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映画『ファースト・マン』が描く、アポロ11号の真実の姿

2/11(月) 12:00配信

現代ビジネス

血みどろの顔つき

 これほど爽快感を伴わない宇宙船打ち上げのシーンが、かつてあっただろうか。 人類史上初の月面着陸を目指すアポロ11号の発射直前。この偉業に挑む男たちをカメラに収めるべく、詰めかけている報道陣。

 そのフォトセッションゾーンに向かう、アームストロング、オルドリン、コリンズの3人の宇宙飛行士の表情は、晴れやかではない。凍りついているようにすら見える。ヒステリックに焚かれるカメラのフラッシュを浴びて、彼らが歩んでいく先にあるアポロ11号の乗り込み口は、不気味な雰囲気を漂わせている。

 映画『ファースト・マン』(公開中)は、人類で初めて月面を踏んだ男、ニール・アームストロング公認の伝記「ファースト・マン」(2006年に日本でも刊行)を原作とする作品だ。

 この映画には、宇宙船を船外からカッコいいアングルで捉えたような、いわゆる「絵になるカット」がほぼ存在しない。宇宙は、宇宙船の小さな窓でトリミングされたサイズでしか映されないし、船内は身動きがとれないほどに狭い。観客は、息苦しいほど密閉された空間に束縛され続ける。実際の宇宙飛行士たちがそうであったのと同じように。

 監督を務めたのは、「セッション」「ラ・ラ・ランド」と、デビュー以来相次いで話題作を放ち、オスカーも射止めたデイミアン・チャゼル。

 原作は、1400年代のアームストロング家の祖先の話から、ニール・アームストロングの死に至るまでを、宇宙工学の知見の解説も充分に加えながら、網羅的に綴っている。

 これに対して、映画「ファースト・マン」は、テストパイロットとなったアームストロングが、X-15(高高度極超音速実験機)に乗り込み、140,000フィートの成層圏に到達するシーンから幕を明ける。上下巻で757ページにも渡る原作の中でも、特に宇宙への挑戦、にフォーカスを当てた構成だ。

 映画の序盤、アームストロングは2才の娘を脳腫瘍で失う悲劇に見舞われる。愛娘の葬儀のシーン。地中に降下していく小さな棺桶が映される。この映画で、その棺桶と相似形を成すのは、空に打ち上げられる宇宙船だ。娘の死後、間を置かずして、彼はNASAが募集をかけた宇宙飛行士のセレクションにエントリーし、合格する。土に埋葬された娘と、空に打ち上げられる父。この作品のコアには、2人の非対称な動きが、埋め込まれている。

 アームストロングが海軍に所属し、飛行士となったのは、大学在学中のことだった。朝鮮戦争での実戦を経験後、軍用機のテストパイロットに転身する。当時のテストパイロットは、我々の想像以上の危険を伴っていた。伝記「ファースト・マン」に、アームストロングがちょうどテストパイロットであった時期のデータがある。そこには、こう記録されている。”36週で62名のパイロットが命を落とした”と。

 空とは、宇宙とは、人類にとって、かくも危険な場所であったのだ。この映画は、そこに漂う死の香りを、正確にフィルムに焼きつけている。宇宙開発は、ロマンだけではない。実際は、死を巡る血みどろの顔つきをしている。

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最終更新:2/11(月) 12:00
現代ビジネス

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