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コスタリカが「2050年までに国まるごと脱炭素化」のロードマップを発表

3/20(水) 15:30配信

HARBOR BUSINESS Online

 ついに、「持続可能国家」プロジェクトが始動した。

 3月中旬、コスタリカのカルロス・アルバラード大統領は米国を訪問し、アマゾンやグーグルなどのいわゆる「GAFA」を含む名だたる大手企業の役員と懇談した。実はこれは、アルバラード政権が打った「持続可能国家」へのしたたかな布石だった。

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◆国ひとつまるごと「脱炭素化」するための10の目標

 これに先立つこと約2週間、コスタリカ政府は2月24日、「脱炭素化国家計画2018-2050」(Plan Nacional de Descarbonización=PND)の概要を発表した。経済・社会の脱炭素化に関するロードマップを発表し、「持続可能国家」への計画がついに始動した。

 コスタリカがオングリッド電力のほとんどを、核分裂も化石燃料の燃焼も伴わないクリーンエネルギーで賄っていることは、すでに広く知られている。

 しかし、国内のエネルギー消費全体で見ると、その過半を化石燃料に頼っている。そこでアルバラード政権は、脱炭素化経済の方向性に関して将来達成すべき10の目標を示した。

 環境エネルギー省が発表した資料をまとめると、それらの目標は以下の項目で構成されている。

1. 公共交通システムの脱炭素化

2. 自家用車のゼロ・エミッション化、シェアライド産業の推進、充電・水素ステーションなどのインフラ整備

3. 貨物車両の低炭素化

4. 競争力を備えた再生可能エネルギーのみによる電力マトリックスの構築

5. 建築物の低炭素化

6. 産業セクターの近代化を通じた持続可能化

7. 廃棄物の分別、再利用、再評価および廃棄の統合的管理システムの構築

8. 国内消費用および輸出用の食糧生産の低カーボン化

9. 牧畜業における温室効果ガスの逓減

10. 生物多様性の保護、森林率の向上と維持、都市・地方・海岸地域で自然のエコシステムに沿った管理モデルの確立

◆カーボン・ニュートラルの先にある「脱炭素化経済」を目指す道筋

 これを見て分かるのは、運輸セクター、特に自家用車と貨物運輸の扱いに苦慮していることだ。

 そもそも、コスタリカの輸送はほぼトラックに依存している。加えて、大陸間の貨物トラック輸送ルートもあるため、自国のみで規制しても完全には規制しきれない問題もある。

 そこで運輸部門の低炭素化対策は、鉄道の敷設(復活)と電化→バス・タクシーのゼロ・エミッション化(大型車両は水素車、普通車両はEVが中心だと考えられる)→一般車両のゼロ・エミッション化→貨物車両の低炭素化という段階を経る、と同計画は読める。

 ただ、貨物車両をどう低炭素化していくかという方法論はまだ具体的ではなく、これからの議論が重要になってくるだろう。

 また、10の目標のうち9つまでが、炭素排出を減らす取り組みであり、炭素を吸収するための目標は1つしか挙げられていないことには「炭素の排出・吸収のプラスマイナスをゼロにする」といういわゆるカーボン・ニュートラルに満足することなく、炭素の絶対排出量そのものを減らしていくという意気込みが感じられる。

◆野心的年次目標を含めたロードマップも公表

 その10の目標を達成するための、大まかなロードマップも公表された。年次順に並べると、以下のようになる。

2022年

・貨物車両の排出ガスに関するインデックスを作成。トラックの効率向上のための輸送ロジスティクスパイロットプラン発足

・有機廃棄物由来のメタン排出削減のための最適技術開発国家戦略プランの確立

2025年

・ゼロ・エミッション二輪車の推進

2030年

・100%再生可能エネルギーによる国内電力マトリックスの達成

・新築建造物への再生可能エネルギーによる熱および熱水利用と程排出基準の適用

・ゴミの削減とその取り扱いについての市民・企業文化の創出

・生物回廊の制定と森林率を60%まで向上

2035年

・バス・タクシーの70%をゼロ・エミッション化

・鉄道の100%電化

・全車両の25%を電力駆動車に

2050年

・主な移動手段を私的なものから公共交通に代替

・バスとタクシーを100%ゼロ・エミッション化

・全新車をゼロ・エミッション車に、全登録車の60%をゼロ・エミッション車に

・貨物車両の50%を高効率車に

・貨物輸送セクターの排出ガスを2018年度比20%削減

・全建築物への再生可能エネルギーによる熱および熱水利用と程排出基準の適用

・産業セクターのより低排出エネルギー源への貢献

・国内全地域においてゴミの収集・分別・再利用・廃棄問題の解決

・食料輸送の最低50%を高効率化し、同分野における排出ガスを2018年度比20%削減

・国内牧畜業における持続可能性、競争力、低排出基準を満たす最も進んだ技術の適用

 分野で分けるとするなら、運輸・交通、廃棄物、建造物、農牧業の4つに大別できる。2007年にカーボン・ニュートラル国家を目標に掲げてから、環境エネルギー省を中心に脱炭素化の課題と道筋に関するリサーチが継続的に行われてきた。それが反映された形だ。

 ちなみに重工業がそれほど発達していないため、その分野に関する言及はほぼない。日本と比較する場合、この差異に注意する必要があるだろう。

◆技術的課題は今後2年間で整理。まずは資金確保と企業の協力を得る

 今回は分野ごとの年次目標を掲げるにとどまり、技術的課題はこれから約2年間かけて議論し、まとめることになっている。

 最大の問題は、技術よりもその技術の開発とインフラ整備などに投じる資金的問題だとコスタリカ政府は考えているようだ。確かに、先立つものがなければ計画は実行しようがない。

 PND発表時には米州開発銀行(IDB)の気候変動および持続可能性担当局長であるアマル=リー・アミン氏も列席した。現地英字紙『Tico Times』によると、IDBはPNDに対して3500万ドル(約39億円)を供与。エコシステムの管理を通じた生物多様性の持続可能な利用に使われるという。

 3月中旬にはアルバラード大統領みずからシアトル、サンフランシスコ、シリコンバレーに赴き、アマゾン、マイクロソフト、ヒューレットパッカード、インテル、グーグルなど大手国際企業の役員たちと懇談し、コスタリカとの関係強化を呼びかけた。

 基本的には雇用や技術教育を要請した形だが、PNDを発表した直後の訪問だけに、それらの技術と持続可能性がリンクした話だと推測される。たとえば、アマゾンに対してはコスタリカ国内、特に郊外における自宅テレワークでの雇用増大を求めた。テレワークは、移動距離を減らすことで排出ガス削減に貢献するとコスタリカ政府は考えているからだ。

 こうして、ついにコスタリカの「持続可能国家」建設計画がその幕を開けた。今後も随時その動きをお伝えしたい。

「持続可能国家」コスタリカ 第11回

<文・写真/足立力也>

コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1~2回)では企画から通訳、ガイドも務める。

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最終更新:3/20(水) 15:30
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