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地方に「本が来ない!!」――物流危機で書店業界全体が「危機的状況」に

3/18(月) 8:33配信

HARBOR BUSINESS Online

◆「え? あの本、まだ届いとらんの?」

 書店に本が来ない。とにかく届かない。もう発売日から5日が経過したのに一向に来ない――最近そういった声がよく聞かれるようになった。

 実は現在、地方において書籍や雑誌が発売されてから書店に届くまでの期間が大幅に伸びており、九州では休日を挟むと「5日前後の遅れ」「ネットで買うより到着が遅い」ということが当たり前となっている。もちろん、これは離島などではなく九州本土の都市部でも同様だ。

 こうしたなか、書籍の取り次ぎをおこなう出版取次会社の業界団体「日本出版取次協会」(東京都千代田区)は、3月5日に「中国・九州地方の書籍輸送スケジュールの変更」を発表。地方の読書好きからは「更に本の到着が遅れることになるのか」と悲痛な声が上がっている。

 首都圏居住者にとっては全く関係が無い話だと思われるかも知れないが、今やこうした事態は書店業界全体を揺るがすことに成りかねない「大問題」となりつつある。

◆ついに「週刊FRIDAY」が「火曜日」に……

 何故これほど書籍の到着が遅れることになったのか――まずは「書籍・雑誌の発売日」の定義について簡単に見ていこう。

 通常「書籍の発売日」とは「出版社から取次各社への搬入日」のことを指す。

 この「取次各社から書店に届くまで」のタイムラグは各地方によって大きく異なるが、東京23区の書店ではほぼ発売日に店頭に並ぶものが多い一方、配送に時間がかかる北海道や九州では(これまでは)2日ほど遅れるのが普通であった。

 また、「雑誌の発売日」とは基本的に「首都圏標準発売日」を指す。

 これも書籍と同様に地方では配送に時間がかかるため遅れるのであるが、雑誌については近隣書店間での不公平さをなくすために「同一地区同時発売」が原則となっている。そのため、例え商品が早めに店頭に届いたとしても中国四国地方の大部分では「1日遅れ」、九州地方の大部分では「2日遅れ」(いずれも一部地域除く)という風に「標準発売日から決められた遅れ日数」で店頭に並べなければいけない。

 なお、これらには例外もある。

 人気作家の本など一部の書籍は協定に基づき全国同一発売となる場合があるほか、雑誌のうち一部は「計画誌」として基本的に全国同一の発売日となっているものもある。週刊漫画雑誌などが多くの書店で同一曜日に店頭に並ぶのは、この「計画誌」に該当するからだ。但し、この「計画誌」であっても沖縄県や離島では1~2日程度到着が遅れる場合が少なくない。

 今回、日本出版取次協会が発表した「中国・九州地方の書籍輸送スケジュールの変更」とは、簡単に言えば書籍は「取次各社から書店に届くまでの日数」、雑誌は「標準発売日から決められた遅れ日数」がこれまでよりもさらに伸びる、ということだ。

 具体的には、これまでは書籍・雑誌ともに首都圏での発売日と比べて中国地方では1日程度、九州地方では2日程度遅れての入荷が標準であったが、中国地方では書籍・雑誌の入荷日が今よりも1日長く(首都圏からおおよそ2日以上遅れ)、九州地方では書籍の入荷日が1日遅くなる(首都圏からおおよそ3日以上遅れ)ほか、一部週刊誌の入荷日が今よりも遅れるようになってしまうという。

◆相次ぐ災害も一因に――いま以上「遅れる」可能性はある?

 西日本でこうした「書籍の到着遅れ」が特に顕著になったのは、昨夏に発生した「平成30年7月豪雨」以降のことだ。豪雨でJR山陽本線が被災し、書籍・雑誌流通の多くを担っていた貨物列車の運行がストップ。書籍や雑誌は首都圏と比べて中国地方で2~4日以上、九州地方で3~5日以上遅れるという状態が当たり前となった。

 その後、JR山陽本線は9月30日に復旧したものの、翌日の台風24号により再び被災。10月13日にようやく全線復旧を迎え、貨物列車の運行も再開された。書籍・雑誌の遅れも「晴れて元通り」になる…と思われたが、そうはいかなかった。

 人手不足であった運送業界は、西日本で相次いだ災害の復旧需要などにより更に逼迫した状況となったのであろう。もともと書籍物流は「運行管理・労務管理上、法令違反の状態にあった」(日本出版取次協会の発表による)といい、入荷日の更なる遅れを受け入れざるを得なくなった、という訳だ。

 それに、頼みの綱の貨物列車についても一部区間では災害復旧工事に伴う徐行運転が続いており、JR関係者によると「以前のダイヤ通りに運行されない貨物列車もあった」という(なお、この徐行運行による遅れは3月中に解消されている)。

 さて、冒頭で示したように、九州地方ではこの夏から1年弱に亘って書籍や雑誌が首都圏よりもおおよそ3日前後、連休を挟むと5日前後の遅れとなっている。そのため、3月の日本出版取次協会の発表により「これ以上入荷日が遅れるのか」と驚いた人もいるであろう。

 そこで実際、九州内に出店する大手書店に取材したところ「今回の発表は『昨年より長らく続いている3日以上の遅れが恒常化する』というもので、現在と遅れ日数は変わらないと思う」という。流石に新刊が1週間以上も遅れて届く事態は避けられそうであり、そこは一旦胸をなでおろすこととなった。

◆「アマゾンのほうが早よ届くやん」――地方で進む「書店離れ」

「たった数日の遅れ」が運輸事業者の働き方改革に繋がるならそれも止むなしと思いたいが、その一方で「大きな打撃」を受けるのは地方に立地する書店だ。

 実は、地方に住む人々が、実際に店頭に並ぶよりも大幅に早くお目当ての本を手にする方法がある。それは「アマゾン」や「楽天ブックス」などのインターネット通販サイト(ECサイト)を使うことだ。

 地域や条件にもよるが、現在九州でアマゾンを利用して書籍を購入し、通常配送した場合の到着日数は午前中の注文なら2~3日前後。有料会員サービス「アマゾンプライム」の利用者なら「お急ぎ便」で更に早く手にすることが可能な場合もある。

 また、セブン&アイHDの多くの店舗では、セブンネットネットショッピングの「コミック発売日受け取りサービス」を使うことができる。このサービスを使えば、例えイトーヨーカドーで本を購入するとしても北海道内などではヨーカドー内の書店で注文するよりも一度ネットを通したほうが店頭に早く到着することもある。

 それなら「書籍取次会社や書店各社もアマゾンのような物流網を構築してはどうか」という考えもあろう。

 しかし、書籍・雑誌の物流は「速さ」よりも全国隅々に確実に安定した商品配送を行うことが優先されている。さらに「全国同一価格」での販売を維持するためには比較的安価な物流手段を採ることも必須だ。ある書店関係者によると、一部の大手書店では地方店舗での販売タイムラグを短くすべく1社で複数の取次先と契約を結んだり、店舗間で独自の物流網を構築するなど独自の努力をおこなっている例もあるものの、流石にアマゾンほどの早期配送は難しいという。

 一方で、こうした「通販のほうが店頭購入よりも大幅に早い」という状況は、書店にとってみれば危機的状況だ。もちろん、書店のライバルは「通販」だけではない。電子版を配信している書籍や雑誌は発売日に電子版を購入して読むことができるため、首都圏からの遅れ日数が増えるほど「気になる連載の続きを早く読みたい!」という人は電子版にも流れてしまう。

 このまま「書籍の販売遅延」が常態化すれば、ただでさえ経営が厳しい地方の書店に大きな影響が出ることは避けられず、書店業界全体にとっても「大きな打撃」となってしまうことは確実だ。

 全国各地で人手不足が問題となる昨今、こうした「入荷遅れ」がさらに拡大する可能性もあろう。現在の書籍の販売・流通手法自体を見直し、物流業者・書店・消費者のそれぞれが妥協できる案を探っていくことができなければ、近い将来書店が「首都圏に近い地域だけのもの」になってしまいかねない。

<取材・文・撮影/若杉優貴・愛須圭一郎(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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最終更新:3/19(火) 19:47
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