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ベストセラーが助長する外国人への偏見。『日本が売られる』で書かれた「保険制度への“ただ乗り”」は実態なし

3/14(木) 8:34配信

HARBOR BUSINESS Online

 ジャーナリストの堤未果さんの著書『日本が売られる』(幻冬舎)の内容の一部が、外国人への偏見を助長するものだとして、日本に住む外国人の権利を守るための「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」は3月11日、著作の内容の誤りを指摘した文書を公式サイトに掲載。発売元の幻冬舎にも書面を送付したと発表した。(参照:【お知らせ】堤未果著『日本が売られる』についてのファクトチェックを幻冬舎に送付しました–移住連)

◆中国人がわずかな自己負担額で1500万円の治療を受けている?

 同書は昨年10月に上梓された。著名なノンフィクション作家の新刊とあり、かなり売れているようだ。2019年1月末には13刷まで版を重ねている。

 移住連が問題にしたのは、第2章「日本人の未来が売られる」の中の「6 医療が売られる」という節だ。堤さんによると、留学生や会社経営者として来日した外国人が国民健康保険に加入し、高額の治療を受けているという。保険料をきちんと払っていないため、日本人の税金で外国人の治療費が賄われているというのが堤さんの主張だ。同書には、例えばこのような記述がある。

「特に中国人患者が多いC型肝炎薬などは、3か月1クールで455万円のところを、国保を使えば月額2万円だ。高額すぎて問題になった肺がん治療薬オプジーボなら、1クール1500万円が自己負担額月60万円、残りは私たち日本人の税金で支えてゆくことになる」(194頁)

 移住連は、これに対し、「高額な医療を受けるために入国している外国人がいるという事実はほとんど確認されていません」と反論する。厚労省が2017年3月に実施したレセプト全数調査によると、外国人の年間レセプト総数1489万7134件のうち、「不正な在留資格による給付である可能性が残る」のはわずか2人。実際に不正な手段で医療を受けた外国人がいるとしても、ごく少数にすぎないのが実情だ。

 また観光目的を除き、在留資格が3ヶ月を超える外国人には、健康保険への加入と保険料の納付が義務付けられている。保険料を負担している人が、保険を利用して治療を受けることには何の問題もない。

 同書ではさらに、「在日外国人の多い地域では、治療費を払わず姿を消す患者も後を絶たず」(194頁)、「出生証明書さえあればもらえる42万円の出産一時金も、中国人を中心に申請が急増している」(195頁)と主張。しかし移住連によるといずれも根拠のない記述だという。

◆外国人への偏見を煽る根拠のない記述

 同書では、今後外国人労働者の受け入れが増えれば「今横行する医療のタダ乗りに加え、大量に失職する低賃金の外国人労働者とその家族を、日本の生活保護と国民皆保険制度が支えなければならなくなる」(195頁)といって危機感を煽っている。

 しかし前述したように、「医療のただ乗り」の事実はない。またAIによって単純労働者の需要が減るとしても、多くの外国人が失職して生活保護を受給するようになるかどうかは定かでない。外国人への偏見を不当に煽るものだといえるだろう。

◆外国人の“ただ乗り”報道

 しかし、外国人が医療保険に“ただ乗り”しているという報道は今に始まったことではない。

 昨年7月には、NHK『クローズアップ現代+』が「日本の保険証が狙われる~外国人急増の陰で~」を放送した。番組によると、がんになった60代の中国人女性が、日本人と結婚した娘を頼りに来日。娘の夫の扶養に入ることで保険に加入した。

 女性はすぐに大腸がんの手術を受け、その後も抗がん剤治療を続けていたという。かかった治療費はおよそ200万円だが、女性の自己負担額は20万円で済んでいる。同番組では、女性が保険料を支払っていなかったにもかかわらず、医療保険に“ただ乗り”したと非難している。

 移住連はこの報道に対しても意見書を提出。健康保険の保険料は被保険者が支払っており、家族や親戚を被扶養者にすることは認められている。海外に居住していた被保険者の家族が日本に戻ってきた場合にも、同様のことが起きるとしている。

 他にも、2017年から2018年にかけて、週刊誌や保守系の雑誌で同様の報道があった。

 移住連の事務局次長を務める安藤真起子さんは、こうした報道に対して懸念を露わにする。

「ここ数年、外国人の保険利用について、誤った報道が続いています。こうした情報が拡散すると、差別や偏見を助長する危険があります。なぜ堤未果さんは、週刊誌や雑誌の報道を検証せずに、同じようなことを著作で書かれたのでしょうか。堤さんは著名なジャーナリストで影響力も大きいため、偏見が広がってしまうのではないかと危惧しています」

◆「外国人に仕事が奪われる」という根強い偏見

医療制度への“タダ乗り”以外にも、外国人への偏見は流布している。4月からの受け入れ拡大を前に「仕事を奪われる」、「治安が悪化する」と誤解している人も少なくない。なぜこのような誤解が起きるのか。安藤さんは、こう指摘している。

「外国人は外部からの『侵入者』と認識されているからだと思います。また、日本では、日本社会は日本人のためのものという価値観も強いと思います。しかし、実際、この社会はすでにさまざまな国籍、ルーツを持つによって構成され、形作られています。」

 外国人を外部からの「侵入者」として位置付けてしまっては、今後来日する外国人との共生は成り立たない。安藤さんは「共生社会をつくるには、国籍や在留資格の違いにより日本人と同等の権利を持てないでいる外国からの移住者への権利保障のしくみが必要です。だから私たちは国政への働きかけに取り組んでいます」と語った。

<取材・文/HBO取材班>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:3/14(木) 22:10
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