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記憶とは何か―脳はどのように覚え、保ち、失うのか

3/14(木) 7:10配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

期間、意識や感情の関わりなど、さまざまな記憶の種類とメカニズム

 私たちの脳は、誕生した瞬間から膨大な量の情報にさらされる。自分のこと、そして周囲の世界のこと。その学んだことや体験したこと全てを留めておくのが記憶だ。

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 人が記憶を保持できる期間は、その種類によって異なる。「短期記憶」は数秒から数時間しか続かないが、「長期記憶」は何年も覚えていられる。また、何かをするときに、必要な情報を一時的に頭に留めておく「作業記憶」もある。電話をかけようとして、電話番号を覚えようと何度も口で繰り返しているときはこの作業記憶が働いている。

 記憶する対象や、それを意識しているかどうかによっても記憶を分類できる。「宣言的記憶(陳述記憶)」は、意識して経験した記憶のこと。ポルトガルの首都はどこか(リスボン)、トランプの札は全部で何枚か(52枚)、または子ども時代の誕生日の思い出など、事実や一般的な知識などがそうだ。過去に自分が経験した出来事なども含まれる。

 一方、「非宣言的記憶(非陳述記憶)」は無意識のうちに積み上がる。これには「手続き記憶」と言って、体を使って修得した能力の記憶が含まれる。楽器を演奏したり自転車に乗ったりできるのは、手続き記憶が働いているおかげだ。好物の食べものを見た瞬間に唾が出たり、怖いものを見たときに体が緊張するというように、体に無意識の反応が起きるのも非宣言的記憶による。

 一般的に、宣言的記憶のほうが非宣言的記憶よりも形成されやすい。ポルトガルの首都を覚えるほうが、バイオリンの弾き方を習得するよりはるかに簡単だ。しかし、非宣言的記憶の方が長い間脳に留まりやすい。自転車の乗り方をいったん覚えてしまえば、まず忘れることはない。

なぜものを忘れるのか

 私たちがどのようにしてものを記憶するかを理解するには、なぜものを忘れるのかという研究が参考になるだろう。記憶を失ったり、新しい記憶をつくれなくなったりする健忘症を研究するのはそのためでもある。健忘症は通常、けがや脳梗塞、脳腫瘍、アルコール依存症などにより、脳に何らかの外傷が加えられたときに発症する。

 健忘症には大きく分けて2種類ある。「逆行性健忘」では、脳への外傷が起こる前の記憶を失い、「前向性健忘」では、外傷によって新しい記憶を形成する能力が劣化したり、失われてしまう。

 前向性健忘で最も有名なのは、ヘンリー・モレゾンの症例だろう。生前はHMとしてしか知られていなかったモレゾンは、重度のてんかん患者だった。最後の手段として、1953年に海馬を含む内側側頭葉を切除する手術を受けた。術後、子ども時代のことはよく覚えていたが、新しい宣言的記憶を形成できなくなっていた。周囲の人々は、たとえ数十年間の付き合いになっても、モレゾンと会うたびに自己紹介をしなければならなかった。

 科学者は、モレゾンのような患者や、様々な種類の脳障害を持つ動物を研究することで、異なる種類の記憶が脳のどこでどのように形成され、蓄えられるかを追跡できるようになった。短期記憶と長期記憶、宣言的記憶と非宣言的記憶は、どれも同じように形成されるわけではないようだ。

 脳の中では、全ての記憶が1カ所に集まっているわけではない。脳の異なる部分に異なる種類の記憶が形成・保存され、それぞれに異なるプロセスが関わっているようなのだ。例えば、恐れなど感情的な反応は脳の扁桃体(へんとうたい)に保存される。修得した技術は線条体(せんじょうたい)に保存され、海馬(かいば)は、宣言的記憶の形成、保持、想起に欠かせない。

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