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【ブックハンティング】マスコミ業界はなぜ「規制改革」に反対するのか

3/20(水) 12:00配信

新潮社 フォーサイト

 

 世の中にはいまだに、ばかばかしい政府の規制がたくさんある。

 なぜ規制はなくならないのか。規制をなくして、便利で効率的な社会にしようとすると、なぜ猛烈な抵抗に遭うのか。それどころか、ひどい場合は個人攻撃を受けて、社会的評価さえ貶められかねない。

 本書『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』(新潮新書)は、長年にわたって政府と民間部門の第一線で規制改革に取り組んできた著者による「規制改革をめぐる最新にして最良のテキスト」である。著者の原英史氏は経済産業省出身で規制改革・行政改革担当大臣補佐官などを務めた後、退官し、現在は政策シンクタンク代表を務めている。つまり、規制改革の「プロ中のプロ」だ。

 原氏は昨年、大きな問題になった加計学園問題でも、大学新設をめぐる改革の中核的役割を担った。そういう立場から国会でも証言している。本書は加計学園問題の真相を含めて、通信と放送の融合、携帯電話料金問題など、さまざまな実例を取り上げながら、規制の現状と改革の必要性、将来の見通しを縦横に論じている。


■バカげた規制との戦い

 たとえば、医薬品のインターネット販売はどうか。

 2014年に一部解禁されたが、まだ多くの品目や処方箋薬は規制されたままだ。薬局に出向かず、インターネットで医薬品を購入できれば、多くの人が便利と思うはずだ。なぜ全面解禁されないのか、と言えば、その理由は厚生労働省が認めないからだ。

 反対する理由を厚労省に問えば、彼らは「薬剤師が個別に対面して、顔色など患者の症状を確認する必要がある」と答える。だが、医者でもないのに、薬剤師がカウンター越しに客の顔を見ただけで薬の必要性や副作用の可能性などを判断できるわけがない。反対する真の理由は「ネット販売を普及させて、薬剤師の仕事を減らしたくない」からである。

 同じ話は、一部を除いて「クリーニング店に受け渡しボックスがない」事情にも共通している。クリーニング店が受け渡しボックスを備えて、深夜早朝にも客が洗濯物を受け渡しできるようになれば、便利なのは間違いない。だが、これも「客が感染症などにかかっていれば、顔色を見て洗濯物を別に仕分けする必要がある」という理由で認められない。まったくばかげている。

 理容室の洗髪台問題もそうだ。1000円カットの店は洗髪をしない。にもかかわらず、店の片隅には、使われない洗髪台が置かれている。なぜかと言えば「理容室は洗髪台を備えなければならない」という規制があるからだ。

 以上は、ほんの一例である。

 こうした規制の裏側には、関連業界の反対がある。薬剤師はネットで医薬品が買えるようになったら、自分たちの仕事が減ると恐れて、政治家に陳情する。厚労省は業界と政治家がタッグを組んだ圧力に屈して、と言うより、自らすり寄って既得権益を守るように動く。

 本来、社会全体の利益を増進する立場にある官庁が、個別業界の利益を代表して規制改革に抵抗しているのだ。裏側には、もちろん役人の天下り問題もある。したがって、改革を進めようとする側は、関係業界はもちろん政治家や役所と熾烈なバトルを繰り広げることになる。


■地方局の存在理由がなくなる

 そのとき、戦う武器は何かと言えば「国民の声」以外にはない。本来なら、マスコミも共闘すべきなのだが、現実はなかなか、そうならない。なぜかと言えば、取材体制の問題があるからだ。

 霞が関の役所には、必ず記者クラブが存在している。記者の側は「自由な報道を守るため」などと言っているが、役所が記者クラブを置く理由は「記者を味方につけるため」だ。結果として、報道は往々にして役所の応援になってしまう。

 もっと本質的な事情もある。それが放送と通信の融合問題である。視聴者・国民の立場で言えば、放送コンテンツがネットでも視聴できるようになれば、自由なときにテレビがなくてもスマートフォンで視聴できるので、便利なのは間違いない。欧米では実現しているのに、日本では一部を除いて実現していない。3月5日、NHKがネットでも同時配信できる放送法改正案を政府が閣議決定したが、民間放送局では検討すらされていない。

 だれが反対しているのか、と言えば、マスコミ業界である。

 放送と通信の融合が実現すると、受信料で成り立っているNHKは困らないが、民放は困る。なぜなら、ネットでコンテンツを流そうとすれば、コストがかかる。それに、日本では「放送局が番組を制作して系列局に流すビジネスモデル」が貫徹している。地域限定がないネットで放送コンテンツが視聴できるようになったら、地方局は存在理由がなくなってしまう。

 テレビ局の多くは新聞社が大株主になっている。つまり、テレビと新聞は規制改革が進むと「自分たちの首を絞めかねない」と懸念しているのである。

 本書は、以上のような日本の最深部に大胆に斬り込んでいる。マスコミの裏側に関心がある人々にも、ぜひ一読を勧めたい。

長谷川幸洋

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