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2度目のキャンプMVP 阪神・北條史也は2年前の「悪夢」を乗り越えられるか

3/4(月) 11:00配信

文春オンライン

 24歳の言葉には、何とも言えない実感がこもっていた。「2年前は、まだまだ僕の甘いところがあったので……」。苦い、いや苦すぎる記憶を噛みしめ、阪神タイガースの7年目・北條史也は、口元を引き締めていた。

「このキャンプで一番良いものを見せてくれた」

 1カ月に渡るキャンプを打ち上げた2月27日。期間中、一番と言える晴天の下で矢野燿大監督は、MVPに北條の名を挙げた。「総合的に。練習に取り組む姿勢とかも。元気とか。結果も本当に素晴らしいものを見せてくれた。成長というか、このキャンプで一番良いものを見せてくれた」。実戦で打率・5割以上をマークした打撃成績よりも、強調したのは“熱気”“活気”“元気”。抽象的で見えないものでも、その背中から感じる“気”を確かに感じ取っての選出だった。

 思い返せば、どん底にいた若虎と最も多くの時間を過ごしてきたのが、他ならぬ指揮官だ。昨年は2軍監督として、もがき苦しむ姿を間近に見てきた。開幕を2軍で迎えた北條をファームでは中軸で起用し続け「ホームランをバンバン打つんじゃなくて、広角に外野の間を抜いていく。1軍でジョーはそういうバッターになって生きていかないといけない」と中距離打者としての未来像へ導いた。

 自分のスタイルを見つめ直し、6月に2度目の昇格を果たすとシーズン中盤からは2番に定着。本塁打は1本でも、62試合で77本の安打を積み重ねた。そんな矢先、9月14日のヤクルト戦で三遊間の打球に飛びついて左肩を亜脱臼。シーズンエンドの大きな故障だった。不本意な形で2軍に戻ってきてしまった北條に、矢野監督は「あれを飛び込まないお前より、飛び込むのが北條じゃないの」と励ました。今思えば“あいつは強くなって必ずはい上がってくる”と見越してかけた言葉だったかもしれない。

2年前の「悪夢」

 そして、冒頭の言葉だ。大きなケガを乗り越え、1軍で指揮を執ることになった矢野監督のもとに再び戻ってきた北條自身は、2年前の「悪夢」を払拭しにかかる。実は、17年の春季キャンプでも当時の金本知憲監督からMVPに指名。「北條を使わないわけにはいかないでしょう」と言わしめ、遊撃で不動のレギュラーだった鳥谷敬との一騎打ちは早々と決着してしまった。

 だが、オープン戦で一線級の投手を相手に苦しんで開幕を迎えると、最後まで復調が見られずレギュラーの座から陥落。時間にしてわずか数カ月で急上昇と下降を味わった、あの1年……。フラッシュバックして思い返すたび、拳に力が入る。

 ちょうど2年後「甘いところがあった……」と厳しい表情になり「そういう経験もあって、まだまだ気を抜かずにやっていく。これからが本番。キャンプMVPに選んでもらってもシーズンでダメだったら意味がないので」と強い自戒を込めた。

 キャンプ打ち上げ後、北條と少しだけ話すことができた。1軍クラスの投手との対戦が増えることに「今の実力を試せるか」と聞くと、強く首を振った。

「試せるとかじゃないですよ。もう結果も内容も残していかないといけない。良い投手が来て、お手上げ状態ではダメなんでね」

 気づけば、自分のスイングができなくなっていた2年前の3月。あの時、桜の蕾は大きく膨らみながらも、静かに散った。MVPからスタートする2度目のシーズンは甘かった自分を、強くなった北條史也が乗り越える1年。秋まで咲き乱れる「満開」の桜を見たい。

遠藤礼(スポーツニッポン)

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チャリコ遠藤

最終更新:3/27(水) 14:03
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