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【書評】必然だった番狂わせ:生島淳著『エディー・ウォーズ』

3/18(月) 16:03配信

nippon.com

幸脇 啓子

2015年ラグビーW杯で強豪南アフリカを破り、世界を驚かせた日本代表。指揮官エディー・ジョーンズは、短期間でいかにチームを作り上げたのか。その軌跡を追った本書は、ラグビーW杯2019日本大会前に必読の一冊である。

以前、斜め前の席に座る強面の上司が呟いたことがあった。
「ときどき夜中に“南ア戦”の録画を見て、自分も頑張ろうと気合を入れる」
旧知の友人は、自宅の録画用ハードディスクが壊れた時、真っ先に“南ア戦”が消えたことを嘆いていた。また別の友人は、今も“南ア戦”を思い出すたびに目頭が熱くなると話す。

彼らが言う“南ア戦”。
それは、2015年9月19日にイングランドの都市ブライトンで行われた、ラグビー・ワールドカップ(W杯)の日本対南アフリカ戦のことだ。

1987年にW杯に初めて参加して以降1勝しか挙げたことがなく、「世界のラグビー界で、“ジョーク”だと思われて」いたラグビー日本代表(以下ジャパン)は、過去2度のW杯優勝を誇る強豪の南アフリカ共和国代表、通称「スプリングボクス」を34―32で破り、世界中のラグビーファンを驚かせた。……だけでなく、日本中を文字通り熱狂の渦に巻き込んだ。

なぜ、ジャパンは南アフリカに勝てたのか。
そしてなぜ、今も“南ア戦”は特別なのか。
その答えが、2016年に刊行された『エディー・ウォーズ』にある。

誰もハッピーにさせない、という哲学

2012年4月、オーストラリア人のエディー・ジョーンズがジャパンのヘッドコーチに就任し、「2015年に世界のトップ10に入る」という目標を掲げた日からすべては始まった。

この本の魅力は、エディー・ジョーンズという日本のラグビー史に名を刻む知将について、選手やスタッフの証言を基に徹底的に正直に書いているところだ。過度な美辞麗句もなければ、無駄なドラマタイズもない。
だからこそ、エディーがチームを作り上げる手腕が際立つ。

はっきり言って、エディー・ジョーンズは嫌なヤツだ。自分の上司だったらと想像するとゾッとする。なにしろ、「選手だけでなく、スタッフも決して『ハッピー』な精神状態にはさせないのがエディーの仕事の進め方」なのだ。
大怪我をし、10カ月間懸命にリハビリに取り組んできた選手に向かって、「この10カ月は、まったくの無駄だったようだな」と突き放す。練習で犯したたった1度のミスを許さずに家に帰るよう通告し、チケットまで手配する。午前4時に、「あなたのおかげで、チームはめちゃめちゃです」とメールを送りつける。

いずれも選手の能力を高め、チームを強化するための「マインドゲーム」なのだが、選手たちに一切説明はない。W杯に向かう最後の1年間、長期にわたって自宅から離れ、昼寝の時間まで決められるほど厳しく管理された生活を送るうち、エディーに怒鳴られる夢を見てうなされる者すら出てくるほどだ。

スタッフに対しても、エディーの要求水準は極めて高い。
分析担当のスタッフは、試合終了後から翌朝まで一睡もせずに要求された映像素材を用意する。移動時間の予測が数分でもずれれば、総務のスタッフは「あなたのせいで予定が狂いました。選手の集中力が欠けたのは、あなたのせいです」と非難されるため、幾度となく綿密なシミュレーションを繰り返す。

選手やスタッフは、そうやってときに涙をこらえ、ときに励まし合いながら、自分たちのプライドを懸けて、この、一切の妥協を許さない指揮官と戦い続ける。
描かれるのは、エディー・ジョーンズとの戦争――この本のタイトルでもある、『エディー・ウォーズ』――だ。その戦いは美談ではない。傷をえぐるように生々しいエピソードに溢れている。

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最終更新:3/18(月) 16:03
nippon.com

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