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がん専門医が、がん再発 そのとき選択した「がん免疫療法」とは?

3/3(日) 9:02配信

FRIDAY

取材・構成:青木直美(医療ジャーナリスト)

「医者がこんなこと言ったらアカンのかもしれんけど、自分ががんだと知らされたときは、そりゃ一瞬、頭ん中が真っ白になりましたよ。こう見えて気が小さいから、冷や汗がどんどん出てきて……。ああ、僕はもう、これで死ぬんかなぁと……。これまで末期のがん患者や家族と接して、長年がんの治療と研究に明け暮れてきた。そんな自分も、がんに侵されたと分かった瞬間はうろたえ、たじろぐものだったんです」

武田医師のもとで最新の免疫療法を受けている人の「生の声」と治療の写真。

そう振り返るのは、大阪市北区にある『大阪がん免疫化学療法クリニック』院長の武田力(つとむ)医師(65)だ。同医師は、抗がん剤治療やオプジーボ、オーダーメイドがんワクチンをはじめとする最新の「がん免疫療法」のエキスパート。そして同時に、9年前にステージ3の進行がんが見つかり、主治医から「5年先の生存率は30%」と宣告されたがん患者でもあるのだ。

がんと向き合い続けてきた専門家ががんにかかったとき、いったい何を考え、どんな治療法を選択するのか――。武田医師の言葉からは、トップドクターだからこその葛藤と、生々しい闘病の記憶が浮かび上がってくる。

「はじめ、自分ががんだと宣告された瞬間は本当に動揺しました。そやけど、なってしまったものは仕方がない。頭を切り替えて、前向きになるしかなかった。自分にとってベストな治療法を選ぼうと、徹底的に情報収集をしました。たとえば大阪大学や近畿大学、成人病センター(現・大阪国際がんセンター)で手術や放射線治療を行っている専門家から話を聞き、“一番いい治療法“を探していったんです。数ある治療法の中で、結局、僕が選んだのは“手術“でした。周りには自分ががんにかかったことは伏せていたので、ウチのスタッフに対しても『アメリカで学会があって、どうしても行かなアカンねん』と説明していました。表向きは海外出張扱いにして、1ヵ月間は治療に専念したんです。その間は、阪大で消化器外科の講師をしていた実弟がクリニックに来て、診療を助けてくれていました」(武田医師=以下、「 」内はすべて本人)

手術は無事成功し、経過観察へと入った。だが――。術後の傷が癒(い)えてきた数ヵ月後に、血液検査で「再発」の疑いが現れた。腫瘍マーカーの数値が通常の10倍以上に跳ね上がっていたのだ。しかし、CT検査をしても画像にはがんらしき影は写らず、どこにがんがあるのか分からない。

「主治医にはその時点で、手術した患部周辺に放射線を当てる治療を勧められました。でも、僕はクリニックを持つ経営者やから、数十人いるスタッフの生活を守らなアカン。それに、ウチで治療中の患者さんを途中で投げ出すわけにもいかへん。そのためには、副作用が強く出て仕事に支障をきたすような治療はどうしても避けたかったんです。そこで、日米でがんワクチンの研究を続けていた中村祐輔先生(66=現・がんプレシジョン医療研究センター所長)に相談したんです。『いま、自分の体はこういう状態なんやけど、先生ならどのワクチンを使う?』って」

当時、中村医師の研究グループは新たながんワクチンを発見した絶好のタイミングだった。武田医師はワクチンの可能性に賭けたのだという。

「ただ、このワクチンには特殊な溶液が必要でした。当時このワクチンを臨床の場で使用していた山口大学の硲(はざま)彰一先生の協力を得られれば、自分のクリニックでも打てることが分かった。もちろん確実に効く保証なんてない。でもこの方法なら、強い副作用が出ないので、いつも通り仕事を続けることができる。QOL(生活の質)を保ちながら治療効果が出るならば、それが自分にとってベストな選択だと思いました。主治医には一度免疫療法を試してみて、効かなければ放射線治療をしたいと伝えました。そしてがんワクチンの治療に踏み切ったんです」

幸い、ワクチンの投与を始めると、武田医師の腫瘍マーカーの数値はみるみる下がっていき、数ヵ月で正常値にまで落ち着いた。がんワクチンの治療が功を奏したのだ。

「腫瘍マーカーが下がってからも、数年はワクチンを打ち続けました。再々発の可能性を考えると、血液検査で腫瘍マーカーの数値を測ることは今でも怖い。年に1~2度受けるCT検査も、結果が出てくるまでしばらく待たないといけないんです。その時間がホンマに長く感じるし、気持ちが淀んでイヤなもんなんですよ。がんワクチン治療の効果が出てからも、5年経つまでは、いつ死ぬか分からへんという気持ちが常に心のどこかにありました。だから、僕はウチへ来られる患者さんやご家族の不安、焦燥感が痛いほど分かるんです。その気持ちに寄り添って、できるだけ本人が望む治療をしてあげたい。そのためにも、しっかりとデータを積み上げて、きちんと公開していくことが大切なんやと思っているんです。ただ、がんというのは千差万別で、治療のタイミングやがんの種類によっては抗がん剤や放射線のほうがいい人もいます。だからこそ、ウチに来る患者さんには、必ずそこをよく考えて選ぶようお話しています」

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最終更新:3/3(日) 11:08
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