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銃弾74発浴びたオランウータン容体安定 生息地ダム計画に出資の中国銀行に環境団体が交渉呼びかけ

3/21(木) 22:01配信

ニューズウィーク日本版

緑豊かなインドネシアの密林で木々を自由に移動していたオランウータン。だが、彼らが安全に暮らせる場所は狭まりつつある

インドネシアのスマトラ島アチェ州のプランテーションで保護された体に74発の空気銃の銃弾を受けたオランウータンはその後、専門の医師らによる治療を受けて容体は安定していることがわかった。

[動画] オランウータンを脅かす中国資本によるダム建設

一方で別のオランウータンの種が生息する北スマトラ州で進むダム建設計画に関しては、インドネシアの環境団体が計画の中止を求めて上級裁判所に再び提訴するとともに資金援助している中国の銀行に交渉を呼びかける事態となっている。

インドネシアの雑誌「テンポ」(電子版)などによると、空気銃の弾丸や鋭い刃物による傷を負って保護されたメスのスマトラ・オランウータンは「スマトラ・オランウータン保護計画(SOCP)」の獣医らからなる専門チームによって集中治療と手術を受けた。最も深刻な外傷だった肩の鎖骨骨折の手術は約3時間にわたり、体内に残された74発の銃弾は感染症予防のためうちわずか7発しか摘出することができなかったという。

■「ホープ(希望)」と命名

SOCPのヤニー・サラスワティ獣医はAP通信に対し「鎖骨の手術に加えて脚や腕の外傷の治療を優先した。症状は安定しているものの、感染症予防とリハビリのためにさらに集中的な治療と検査が必要だ」としたうえで「銃弾で両目も失明状態であり、野生に戻れる可能性は低い」との見方を改めて明らかにした。

このメスのオランウータンは保護団体のスタッフらによって「ホープ(希望)」と名付けられたという。

医療チームでは時間をかけてホープの体内に残る銃弾の除去を進め、その後リハビリに必要な治療、体力の回復を図りたいとしているが、ヤニー医師ら医療スタッフによると「身体的だけでなく精神的なダメージもケアする必要がある」とホープのメンタルケアにも配慮する方針を示している。

新種タパヌリ・オランウータンの生息地に危機

スマトラ島北部ではこの治療中のホープのほかに、2017年に新種として確認された北スマトラ州タパヌリ地方に生息する固有種「タパヌリ・オランウータン」のエコシステムに影響を与えかねない水力発電所「バタントルダム」建設計画という問題がある。

インドネシア最大の環境保護団体「ワルヒ(インドネシア環境フォーラム)」は、ダム建設中止を求めた請求が3月4日にメダンの州裁判所で却下されたことを受けて、3月14日までにさらに上級の裁判所に提訴したことを明らかにした。

「ワルヒ」は「あらゆる法的手段を講じてダム建設計画を中止に追い込む」としており、今後も法的手段をフル活用していく方針という。

3月1日には北スマトラ州メダンにある中国領事館前でオランウータンの着ぐるみを着るなどした環境活動家らがダム建設反対の抗議デモを行うなど、ダム建設反対の機運は盛り上がりをみせている。

しかし、インドネシア側の建設企業「スマトラ水力エネルギー会社」は「ダム建設はオランウータンのエコシステムに影響を与えない」との姿勢を崩していない。

このため「ワルヒ」はダム建設計画の主要な資金提供者である「中国銀行」に対して、協議申し込みを行っている。

ワルヒ関係者によると中国銀行は2018年に、環境保護に関して「調査する」と約束したもののこれまで調査結果に関して一切伝えてきていない状況という。

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」によると、中国銀行は3月4日にウェブサイトに「水力ダム計画に関して環境団体が示している関心に留意する。我々は地元の法律や規則に従ってビジネスを展開することが重要であると考える」という趣旨のコメントを掲載。環境問題への理解を表明しながらも計画を見直す考えのないことを示唆した。

■オランウータンを取り巻く厳しい環境

新種であることが確認された「タパヌリ・オランウータン」はその個体数が約800と少なく、他の「スマトラ・オランウータン」「ボルネオ・オランウータン」と並んで絶滅の危険に瀕している人間に最も近いとされる大型類人猿である。その生息する北スマトラ州タパヌリ地方で進む中国の銀行資本を背景にしたダム建設計画は、「タパヌリ・オランウータン」の生息環境、エコシステムへの深刻な影響が懸念されるとしている。

一方、「スマトラ・オランウータン」のホープはプランテーションの労働者に空気銃弾74発を撃たれ、ともに逃げていた子供(生後1カ月ぐらい)は栄養失調で保護直後に死亡したが、プランテーション周辺に姿を現したのは開発や森林火災などが原因でジャングル内のエサの不足や生活環境が変化したためとみられている。

オランウータンを取り巻くこうした厳しい環境に対してこれまでインドネシア政府は何ら有効な手立てを講じることがきていないのが現状だ。

大塚智彦

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