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「低空飛行による騒音が不安」!? 地元・大田区との協議なく進められる羽田空港新ルート

3/17(日) 8:31配信

HARBOR BUSINESS Online

◆「陸(都心)から入って陸に出る」新ルート

 3月8日、東京都大田区議会で「『羽田空港増便』に必要な、国との協議は行われているのか?」との質疑が出た。質問に立ったのは奈須りえ議員(フェアな民主主義)だ。

 国は来年の東京オリンピック開催までに外国人観光客を4000万人に増やすことを表明している。その実現に必要なのが、成田空港と羽田空港での飛行機の増便だ。ところが、その増便のためには、現在の羽田空港の離発着の基本ルートである「海(東京湾)から入って海に出る」に加えて「陸(都心)から入って陸に出る」という新ルートを設定しなければならない。

 ところが、その新ルートを設定するためには、国と大田区との間で「協議をする」との覚書がある。ところが、国が新ルートを公表した2014年から今に至るまで、その協議の痕跡がない。もし国が大田区と協議をしていなかったとすれば、国は、覚書を無視のまま新ルート策定に突っ走っていたことになる。ここを奈須議員は突いたのだ。

◆3時間で132便が都心を低空飛行

 新ルートとは、大ざっぱにいえば「南風」が吹く「15時から19時の4時間のうちの3時間」に限り、飛行機は埼玉県から南下して以下の地域の上空を低空飛行しながら羽田空港に向かう。

 東京都北区では高度約1200メートルを飛び(騒音は大型機で70デシベル(db)弱)、新宿区で900メートル(同70db)、渋谷区で750メートル(72db)、港区で450メートル(76db)、品川区では300メートル以下(同80db)と東京タワーよりも低くなり、最後の羽田空港を有する大田区では150メートル以下(同80db以上)まで高度を下げ、A滑走路に1時間14本、C滑走路に30本が着陸する。つまり、1日のうち3時間で132便が着陸のために都心を低空飛行する。

 次に「陸に出る」新ルートだが、これは2つある。

「南風」時の同じ時間帯でB滑走路から1時間に20便が離陸し、川崎コンビナート上空を通過して海に抜けるルート。そして「北風」時、「7時から11時半の4時間半」と「15時から19時の4時間のうちの3時間」に、C滑走路から1時間に22便が江東区や江戸川区の上空を通って北上するルートだ。

 この計画の概要が2014年に明らかになると、新ルート直下では低空飛行に不安の声をあげ反対運動を展開する市民団体が各地で設立された。当然だ。70dbとは、1メートル以内でやっと大声の会話ができるレベル、80dbはパチンコ店内並みの騒音だ。この騒音のなかで生活することは住民には耐え難い。

◆国交省による「オープンスペース型」住民説明会

 国交省はこれら不安に「丁寧に」説明するとして、2015年から新ルート直下の各地で住民説明会を開催している。ところがそのほとんどが「オープンスペース型」といって、新ルートについての展示パネルをずらりと並べた会場で、その展示内容に質問がある人が近くで待機する国交省の職員を呼んで個別に説明を受けるというものだ。

 筆者も今年2月11日、東京都大田区の京急蒲田駅の改札近くの通路で開催された「オープンスペース型」説明会に行ってみた。

 会場ではパネル展示のほか、すでに低空飛行が行われている伊丹空港(大阪府)近くを飛行する飛行機の映像をモニターで見ながら、ヘッドフォンでその騒音を聞ける機材も用意されていた。改札の近くなので、通りすがりの人が展示パネルを見ていた。しかし筆者は「これでは問題意識を住民同士で共有できない」と思った。

 国交省の職員が近くにいたので、いろいろと質問を投げかけた。たとえば「この騒音で学校や病院、一般民家への防音対策をするのか?」といった質問には、国交省からは「病院や学校には国の補助で防音工事をする。だが今回の騒音は基準値内なので、一般民家への防音対策は必要ない」との回答を得た。

 これが普通の「教室型説明会」ならば、一般民家の住民一同がその回答に「えー!」と憤るところだが、オープンスペース型では、国側の回答を筆者の他には誰も耳にすることがない。少し離れたパネルでも誰かが質問をしていたが、同様に、そのやりとりを筆者が知ることはできなかったのだ。

 そんな説明会もこの春で終了予定だ。となると、説明会の終了後には国交省にはどんな手続きが必要なのだろうか。

 このことを尋ねると、国交省の職員は「飛行機に電波を出す航空保安施設を整備します。そして小型機による検査飛行でその電波を受信できるかを確認。あとは、実際に使う航空ルートなど必要な恒久的情報を国が出す航空路誌(AIP)に収録するだけです。できれば東京オリンピックまでには収録したい」と回答した。

 つまりあとは国交省次第で、羽田増便にゴーサインが出されるということだ。

◆羽田空港の運用について、国は大田区との協議を無視していた?

 その説明会の現場にいたのが奈須りえ議員だった。奈須議員は、手に書類を持って国交省職員に何かを訴えている。筆者が近づくと、2010年4月28日に出された、大田区長が国交省に宛てた覚書(「(羽田の)D滑走路供用後の東京国際空港の運用について」に対する回答)を見せてくれた。

 そこに書かれていることは、大ざっぱに書けば

・飛行機は大田区上空を飛ばない

・陸に近い、A滑走路とB滑走路を同時に使わない。

・深夜と早朝にはAB滑走路を使わせない。

 といった内容だ。ここで最も大事なことは、これらの事項を「変更しようとする場合は、(国は)大田区と協議すること」と明記されていることだ。

 奈須議員はこの点を国交省の職員に問い詰めていた。それまで他の質問にはスラスラと答えていた職員は、奈須議員から「覚書に『大田区と協議すること』と書かれていますが、協議はしているんですか?」と尋ねられると、途端にしどろもどろになった。

「え? あっ。えー……それちょっと見せてください」

 覚書に目を通した職員は、数秒後にやっと「確認させてください」と答えただけだった。少なくともこの職員は覚書の存在すら知らなかったと思われる。そして奈須議員の記憶でも、国と大田区とがこの件で協議したことはない。

 そもそも、この覚書には歴史的な背景がある。かつて羽田空港は今の場所よりも内陸にあって、大田区の市街地に隣接し騒音問題に悩まされていた。そこで1973年、大田区議会が「安全を確保できない限り空港は撤去すること」と毅然と決議し、国が羽田を今の沖合に移したという経緯があるのだ。

 つまり手続き的には、来年までに「陸から入って陸に出る」ルートを実現させたい国にすれば、大田区との協議なしに新ルートは実現しないことになる。だがそれを無視していたということなのか。

◆大田区の空港まちづくり課もあいまいな回答

 それから半月経った3月8日、奈須議員は大田区の予算特別委員会で覚書について尋ねた。

「大田区と国は覚書に書かれている『運用を変える場合には協議する』に基づき協議していますか?」

 これに対して、空港まちづくり課長は「今後、適切な時期に協議します」とだけ回答。また、大田区での低空飛行の実現は覚書の破棄を意味するので、奈須議員がさらに尋ねた「破棄されるなら、新しい覚書が必要になりますか?」との質問には、「繰り返しますが、協議を進めると理解しております」と抽象的に回答しただけ。

 国や大田区が新ルートを実現したいのなら、「協議」をして新しい「覚書」を作成しなければならない。それにはどれだけの時間を要するのかまったくわからないが、国が足踏みすることだけは間違いない。

 一つだけ言えるのは、今の大田区には、騒音問題を何とかしようとして羽田空港を沖合に移転させたときのような住民寄りの姿勢が見られないことだ。奈須議員はこう訴える。

「もし大田区長が新飛行ルート案を認めれば、区民の権利を担保している文書を破棄することになるということです」

<文・写真/樫田秀樹>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:3/20(水) 8:27
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