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なぜインドの人々は「新しいトイレ」を使いたがらないのか? 

3/13(水) 17:00配信

クーリエ・ジャポン

約5億人が外で用を足しているといわれるインドで、政府は約1億2000万世帯へのトイレ新設を目指した「スワッチ・バーラト(クリーン・インディア)」プロジェクトを立ち上げた。

だが、衛生環境を改善し、性犯罪防止にもつながるはずのこの政策が各地で波紋を呼んでいるという。トイレ事情を通して見えてくるインドの諸問題を、共同通信ニューデリー特派員の佐藤大介氏が取材した。

5億人が「トイレがない!」

インドに暮らしていると、いろいろな「いびつさ」に気付かされる。

金持ちのレベルが日本とはケタ違いの一方で、道ばたには多くの人たちが物乞いをしながら暮らしている。最先端の高度医療を施す私立病院もあるが、無償で診察を受けられる公立病院の前には、多くの人々が何日も泊まり込んで順番を待っており、そのまま命を落とす人もいる。

「貧困」や「格差」という言葉で言い表すにはあまりに過酷な、インドの現実だ。


トイレに代表される公衆衛生も、インドが抱える大きな課題の一つだ。人口13億を抱える国で、5億人以上がトイレのない暮らしをしているとされる。国連児童基金(ユニセフ)などが15年におこなった調査では、野外で用を足す人の数はインドで約5億6400万人。世界全体では約9億4600万人で、インドが6割を占める。

インドの携帯電話の契約件数が11億件を超えているなかで、5億人がトイレのない生活を送っているというのは、まさに「いびつ」そのものだ。この「いびつさ」はインドで大きな政治課題になり、総選挙でも主要な争点として浮かび上がっている。

インド政府は、モディ首相の肝いりで「スワッチ・バーラト(クリーン・インディア)」プロジェクトを立ち上げ、2019年10月までに屋外排せつゼロを目指し、約1億2000万世帯へのトイレ新設を掲げている。

トイレ不足で命の危険も

モディ首相は2014年8月、就任後初となった独立記念日の演説で「女性たちは外で不便を強いられている。母や姉妹の威厳を守るためトイレを作らなくてはならない」と述べた。「女性の尊厳を守るために、トイレを作る」というのは、日本ではなかなか理解されないかもしれないが、実は深刻な問題をはらんでいる。


自宅にトイレがないと、夜間や早朝に畑や草むらで用を足さなくてはならない。だが、そこには大きな危険も伴う。2014年にインド北部ウッタルプラデシュ州で、14歳と12歳の少女2人が用を足そうと夜間に外出したところ、集団レイプされて殺害される事件が起きた。



夜道でサソリや蛇などに襲われる危険もあり、トイレの不足は衛生や健康だけではなく、命にかかわる問題になっている。夫が自宅にトイレを設置してくれないことを理由に、妻が離婚を申し立てて裁判所が認めるといったケースも報告されている。

「スワッチ・バーラト」は、そうした社会問題を背景に、多くの人からの支持を集める“目玉政策”としてモディ首相が打ち出したものだった。

インド政府はトイレを設置する場合、1世帯当たり1万2000ルピー(約1万9000円)の補助金を出すなど、2019年10月までの「屋外排せつゼロ」達成に向けて躍起となっている。

インドでは5月までに新たな政権を選ぶ総選挙が予定されており、スワッチ・バーラトを与党の「実績」として強調して有権者の支持を集め、2期目に入ったモディ首相が高らかに「屋外排せつゼロ」を宣言する――。モディ首相率いるインド人民党(BJP)は、そんなストーリーを描いているはずだ。

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