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悪人よりも悪魔を目指すトランプ、毒は猛毒をもって制す

3/12(火) 12:21配信

Wedge

残虐な独裁者を「信じる」と明言するワケ

 ハノイで行われた米朝首脳会談で、北朝鮮から米国に帰国後死亡した米学生オットー・ワームビアさんの件について、金正恩氏は「事件を知らなかった」と関与を否定したところで、トランプ大統領は「(その説明を)信じる」と応じた。

 案の定、トランプ氏の対応には多くの非難が殺到した。残虐な独裁者を擁護するかのような発言は到底容認されるべきものではない。

 ところが、考えてみると、そもそもこんな事件で問い詰められた金正恩氏は、「はい、私が関与していました。申し訳ない」と素直に認めるはずがない。そこでトランプ氏は、「どう見ても、あなたが指示したのではないか」と追及しても、結局のところ水掛け論になり、会談も取引も何もできなくなる。

 国際政治の舞台は国益ないし支配者層の利益の最大化を図るうえで、愚直に真実を語る場ではない。嘘をつくこともつかれることも、日常茶飯事。トランプ氏が語る「信じる」というのも嘘である可能性が大いにあるだろう。そこでトランプ氏にそれが真意か嘘かを確認することも、額面通りに受け取りそれを批判することも、ナンセンスとしか言いようがない。

 さらに言ってしまえば、トランプ氏が金正恩氏のことを「素晴らしい指導者」と褒めたり、「相性が合う」と好意を示したりすることも、同じ性質のものではないかと思う。いちいちそのへんを追及しても建設的とはいえない。善悪の単純化された民主主義的な正義はときにナイーブすぎる。悪人の狡知や老獪な手口を否定したところで、民主主義自体の価値も毀損されかねない。

 しかし、残念ながらこの世の一般常識では、トランプ氏はやはり筋悪な異端児に分類されてしまうのである。

阿呆の作法踏み外しと筋悪な異端児

 トランプ氏の大統領当選はその当時、世界を驚かせた。いちばん驚いたのは学者や評論家、世のエリートたちだったのではないか。

 米大統領選に先立って、東洋学園大学教授・櫻田淳氏は2016年3月22日付産経新聞「正論」で、「踊る阿呆」と「見る阿呆」という喩えを使って、「耐え難いトランプの無知と錯誤」「トランプ候補の言動は、『踊る阿呆』としての作法を全く踏まえていない」と酷評した。

 まさに「正論」である。トランプ氏は作法を踏み外している。だが、作法踏み外しこそがトランプ氏の取り柄であり、差別化されたマーケティング手法でもあった。作法を踏まえてエリート政治家たちと同じ土俵で議論するなら、彼は大統領選で戦えない。選挙に勝たなければ、国家統治の資格すら得られない。まず、何が何でも選挙に勝つこと、大統領になることが最優先だった(参照:ずけずけ言う男、トランプ流の選挙マーケティング)。

 さらに、櫻田氏が2016年4月5日付の同じ産経の「正論」で、「トランプ氏の登場に期待し、便乗して何かをしようという発想それ自体が、極めて筋悪なものである」と批判した。これも正論だ。この世のいわゆる普遍的価値観における「正論」に立脚すれば、「筋悪」というのはトランプ氏にふさわしいキーワードである。

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最終更新:3/12(火) 12:21
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