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大分、偶然ではない強さの源泉は? 6年ぶりJ1で好発進、監督・選手の言葉から滲み出るもの

3/11(月) 10:28配信

フットボールチャンネル

明治安田生命J1リーグ第3節が9日に行われ、大分トリニータはジュビロ磐田に2-1と勝利した。これで大分は開幕3試合を終えて2勝を達成。シーズンは始まったばかりだが、今後への期待を感じさせる。好発進の要因とは?(取材・文:青木務)

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●341対1670

 経験値の低さなど、彼らにとっては取るに足らない問題だった。下部カテゴリー時代から積み上げてきたスタイルを武器に、大分トリニータは日本最高峰の舞台で旋風を巻き起こそうとしている。

 明治安田生命J1リーグ第3節、ヤマハスタジアム。6年ぶりにJ1復帰を果たした大分は、アウェイの地でジュビロ磐田を2-1で破った。90分間、やるべきことを実践し続け、意図した形で2ゴールを奪取。開幕戦でアジア王者・鹿島アントラーズを撃破しているが、この日も丁寧で躍動感溢れるサッカーを披露した。

 大分はエースストライカーの藤本憲明を筆頭にJ1初挑戦の選手が多い。試合前に配布されるメンバーリストを見ても、今季出場数と通算のそれが同じという選手が5人。ベンチメンバーを含めた18人の合計は341試合だった。

 一方で磐田は計1,670で、100試合以上の選手は4人。特に大久保嘉人が430試合、控えの中村俊輔も385試合と経験豊富な猛者が揃う。

 J1における場数という点で大分は圧倒的に劣勢だが、勝ち点3を獲得したのはそんなフレッシュな集団だった。その戦いぶりからは、J1の舞台に臆する様子など微塵も感じらなかった。

 この試合では、相手に退場者が出たことで前半のうちに大分が一人多い状況となった。とはいえ、数の上では有利となっても逆にバランスが崩れる危険性もある。そんな中でも彼らは変に意識することなく、同点とされても慌てず戦いに集中した。そして、奪った2得点はいずれもサイドからのクロスがきっかけで、大分のスタイルを示すものだ。チームは試合開始から終了まで、自分たちの狙った形を出せるようにプレーしていた。

●狙った形でゴールを奪う

「10人の相手に戦わなければいけなくなった状況、簡単そうに見えて一つ間違えると厳しい試合になる、紙一重の戦いだったと思います。そういう中で選手は、相手が10人だろうがどういう状況だろうが、自分たちの狙いを合わせて90分切らさずに、最後までやってくれました」

 大分の片野坂知宏監督は試合後、時折声がかすれながらも丁寧な口調でイレブンをたたえた。3-4-2-1のシステムで戦った大分はサイドを起点に、周囲との連係から相手を崩していった。

 先制点を挙げるなど勝利に貢献した藤本も、ワイドからの攻撃に手応えを感じている。取材エリアを素早く通過しようとして記者陣に呼び止められたエースは、いたずらっぽく笑うと真剣な表情で試合を振り返った。

「相手が10人になってからも慌てて攻めないで、しっかりサイドからテンポ良くボールを動かすことができた。クロスのフィニッシュのところは集中して、決め切れるように準備していました。(松本)山雅戦とかも同サイドから行き過ぎている場面があったと思うんですけど、そこは少し改善して、いいテンポといい距離感のなかでもっともっとサイドを攻略したいと思います」

 後ろからボールを繋ぎ、味方が的確に顔を出してパスを受ける。その繰り返しの中で相手の隙を探り、チャンスの瞬間を逃がさない。先制点は右サイドの深いところへ後藤優介が侵入し、2点目は左サイドでパスを回すと福森直也がアーリークロスを供給した。「相手の変化を見て判断して、攻撃を構築する狙いでやっています」と指揮官は話したが、2点ともその言葉通りだった。

●より深く分析されてからが勝負

 開幕3試合を終えて2勝1敗。前回J1に所属した2013年が2分1敗のスタートだったことを考えれば、滑り出しは最高と言える。気負わず溌剌とプレーし、結果も手にしているのだから、自信も膨らんでいくはずだ。それでも、チームに浮ついた空気はない。

「2勝1敗で勝ち越していますけど、これからだと思います。我々はJ2・2位で自動昇格して、18位からのスタート。自分たちのプレーや選手の個性というところは、これから試合を重ねれば重ねるほど対戦するチームから分析されやすくなると思います。今後そういう形になった時こそ、自分たちの力が問われるかなと」

 片野坂監督は謙虚に語っている。その上で、こう続ける。

「今後31試合あるのでやはり気が抜けないですし、しっかりと今日のように相手に対して自分たちがどういう風に戦術を合わせていくか。そうすることで必ずいい成果につながるということを選手たちにも伝えながら、いい準備をして何とか残留、自分たちの目標を目指してやっていきたいと思います」

 選手たちもチームの勝利のため、さらなる向上を望んでいる。開幕戦の2発で注目を浴び、今節も得点感覚を示した藤本は言う。

「やっぱりサイドから、というところで合ってきていると思いますし、(相手が)前から来ればしっかりと裏、ラインを突破するための駆け引きもできているなと。色々なパターンというのも大分の魅力の一つだと思うので、サイドだけにこだわらずに真ん中が空けば中央突破というのも自信を持ってやれる。まだまだこれからですけど、もっともっとコミュニケーションを取っていい関係を築き上げたいなと思います」

●兼ね備える謙虚さと野心、確固たるプレースタイル

 対策を講じられたとしても、それを上回る覚悟だ。藤本に不安はなく、今後も血眼になって対応してくるであろう相手との駆け引きを楽しみにしている様子だ。

「必ず空いてくるところがあると思うので、相手の変化を見ながら戦っていきたい。そこは焦れずに、テンポのいい回しとかで(マークを)外しながら、数的優位を作りながらというところ。大分らしいサッカーを今年1年続けられれば、いい結果が出るかなと思います」

 今季加入の高山薫は、大分においてJ1での経験値が随一の選手。彼は大分について「本当にチームとしてやっていることが正しいなと思うし、J1でこのチーム、戦えるなと。どんどん成長できるなと思います」と手応えを掴んでいる。

 これまでプレーしてきたクラブとは特徴が異なるが、少しずつアジャストしている。そこには片野坂監督のサポートももちろんあるという。高山は指揮官のアプローチを「本当に面白い」と言うと、その理由をこう説明する。

「駆け引きの部分で『相手がこう来たとして、こうすれば空くよね』とか、すごく言ってくれる。最初は結構難しくて、まあ今も全然できていないですけど(笑)、そういうのを意識してやれるのは楽しいなと思いますね」

 大分はスタイルのベースが作られており、局面でやるべきことも共有されている。それを一人ひとりが実行するからこそ、「狙った形」を作り出すことができる。

 一時はJ3まで落ち、そこから這い上がってくる中で苦しい状況も経験したはずだ。謙虚に戦い続け、一つずつ勝利を積み重ね、そして自信を育んできたのだろう。

 それでいて貪欲さも持ち合わせている。長いシーズンでは、相手に研究され持ち味を消される試合も出てくると思われる。それでも、謙虚で野心的、そして確固たるビジョンの下でサッカーを展開する大分は観る者を魅了するはずだ。何があっても培ってきたものを見失わずに戦っていけば、目標であるJ1残留も早く達成できるのではないか。

(取材・文:青木務)

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