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睡眠薬の認知症リスク 本当のところどれくらいある?

3/3(日) 10:21配信

NIKKEI STYLE

「睡眠薬」「ステロイド剤」「抗がん剤」――これらの薬は患者さんが使用を躊躇(ちゅうちょ)するトップ3なのだと、ある薬剤師さんが教えてくれた。嫌われる理由は「効果はあるが副作用も強い」というイメージがあるからだという。今回は、睡眠薬と副作用について書いてみたい。

9割の食塩からマイクロプラスチック アジアが最多

 確かに日本人の睡眠薬嫌いはつとに有名だ。不眠で困った時の対処法として、他の国では「医療機関に相談して睡眠薬を処方してもらう」人が半数を占めるのに対して、日本人では10%程度に過ぎない。「カフェインを控える」という定番の対処法をとる人も同じく10%に留まる一方で、むしろ依存症につながる危険もある「寝酒」をやる人は30%とダントツの1位であった。

 睡眠薬を服用する際の心配事の上位に必ず登場するのが、「飲み続けると認知症になる」というもの。週刊誌の「この処方薬が怖い」といった特集でも、睡眠薬は必ずやり玉に挙がり、「認知症になるリスクを高める!」という記事も見かける。こうした記事をうのみにして急に服用を止めて体調を崩す患者さんもおり、いたずらに不安を煽る記事には、必要があって処方する側の医師として本当に苦々しい思いをしている。

 以前、厚生労働省の事業の一環として一般の方を対象にした睡眠薬に関する意識調査を行ったことがある。「やめられなくなる」「禁断症状が出る」「だんだん効かなくなって量が増える」「飲み過ぎると死ぬ」など多くの人が睡眠薬に関するさまざまな心配事を抱えていることが明らかになっている。ちなみに、2000年代以降、つまり最近20年間に開発された新しいタイプの睡眠薬(メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬)についてはこれらの心配はほとんどない。

 では、睡眠薬の服用で認知症にかかりやすくなることはあるのだろうか? 認知症のリスクに関しても新しいタイプの睡眠薬については心配ない。ただし悩ましいのは1970年代から90年代にかけて開発された少し古いタイプの睡眠薬(ベンゾジアゼピン受容体作動薬)で、認知症のリスクを高めるかどうかいまだに白黒がはっきりついていない。しかも国内で流通している睡眠薬のうち、この「グレーゾーン」にあるベンゾジアゼピン受容体作動薬が現在でも実に9割を占めるのである。

 また、一口に認知症のリスクが高まると言っても、その危険度がどのくらいなのかキチンと説明している記事はほとんどない。そこで、これまでの調査結果を詳しくみてみよう。

■実際どの程度のリスクがあるのか

 睡眠薬のような薬物に限らず、たばこや酒、ある種の食品などを摂取していることが、認知症や糖尿病、がんなどの病気のリスクを高めるか明らかにする場合、その物質を摂取(専門用語で「曝露」と呼ぶ)した人々と、曝露していない人々を数年から十数年など長期間にわって追跡する「コホート研究」が行われる。その物質が本当にリスクを高めるのであれば、暴露している人々でより発症率が高くなるはずである。

 例えばフランスで行われたあるコホート研究では、平均年齢78歳の地域住民1000人以上を対象にして、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を服用している高齢者と服用していない高齢者を最長15年にわたり追跡した。

 気になる調査の結果はと言うと、服用している高齢者の方が服用していない高齢者に比較して1.5倍、認知症にかかりやすいことが明らかになった。他にも同種のコホート研究が延べ5万人近くの高齢者を対象にして行われており、「認知症のリスクを高める」と結論づけた研究の大部分は似たような結果が得られている。

 ちなみに、調査対象となったベンゾジアゼピン受容体作動薬は何十種類もあり、その中で不安緩和作用の強いものは抗不安薬(いわゆる安定剤)として、催眠作用の強いものは睡眠薬として処方されている。そして、先の調査では抗不安薬と睡眠薬のいずれか(もしくは両方)を服用していた高齢者がひとまとめに対象となっている。抗不安薬の服薬時間帯は昼、睡眠薬は夜なので脳に与える影響も異なるのだが、その辺りは調査結果を解釈する上での限界がある。

 いずれにせよ、日本人の実に5%以上が医療機関から処方されたベンゾジアゼピン受容体作動薬を定期服用しており、とりわけ認知症が気がかりな高齢者での服用率が高いため、心配になる人が続出するのは当然である。

 さてここで、先のフランスでの調査結果をもう少し細かく見てみよう。ベンゾジアゼピン受容体作動薬を服用している高齢者では平均6年間服用して、その間に100人当たり4.8人が認知症を発症したのに対し、服用していない高齢者では同じ期間に100人当たり3.2人が認知症を発症した。その比をとって「1.5倍のリスク」というわけである。より正確には、服用群と非服用群との間には平均年齢、男女比、持病の有無、その他の服用薬剤などの違いがあるため統計学的手法で調整をして上記の結論を得ている。

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最終更新:3/3(日) 10:23
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