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幻のシャチは新種となるか、科学調査に初めて成功

3/11(月) 14:34配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

荒れた海に暮らす「タイプD」のシャチ集団、野生下でDNAも採取

 世界屈指の荒れた海に、普通のシャチとはだいぶ違った幻のシャチがいる。「タイプD」と呼ばれるシャチだ。

【動画】幻のシャチ「タイプD」を動画で撮影

 このほど初めて、科学者たちが野生のタイプDに接触し、調査することに成功した。米海洋大気局(NOAA)の研究者ロバート・ピットマン氏は、このシャチは新種である可能性が「非常に高い」と言う。

 科学者チームがこのシャチの群れに遭遇したのは2019年1月。場所は、南米の最南端にあたるチリのホーン岬から約100kmの、ピットマン氏いわく「世界で最悪」の荒れた海域だ。

 タイプDのシャチの存在はこれまでも知られていた。ただし、1955年に大量座礁が一度あったほか、アマチュアによる写真や映像、漁師の証言などがあるだけで、鯨類の専門家が野生下の個体に遭遇したことはなかった。普通のシャチとは違い、タイプDのシャチは頭部が丸く、背びれは尖って幅が狭く、アイパッチと呼ばれる目の上の白い模様が非常に小さい。体長も数十センチ小さいようだ。

 調査船に乗り込んだ研究チームは、最近漁師たちがタイプDらしきシャチを見かけたという海域に投錨した。1週間以上が経過したとき、ついに25頭ほどのシャチの群れが近づいてきた。

 科学者たちは水中と水上からシャチを撮影し、無害な手法で皮膚と脂肪の小さな断片を採取した。今後シャチのDNAを調べることにしていて、これによりタイプDが新種かどうかが確定する(現在は、サンプルをチリ国外に持ち出すための輸出許可証の発行を待っているところだ)。

 シャチたちは人間や船に興味をもったようで、2時間ほど船のまわりに集まっていた。研究者が水中に投入した水中聴音器を熱心に探っていたが、一度も発声しなかったという。

50年ぶりの写真

 タイプDのシャチに関する最初の記録は、1955年にニュージーランドで10頭以上の群れが座礁したときのもの。それから半世紀が経過した2005年、ピットマン氏は、インド洋のはるか南にあるクローゼー諸島で調査を行っていたフランス人科学者ポール・ティキシェ氏が収集した写真を見た。

 明らかに、1955年にニュージーランドに座礁したのと同じタイプのシャチだった。「写真を見て、まったく驚きました」とピットマン氏は言う。「じつに50年ぶりの確認だったのです」

 これらのシャチは、クローゼー諸島やチリ近海の漁師には「魚泥棒」として知られ、漁獲の3分の1を奪ってゆくこともあるという。

 2人の研究者は、写真や記録に基づいてタイプDのシャチに関する最初の論文を執筆し、2010年に学術誌「Polar Biology」に発表した。しかしピットマン氏はいつか野生の個体を見つけようと心に決めていた。

 現在、オーストラリア、メルボルンのディーキン大学で研究しているティキシェ氏は我々のメール取材に対して、「今回、このタイプのシャチから初めて生検サンプルを採取できたことで、タイプDだけでなくシャチ全体の進化や食性、すみ分けについて知見を増やすことが可能になりました」と答えた。

 通常のシャチと生態が異なり、別の「タイプ」とされるシャチは、南極近辺だけでタイプDのほかに3種類いる。見た目は通常のシャチと同様だが主にミンククジラを食べる「タイプA」、やや小型でアザラシを主食とするものが多い「タイプB」、魚を主食とする「タイプC」だ。

 しかし、タイプDのシャチは他のシャチとは見た目がずいぶん違っている。「タイプDは、外見上の違いが最も大きいのです」とピットマン氏は言う。

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