑)、その現場で女の子たちの気持ちを解きほぐしていくという術を学びました。本作を手がけるにあたり、その経験は活きていると思います。彼女たちの生々しい声を切り取るために強引にカメラを回すのではなく、もっと寄り添う形で撮ることができたのではないかと。

ーー岩淵監督のほか、4名のカメラマンが参加されていますが、やはりバクシーシ山下さんの存在は大きかったですか。

岩淵:そうですね。バク山さんは“存在を消す”のが本当にうまいです。カメラが回っているのに、女の子たちが「渡辺さん嫌いです」と平気で言ってしまう空気を作り出してしまう。むしろ、カメラがあることで彼女たちの言いたいことを引き出させるというか。『ALL YOU NEED is PUNK and LOVE』などBiSHのドキュメンタリーを撮ったエリザベス宮地くんも、ドキュメンタリーの撮影は今回がほぼ初挑戦となる写真家の西光祐輔さん、カメラマンの白鳥勇輝くんの2人も、狩猟民族といいますか、「いい素材を撮ってくる!」というスタンスで参加者たちに密着してくれました。僕はそれを俯瞰で見ながらテーマを探していました。

ーー1週間の合宿の中、参加者たちはもちろん、岩淵監督ほかスタッフの皆さんもまさに24時間気を張り続ける1週間だったかと思います。

岩淵:渡辺さんやスタッフたちはこの1週間はほぼ寝てないですね。完全に日常から切り離された空間で、参加者たちは参加者として、渡辺さんはプロデューサーとして、僕はカメラマンとして、それぞれ役割を与えられて箱庭に入れられていて、どこか“演劇的”な日々でした。参加者たちは全員18歳の設定で、本名も明かさず、合宿期間だけの名前を充てられます。劇中でも参加者が「自分の名前を忘れそうになる」と言っていますがまさにそのとおりで。お金を稼がないといけないとか、次の仕事はどうしようとか、生活のために考える“日常”が一切入ってこなくなるので、ある種の心地よさも僕にはありました。

ーーわずか1週間にもかかわらず、合宿1日目と、最終日の合格者たちの顔がまったく違いました。やはり、撮影をしながら「合格者たちと不合格者たちの違い」は明確に感じるものでしたか。

岩淵:合格者と不合格者の違いは現場でもずっと考えていました。容姿がいい、ダンスや歌が上手い、WACKの既存のアイドルたちとのバランス……渡辺さんの審査基準はどこにあるんだろうと考えたのですが、それは渡辺さんにしか分からないわけです。結局、僕が見つめるべきは、「受かったか、落ちたか」だけでしかないのかなと。先程の演劇的という話とも通じるのですが、それぞれがある種の閉鎖された空間の中で与えられた役割に順応していくんです。渡辺さんはより「プロデューサー」に、合格者は「合格者」として僕らも撮っているし、不合格者は「不合格者」としてコメントにも答え、僕らもその姿を収めている。合格者たちの顔が初日とまったく違うように感じるのは、まさに彼女たちが参加者から合格者に変化しているからだと思います。自ずと作品を観た方たちにもそのように映っていく。当たり前のように聞こえるかもしれないのですが、そういった“変化と順応”がこの作品のテーマになっているのではないかと。

ーーなるほど。アイドルという存在自体も、ある種、求められる役割を演じ続ける要素があると思いますが、岩淵監督が考えるアイドルに必要なものはどんなものでしょうか。

岩淵:劇中でも渡辺さんが話していますが、常に変化していくことが求められると思います。一昔前は「アイドルは清純派でないといけない」というような固定観念があったと思うのですが、今はそれだけではすぐにお客さんに飽きられてしまう。お客さんの予想も追いつかないぐらいに変化していくこと、そしてその変化に順応していけることが今の時代のアイドルに求められていることなのかなと感じました。

●渡辺さんは「悲しさ」大切にしている

ーー本作の面白いところは、24名の参加者がいるにもかかわらず、個人が記憶に残るというよりは、あくまでこのオーディション自体が印象に残っているところです。

岩淵:定番のドキュメンタリーの作り方でいけば、合格者、不合格者からそれぞれ密着する人を決めて、“主人公”を3人ぐらい立てる形になるかと思います。ただ、そういったピックアップではこのオーディションから見えてくるテーマが狭まってしまうと思いました。連続ドラマのように1時間×12本のような分量で参加者全員を描けるなら別ですが、映画という約2時間のフォーマットでは当然それはできない。それならば構造として映画『バトル・ロワイアル』のように42人のクラスメイトを描き分ける方法はないかと考えました。『バトル・ロワイアル』は藤原竜也さんという主役はいますが、彼が映っていないシーンでもほかのクラスメイト同士の殺し合いを描いていきます。でも、その戦い方や死に様は覚えているのに、そのキャラクターの名前はほとんど覚えていない。毎日何人か脱落していく、というフォーマットは今回の合宿とも共通していたので、個人を描くのではなく、その“戦い様”が記憶に残るようにできればと思っていました。

ーーそして、オーディションの合格者たちはWACKの各グループに所属して活動を続けています。現在のアーティスト写真を見たらこれまた別人のような存在感になっていてびっくりしました。

岩淵:合格がゴールではなく、むしろその後の方が厳しい。本作を作っていて感じたのは、合格者たちも決して「幸せ」ではないということです。受かればアイドル活動として地獄のようなあの合宿が毎日続いていくのと同じとも言えるわけで、逆に不合格者たちには別の道が用意されたとも言える。当たり前なんですが、アイドルになれなくても人生は続いていきますから。合宿中は参加者たちに渡辺さんがすごく厳しい言葉をかけていますが、それが実は何よりもの優しさなんですよね。三島由紀夫の『不道徳教育講座』で語られていますが、学生にとって教師は厳しい存在に思えるかもしれないけど、社会のほうが何よりも厳しいのだと。世間は残酷で責任も取ってくれません。その意味で、あれだけきつい言葉をかけていた渡辺さんは、誰よりも優しいなと編集をしながら感じたところでした。

ーーその一方でちょっと面白い絵になっているのが、不合格者を告げた後、決まって渡辺さんがトイレの便座に座ってコメントをしている姿です。ものすごく良いことを言っているのに、状況と合っていないミスマッチさが強く印象に残りました。

岩淵:不合格者を告げた後は、その場にいたくないと思うほどすごく嫌な空気になります。映画の中では描いていないですが、渡辺さんは参加者たちに「30分はここにいろ」と言うんです。この超重い空気を身体に染み込ませろと。そんな重苦しい空気を変えたくて、渡辺さんにトイレに行きませんかと外に連れ出して、撮ったのが始まりでした。だからウケ狙いで入れたというわけではなく、映画を観る方にとってもあのシーンが空気を変えるものになればと。

ーータイトルに「世界でいちばん悲しい」を入れるのは最初からイメージされていたのですか。

岩淵:タイトルのイメージはなかったのですが、自分の中のエンディング曲はありました。現在のものよりもっとメロウな曲で、その最後の歌詞が「大切なのは悲しみだ」でした。露悪的な残酷ショーにするのではなく、悲しみを忘れないようにと気をつけて編集していました。ただ、その曲をエンディングにするとちょっとメロウすぎて。最終的に、BiSの「TiME OVER」に決まり、ただ悲しいではなく前に進んでいく、というメッセージになっていたのでこれで良かったなと思ったんです。で、タイトルが無い状態で渡辺さんに本編を送ったところ、『世界でいちばん悲しいオーディション』というアイデアが届き、これでいきましょうと。

ーー岩淵監督と渡辺さんでどこかシンクロするものがあったと。

岩淵:なんでしょうね。渡辺さんの表現しているものは「悲しさ」を大切にしていると思っています。だから、オーディションに集まった女の子たちのように学校で孤立していた子にもWACKの楽曲は共感されるんだと思います。「悲しさ」があるから強くなれる。

(取材・文=石井達也/写真=池村隆司)

最終更新:1/12(土) 11:28
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