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苛烈な妻への復讐心から男と不倫 樋口毅宏さんの新刊「東京パパ友ラブストーリー」

3/15(金) 16:10配信

好書好日

男は精神的ホモセクシャルみたいなものを持っている

 デビュー作の『さらば雑司ケ谷』以来、バイオレンスやセックスなどをテーマにハードボイルドな世界を突っ走ってきた樋口毅宏さん。それが突如イクメンになって育児日記『おっぱいがほしい!』を刊行、世間をあっと言わせたと思ったら、今度はパパ友同士のラブストーリーを上梓。どのような心境の変化があったのか、今これに取り組んだのはなぜなのか、じっくり話を伺いました。

――最新作の『東京パパ友ラブストーリー』(講談社)は、同じ保育園に子どもを通わせているパパ同士が恋に落ちるという衝撃的な内容です。このテーマを思いついたきっかけは?

 2015年、弁護士をしている妻の三輪記子(ふさこ)の仕事の都合で京都に引っ越しました。今3歳3カ月になる息子は京都で生まれましたが、妻は産後うつのせいか、あまりにも苛烈すぎて。マンションの窓ガラスがピリピリきしむような音量で、ほぼ毎日怒られるんです。

 妻は産後1カ月で仕事に復帰したので、赤ん坊の面倒をみるのはほぼ僕の役目。そのうえ怒られるしで、パニックになってしまった。子どもを保育園に通わせるようになっても、しゃべる相手は妻と赤ん坊と保育士さんぐらい。精神的にまいってしまい、やけを起こして作家引退宣言までしてしまいました。こんな妻に仕返しするとしたら、もう浮気か不倫をするしかないと思いました(笑)。

 たまたま同じ保育園で、10年ほどフランスに住んでらした、インテリで素敵なパパと知り合いになって――。ここからは作家の妄想ですけど、たとえば仲良くしているパパ友さんと不倫なんかしたら、なんといい妻への復讐になるのではないか、と(笑)。そのうちどんどん妄想が膨らんでいったので、それをメモしていました。そのメモがこの作品のベースになっています。

――作品中では、二つの対照的な家庭が描かれています。52歳になる建築士・鐘山明人は、妻が都議会議員でものすごく忙しい。自分の仕事はほぼ休業状態で、ワンオペ育児をしています。一方、30歳の有馬豪はファンドマネージメント会社の社長で、妻は専業主婦。いわゆるセレブ家庭です。明人のワンオペ育児の描写は、ご自身の経験がかなり反映されているようですね。

 そうですね。京都に住んでいた頃は、妻は弁護士の仕事の他に、テレビの仕事もあるので、週に1泊ないし2泊3日で東京に行く。その間、赤ん坊と二人っきりになるわけです。いやぁ、赤ん坊と妻には相当鍛えていただきました。

 僕はそれまで、この世で一番大変なことは小説を書くことだと吹聴してまわっていたんです。とんでもない思い違いをしていました。育児のほうが大変でした。

 長篇を書く場合は、実際にパソコンに向かって書いている時間以外も、ずっとその作品のことを考えている。集中力を継続させなくては書けないのですが、赤ん坊がいたらそんなこと無理です。夜中だろうが明け方だろうが、わーっと泣きだしたら、おむつか、ミルクか、それとも両方か、と右往左往。東京で複数の女性と遊びつつ、持っている時間をすべて自分のために使えていた時期が、なんと懐かしかったことか(笑)。

――明人と豪は、ごく自然に性的な関係を結びます。二人はバイセクシャルだったのか、あるいは豪の場合は自分のセクシュアリティーに蓋をしている、いわゆるクローゼットだったのか。どういう設定で二人を描いているのか、気になりました。

 そこを疑問に思うのは、無理もないと思います。でも男性というのは、肉体的な関係にまでいくかいかないかは別として、精神的ホモセクシュアルみたいなものは本能的に持っていると思います。たとえば芸能界でも○○軍団とかいって、カリスマ性のある人を慕って同性が集まってきますよね。あれも、そうなんじゃないでしょうか。

 小学3年生の時に映画の「ロッキー3」を見ましたが、王座から陥落したシルヴェスター・スタローンが演じるロッキーが、自分を下した宿敵アポロと海辺を走るシーンがある。全力疾走して、ロッキーがアポロを抜いた瞬間、画面はスローモーションになります。そして波しぶきがキラキラときらめき、「やったね!」みたいな感じで、二人が胸と胸を突き合わせる。あれも一種のホモセクシュアルシーンですよね。

 男にはそういう感覚があるから、いわゆるゲイやバイセクシュアルの人ではなくても、ふっとしたはずみで肉体関係に行くこともあるのではないか。そもそもかつて日本では、妻や子どもがいても、同性と契りを結ぶのは武士のたしなみとされていました。だから、そんな特別なことではないと思います。

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最終更新:3/15(金) 17:15
好書好日

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