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「ボーイング737運航停止」に込めた習近平の底意

3/14(木) 6:00配信

JBpress

 (右田早希:ジャーナリスト)

 ボーイングは、中国では「波音」と表記する。「波の音」という漢字を、「ボーイン」と読ませ、エキゾチックで美しいイメージを、中国人に与えている。

【写真】2017年11月9日、中国・北京の人民大会堂で行われたビジネス会議に出席したトランプ大統領と習近平主席

 ところが、3月11日に中国政府が下した決定は、容赦なかった。この日の午前中、中国民間航空局が、緊急通知を発表したのだ。

■ 世界に先駆けボーイングに「ダメ出し」

 <本日18時以降、ボーイング社の「737MAX8型」航空機の商業運行を、一時的に停止する>

 3月10日、エチオピア航空の737MAX8型航空機が墜落し、乗客乗員157人全員が死亡したが、その中に8人の中国人が含まれていた。インドネシアのライオン・エアのこの型の航空機も、昨年10月29日に墜落しており、中国当局はもはや看過できないとして、異例の停止措置に踏み切ったのだ。

 これによって、ボーイング社の株価は、たちまち10%も暴落し、200億ドルが消えた。だが、皮肉なことに中国の航空各社の株価は、「安全性が確保された」として、小幅上昇したのだった。

 調べてみたら、中国が737MAX8型を購入したのは、2017年11月3日に、シアトルで中国国際航空に引き渡されたのが最初である。以来、中国の航空会社は、計96機も購入し、ボーイング社にとって「お得意様」となっている。内訳は、中国南方航空24機、中国国際航空15機、海南航空11機、上海航空11機、アモイ航空10機、山東航空7機、深圳航空5機、中国東方航空3機、祥鵬航空3機、奥凱航空2機、福州航空2機、昆明航空2機、九元航空1機である。

 アメリカと並ぶ航空大国の中国が、先陣を切って「ノー・ボーイング(737MAX8)」を宣言したことで、その後、インドネシア、シンガポール、オーストラリア、イギリス、ドイツ、フランス、ブラジル・・・と世界各国が続いたのだった。

 737MAX8型は、「1機100億円超」とも言われる、ボーイングが誇る最新鋭の航空機である。従来型よりも一回り大きい上に、燃費は従来型よりもよい。2017年5月に初めて納入され、世界の航空機業界では、737MAX8型を導入することが流行になっていた。墜落したエチオピア航空も、昨年11月に導入したばかりで、日本では今年1月に、ANAが導入を決めている。

 そんな737MAX8型に、中国が真っ先に「ダメ出し」をして、世界を方向づけた。そこがポイントである。

■ ボーイングにまつわる習近平「二つの追憶」

 それは、墜落したエチオピア航空に中国人が8人乗っていたからではなく、習近平主席の「怒り」が爆発したと見るべきだろう。習主席が決断しないと、中国でこのような「即時の重大決定」はできないからだ。

 その背景には、習近平主席の「二つの追憶」がある。

 一つは、いまから4年前に遡る。2015年9月23日午前中、習近平主席は、米ワシントン州シアトル郊外にあるボーイング本社を訪問した。当時のオバマ大統領とのホワイトハウスでの会談に臨む途中で、わざわざ立ち寄ったのだ。

 ボーイング社のコナーCEOらは、習近平夫妻を丁重に迎え、中国国際航空に引き渡す787型の操縦席に案内した。習近平主席がジェット機の操縦桿を握る様子は、中国中央テレビのその日のトップニュースになった。

 私もその映像を見たが、習主席はまるで新しいおもちゃを手にした子供のように、喜々としていた。だが、その周囲のコナーCEO以下、ボーイング社の幹部たちは、さらに大仰なスマイルを見せていた。それもそのはず、この日、ボーイング社と中国の航空各社は、習近平主席の面前で、計300機、総額380億ドルに上る超大型契約の覚書に調印したのである。

 もう一つの出来事は、2年前である。2017年11月8日から10日まで、トランプ大統領が北京を訪問した。この時、習近平政権は、故宮を貸し切りにするなどして、「国賓以上の待遇」でもてなした。そのトランプ訪中のメインイベントが、11月9日の昼に人民大会堂で開かれた「2535億ドルの超特大調印式」だった。

 2016年のアメリカの対中貿易赤字は、3470億ドルだった。そのうち、アメリカ企業が中国で生産し、アメリカに輸出しているものが約4割あった。そこで習近平政権は、残りの2000億ドル分を一気に解決するようにして、トランプ大統領に花を持たせたのである。

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最終更新:3/14(木) 13:25
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