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記憶とは何か―脳はどのように覚え、保ち、失うのか

3/14(木) 7:10配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

脳の中で起きていること

 1940年代から、記憶は神経細胞(ニューロン)の集団に蓄えられるという考えがある。これらの細胞は互いに結合し、友人の顔や焼き立てのパンの香りなど、特定の刺激に反応して集団で“発火”する。同時に発火する細胞が多ければ多いほど、細胞同士のつながりが強くなる。その後も刺激が与えられると、全体が発火するようになり、集団として経験したことを書き留めるというわけだ。この神経細胞の集団は「セルアセンブリ(細胞集成体)」と呼ばれるが、詳しいメカニズムについてはまだ研究中だ。

 短期記憶を長期記憶に変えるには、長く保存できるよう強化されなければならない。これは「記憶の固定化」と呼ばれ、いくつかの変化によって起こると考えられている。そのひとつが「長期増強」で、個々の神経細胞が自分自身を変化させ、近くの神経細胞にそれまでとは違う形で信号を伝達する。それが長期的な神経細胞の結びつきを変化させ、記憶を安定させる。長期記憶を持つすべての動物は、基本的に同様の機能を持っている。詳しいことはジャンボアメフラシ(Aplysia californica)の研究で明らかになった。ただし、全ての長期記憶が短期記憶から始まるわけではない。

 記憶を思い出すとき、脳の多くの部分が高速で対話をする。高度な情報処理を行う大脳皮質の一部、感覚器官の情報を扱う部分、そしてこれらの処理を統率する内側側頭葉などだ。内側側頭葉はHMが手術で失った場所だ。最近のある研究では、患者が新しく形成された記憶を思い出すとき、内側側頭葉と大脳皮質の活動が同期していることがわかった。

 記憶にはまだ多くの謎が残されている。情報はどのように記憶として取り込まれるのか。記憶する細胞は脳の中でどの程度広く分布しているのか。何かを記憶するとき、脳のどの活動が関わってくるのか。これらは今も研究が続き、いつの日か脳の機能や記憶に関係する障害の治療に新たな洞察を与えてくれるかもしれない。

 例えば、最近の研究では、一部の記憶は思い出すたびにさらに固定化されることがわかってきている。そうであれば、何かを思い出したときに、その記憶を強化したり、弱めたり、または変化させることが可能かもしれない。記憶が再固定化されるときを狙って薬を投与すれば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった症状の治療にもつながることが期待できそうだ。

文=Michael Greshko/訳=ルーバー荒井ハンナ

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