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なぜ緊急地震速報チャイムは“怖い”のか――作曲者が明かす「アイヌ文化」との意外な関係

3/11(月) 7:00配信

デイリー新潮

 突然、NHKから流れる緊急地震速報。「チャラン、チャラン、緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください」。これを聞いて、8年前の東日本大震災を思い出す方も多いのではないだろうか。速報が流れれば、直後からSNSには〈地震よりあの音が怖い〉〈音がトラウマになるレベル〉なんて声も散見される。耳にするたびに、“怖い”と感じるこの音。生みの親である人物に、緊急地震速報が“怖い音”である理由を聞いてみた。

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 NHKの緊急地震速報チャイムの作曲者は、福祉工学のパイオニアである東京大学名誉教授の伊福部達(いふくべとおる)氏だ。伊福部という珍しい名字にピンとくる人ならご存知、あのゴジラ音楽の作曲者である、故・伊福部昭(あきら)氏の甥にあたる人物である。

 東日本大震災のときは、水爆から生まれたゴジラと原発事故とを結びつける、緊急地震速報チャイムの世代を超えた奇縁が話題にもなったが、

「東日本大震災のとき、学生から『先生のチャイム音はゴジラと関係があるとツイッターで大騒ぎになっている』と教えてもらいました。たしかに、叔父の音楽をもとに緊急地震速報チャイムを制作しましたが、ゴジラの音楽からではありません。同時期に叔父が作曲した純音楽(西洋クラシックの流れを汲む現代音楽)の『シンフォニア・タプカーラ』の和音がベースです」

 と語るのは、伊福部氏ご本人である。NHKから依頼を受けて緊急地震速報チャイムを作成するにあたり、様々な困難があったという。

ネックは著作権と既視感

 最初に問題となったのが著作権問題。日本では映画を除けば、通常は著作者の死後50年だが、注意すべき点はそれだけではないようだ。

「当初、私が若い頃から好きだった、ロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキー(1839~1881年)の組曲『展覧会の絵 古城』をもとに、緊急地震速報チャイムを作ろうとも考えました。ですが、後世に作られた編曲(アレンジされた曲)が膨大にあり、またどこまで緊急地震速報チャイムに改変していいのかという著作権の問題を、半年間という短い制作期間でクリアできるのかが大きな壁となりました」

 そこで、2006年に亡くなった叔父の音楽に頼ったという。

「叔父の音楽の権利を相続した息子たちにお願いすれば、著作権の問題は解消します。ただ、著作権に抵触しないこと以外にも、緊急地震速報チャイム制作には『どこかで聞いた音ではない』という条件を設けました。だから、ゴジラ音楽は使えません。そこで、叔父の映画音楽ではなく、純音楽に注目したのです。独学で作曲を学んだ叔父の音楽は、発表当時はアカデミックな中央楽壇にとっては恥だったようで、徹底的に批判されていました。こんな古くさい音楽はもう通用しないとか。だから、叔父の批判された純音楽を緊急地震速報チャイムに使えば面白いな、という遊び心がありましたね。また、『叔父の音楽は素晴らしいぞ』という一種の復讐の気持ちもありました」

 こうして2007年、叔父の「シンフォニア・タプカーラ」第3楽章冒頭の和音をアルペジオ(低音から高音に順番に弾く奏法)にして、緊急地震速報チャイムは作曲されたのだ。

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最終更新:3/18(月) 10:29
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