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『華麗なる一族』のモデル・山陽特殊鋼が新日鉄住金の子会社に

3/18(月) 5:56配信

デイリー新潮

 映画やドラマにもなった山崎豊子の『華麗なる一族』(新潮社刊)の万俵鉄平は、万俵コンツェルンの御曹司である。傘下の「阪神特殊鋼」の専務として同社を業界トップクラスに育てようと奔走するが、欲深い父・万俵大介の裏切りによって会社は倒産、鉄平は失意のうちに自殺を遂げる。

 この小説は山陽特殊製鋼(以下、山陽特殊鋼と略)の戦後最大と言われた破綻劇がモデルだが、同社が新日鉄住金の子会社になると正式に決まったのは、2月28日のこと。それまで、約15%を出資していた新日鉄住金が、第三者割当増資を引き受け、約52%の株を握ることになる。

 振り返れば、同社ほど企業の浮き沈みを見せつけた鉄鋼メーカーも珍しい。もともとは、終戦後、元特高警察の荻野一が乗っ取り同然に経営権を手中に収めると、次いで富士製鉄(新日鉄住金)との太いパイプを築く。さらに資本金の3倍を超える最新設備を導入し、急な膨張策に走る。一躍、関西財界のスターになった荻野は万俵大介のモデルとされ、豪奢な私生活が話題になった。

 同社を取材した鉄鋼業界紙の古参記者が言う。

「その一方で、放漫経営と過大な設備投資は、山陽特殊鋼の首を絞めることになるのです。負債500億円を抱えて破綻したのは1965年のこと。巨額の粉飾決算や横領・裏金も露見して一大スキャンダルに発展しましたが、同社の破綻は銀行業界も巻き込んだ。巨額の融資をしていた神戸銀行も屋台骨を揺さぶられ、やがて太陽神戸銀行(後の三井住友銀行)へと再編されたのです」

 小説では、ここで万俵鉄平が死んでしまうのだが、そのモデル(元専務)も実在した。物語と違うのは、破綻後も債権者から請われて同社に残ったことだ。まわりからも「鉄平さん」と呼ばれ、同社の再建と再浮上までを見届けた。

優良企業

 先の古参記者が続ける。

「小説では、富士製鉄をモデルにした『帝国製鉄』が登場しますが、山陽特殊鋼が復活できたのは、やはり富士製鉄のお蔭でした。破綻の際には8人の役員を送り込み、技術的にも全面的に支援したのです」

 それもあって、同社の業績はV字回復、80年には再上場に漕ぎ着ける。新日鉄系となった山陽特殊鋼は一時、新日鉄傘下の電炉メーカーに吸収合併される話も持ち上がったが、独立の気風が強い同社は、社長の派遣を受けながらも独立路線でやってきた。

 最近の業績も好調そのもので、営業利益率は約7%と、鉄鋼メーカーとしては優良企業だ。それが、ここに来て新日鉄住金の軍門にくだったのはどうしてなのだろうか。今回、同社は新日鉄住金の子会社になるとともに、増資で得た資金でスウェーデンの特殊鋼メーカーを傘下に入れる。ジャーナリストの小宮和行氏が言う。

「新日鉄住金に限らず、鉄鋼産業の業績は自動車メーカーの動向に影響されるものです。一方、近い将来、世界中でEV(電気自動車)が普及するのは確実で、自動車業界に大きな再編をもたらすと言われている。そのため新日鉄住金は山陽特殊鋼の経営をグリップし、自動車用の特殊鋼の販路を広げておこうと考えたのでしょう」

 鉄鋼業界の暴れん坊と呼ばれたのは半世紀以上前のこと。“鉄の秩序”に山陽特殊鋼も、従うしかないのだろう。

「週刊新潮」2019年3月14日号 掲載

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最終更新:3/18(月) 5:56
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