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世界的アーティスト、イケムラレイコを知らない日本人がいるなんて! 最新作《うねりの春》に感じる同時代性

2/8(金) 8:05配信

otoCoto

国立新美術館とスイス・バーゼル美術館との共同企画により、ドイツを拠点に世界的に活躍するアーティスト、イケムラレイコの過去最大規模となる個展が開催されている。

イケムラは三重県津市に生まれ、1960年代に「政治の季節」のまっただ中で少女時代を過ごし、大阪外国語大学でスペイン語を専攻した。1973年には単身スペインに渡り、セビリア大学でアカデミックな美術の基礎を学ぶ。その後スイス、ドイツと居を移し、長年にわたり現代美術界で高い評価を受けてきた。

「群れを離れたライオンがいつも違う場所で眠り、狩りをするように、1人で闘ってきたのかもしれません」

かつてのインタビューで語ったように、拠点を移す度、それまでの言語を一度手放し、新しい言葉で堅牢なヨーロッパ社会に向き合いながら、イケムラは独自の作品世界を築いてきた。異国の東洋人というエキゾティシズムを武器にすることなく、あくまで正統な美術史の担い手として、その王道を志高く歩んできたのである。

日本の美術館では初の個展となった2011年の回顧展から7年余。たゆまず創作に人生を傾けるイケムラに話を聞いた。

「2011年の個展は、人との関わりを意識し、自分の人生を顧みる契機ともなる大切な展覧会でした。今回はより大きな視野で世界を見ています。私が度々描く“少女”が闘って成長してきたことを感じ、秘められた私のメッセージを読み取ってほしい。現代の政治的・社会的問題に対して、判断ではなく感覚で、PC(political correctness)でなくポエジーで捉えたいのです」

展覧会は、イケムラの創作活動の多角的な局面を、16のインスタレーションの集合として構成している。建築家フィリップ・フォン・マットが空間構成を手がける広大な展示空間は、テーマ別のブロックを超えて、互いにつながりあうように設計された。観客は順路にとらわれることなく、1つの空間から次へと動き、佇み、観ることができる。ときには中央の広場のような大展示室で休憩し、そこからまた思い思いの方向へ自由に散っていけるのだ。それは(かつてEUが目指した)人と経済と文化が自由に行き交う理想郷のメタファーにも思えた。

「ヨーロッパに拠点を置いていても、常に考えるのは東洋的な哲学です。そこには始まりも終わりもなく、死は再生につながる、対立ではなく循環にもとづく世界観と歴史認識があります。この展覧会では、しなやかにつながり、視界がひらける空間をつくる、その態度こそ私のアートの表明であると考えました。観る人々が受け身でなく、作品と共に呼吸できる空間を目指しています」

壮大なスケールの展示空間のなかで、これまで手がけた全てのシリーズを網羅しながら、気ままに歩みを進めるにつれてビビッドに彩りを変える構成には、隅々まで成熟した詩性が宿るようだ。

力強い描線が尖りきった烈しい自意識を示す、新表現主義的な初期のドローイング。薄闇から曖昧な輪郭を現す、精霊のような少女たちを描いた絵画や彫刻。さらにイケムラ自身の自由で豊潤な言語感覚に満ちた詩が、全編にわたって散りばめられている。

なかでも特筆したいのは、1980年代から手がけているテラコッタや陶器の作品を集積したインスタレーションだ。人や動物や架空の生きものたちを思わせるオブジェが、古代遺跡の土中から発掘されたばかりの土偶のように、無垢なとぼけた姿で林立している。

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最終更新:2/8(金) 8:05
otoCoto

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