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クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」は、なぜわたしたちの心を揺さぶるのか?

2/10(日) 14:10配信

WIRED.jp

ロック史上最高のパフォーマンス

映画の冒頭と最後のシーンは、1985年にボブ・ゲルドフとミッジ・ユーロが企画したライヴエイドだ。エチオピアの飢餓支援を目的としたこのチャリティーコンサートでのクイーンの演奏は、30年以上を経たいまでも、ロック史上最高のパフォーマンスのひとつとして語り草になっている。

マーキュリーはステージの上を走り回り、アメフトの試合でのチアリーダーのように、全身で感情を表現する。38歳の彼は口ひげを生やし、ハイウエストのストーンウォッシュデニムに、胸毛が完全に見えるほど襟ぐりが広く開いた白いタンクトップという出で立ちで、右腕にはスタッズのリストバンドが巻かれていた。

パフォーマンスはマーキュリーが奏でるピアノで幕を開ける。会場のウェンブリー・スタジアムに集まった7万2,000人の目が自分だけに注がれていることを、マーキュリーは十分に意識していた。それどころか、テレビの向こうでは20億人近くが彼の一挙手一投足を見つめているのだ。

コンサートが始まってからすでに7時間が経過していたが、会場からのリアクションに疲れの色は見えなかった。観客は両手を上げて熱狂し、マーキュリーは彼らに向かって投げキスをした。

宇宙からの力に支配されているかのようにも見えるこの20分間を目撃した人は、体内に興奮が湧き上がってくるのを抑えられないはずだ。この光景を目にすれば誰でも、マーキュリーはこの日のために生まれてきたのだと思うだろう。

野心のかけらも感じられない瞬間

ライヴエイドでの1曲目は、映画のタイトルにもなった「ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody)」だ。クイーンの4枚目のスタジオアルバム『オペラ座の夜(A Night at the Opera)』のためにマーキュリーが1975年に書き下ろしたもので、これまでに存在するポップミュージック作品のなかで最も力強く、また最も複雑な曲のひとつであることは間違いない。

ピアノバラードやハードロック、オペラなど複数のスタイルを融合させ、歌詞にはイタリアの即興喜劇の道化師スカラムーシュまで登場する。ただ、マーキュリーが「ぼくは死にたくない、ときどき自分なんか生まれてこなければよかったと思う」と叫ぶように歌うとき、曲は別の次元に達している。

彼がこの瞬間に何を思っていたにせよ、それは理性によって説明できるものではないだろう。そこには、有名になりたいといった野心などかけらもない。

続くメイのエレガントで叙情的なギターソロのメロディも、それを裏付けている。人生はつらいものなのだ。

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最終更新:2/10(日) 14:10
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