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靴ひもが自動で締まる「アダプト BB」は、こうして映画の世界を超えていく

3/11(月) 12:14配信

WIRED.jp

「強烈な一撃をみなさんにお見舞いしましょう」。ナイキのデザイナーでクリエイティヴ・コンセプト担当副社長のティンカー・ハットフィールドがそう呼びかけ、右の拳を突き出した。その手には、黒いグローヴがはめられていた。

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この数日前、ハットフィールドは電動スケートボードに乗っていて転倒していた。大学時代に棒高跳びにいそしみ、これまでずっとスキーに親しんできたおかげで、66歳になっても体が身の守り方を覚えていた。しかし、転んだときに親指を地面にぶつけて突き指をしてしまった。地面のほうはびくともしなかったのは言うまでもない。

またスケートボードに乗って滑ることはできるが、もろくも負傷してしまった親指は治療しなければならない。だが、世界で最も有名なスニーカーデザイナーでもある彼にとって、指を固定するなんて論外だった。そこでハットフィールドは医師にこう伝えた。「ギプスはやめてほしいな。ペンを持てないのは困るんだから」

そして結局、合成ゴム素材のネオプレンでできた黒い手袋をはめることで決着した。これなら鉛筆やタッチペンを握れるし、ぐるぐる巻きのテーピングがはがれることもない。親指の内側側副靭帯を傷つける恐れもない。それに、かさばるものや重い荷物を持たずに済むようにしてもらっていた。

12月の月曜日の寒い朝。ハットフィールドのプレゼンテーションを聞きながら、奇妙な偶然の一致を考えずにはいられなかった。

ここはオレゴン州ビーヴァートンにあるナイキの広大な本社キャンパスあるビルの一画、「イノヴェイション・キッチン」と呼ばれる部屋だ。このキャンパスのなかでも最も情報管理が厳しい建物にある、最も機密性の高い一角だろう。

そんな部屋で、足を支えて守るスニーカーの発表を聞いている。そして、プレゼンターのハットフィールドもまたグローブにサポートされ、守られているのだ。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で夢見た製品への挑戦

自動で靴ひもを調整する機能を搭載したスニーカー「ナイキ ハイパーアダプト 1.0」を、ナイキが2016年に初めて発売したことを覚えているだろうか? 

それは30年以上も前に映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』に登場した靴で、ナイキが実現を夢見ていたものだった。しかし、720ドル(約79,700円)と高価だったうえ製造プロセスに問題もあり、実用的なスニーカーというよりは、実現可能性を証明する概念実証の意味合いが強かった。

しかし、このヴァージョン「1.0」にはよい部分もあったことから、プロジェクトは一度きりでは終わらなかった。こうして誕生したのが、「ナイキ アダプト BB」だ。ナイキが19年1月15日に発表した新しいバスケットボールシューズは、同社が独自開発した「Fit Adapt System」を量産モデルとして初めて採用した製品だ。

アダプト BBの量産を実現させるにあたり、安定性向上とシューズの寿命を両立させることは、ナイキにとってエンジニアリング上の試練となった。

その試練を乗り越えた結果、アダプト BBは無線で充電が可能で、ユーザーの好みの締め付け具合を記憶し、運動パフォーマンスを分析する機能まで搭載した。“スマートフットウェア”に求められるすべてが統合されたエコシステムの頂点に、初めてたどり着いたのだ。

PETER RUBIN

最終更新:3/11(月) 12:14
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