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母と父、悪い出来事は連鎖する。穏やかな時期は突然終わった。

3/21(木) 17:30配信

BEST TIMES

■腰が重くなってしまった母

〈連載「母への詫び状」第三十七回〉

   父は新しい特養へ移り、母は抗がん剤治療をひと休みで自宅生活。しばらくは落ち着いた時期が続いた。

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 ただ、ふたりとも病状は芳しくなく、父の認知症は以前より進んだようだし、せっかく母がお見舞いに行ける場所に引っ越したのに、母と会ってもあまり反応がなかった。

 ちょくちょく接していたぼくとは違い、何ヶ月も父と会えなかった母にすれば、症状が一気に進んだという印象を持っても不思議はない。

 家から通える距離にはなったが、母は積極的に父の見舞いに行こうとはしなかった。その心中は推し量るしかない。会っても反応のない相手と時間を過ごすことの寂しさは、元気だった頃に共有した時間が長い人ほど大きいだろう。

 母の腰が重くなってしまったのは、自身の身体の具合も理由だった。

 抗がん剤治療の副作用は人それぞれで、母は比較的軽いほうだったように思う。治療中に嘔吐するとか、味覚がおかしくなるといった異変も特になく、皮膚がただれたくらいだった。

 しかし、自宅生活をするようになって数ヵ月たつと、しきりに背中の痛みを訴え始めた。テレビを見ていても、急に「背中が痛い、痛い」と、顔をしかめる。

 医者に相談すると、手術で切ったところが痛んでいるのではないかと言う。母は腎臓がんを切り、肺がんを切り、二度、身体にメスを入れている。その際に切った背中から胸にかけてのあたりが痛みを生んでいるようで、ある程度は仕方のないことだからと、湿布を貼ったり、さすってあげたりして、ごまかしていた。

■母の背中の痛みの正体は…

 ある日、母が尋常でない様子で、背中の痛みを訴えた。

 それまでの母はまだ身体を起こせていたが、このときは身体を起こすこともできず、苦痛に顔をゆがめている。ちょっと触っただけで、悲鳴を上げそうなくらい痛がる。これは一大事だと救急車を呼び、タンカで病院へ連れて行ってもらった。

 検査の結果、母の背中の痛みは、背骨へのがんの転移が原因だと判明した。

 いわゆる「背骨」は、首のほうから、頚椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)、仙椎(せんつい)、尾骨(びこつ)と、いくつもの骨が縦に連結してできている。母の場合は、がんが転移したことによって胸椎のひとつがモロくなり、つぶれかけているのだという。背中の痛みは手術で切ったからではなく、悪い奴らに背骨がむしばまれていたからだった。

 救急車に母を乗せた時点で悪い予感しかなかったが、もうぼくにはどうすることもできない。このまま普通に生活していると、骨が本当につぶれて下半身不随になる恐れもあるから、しばらく入院して寝たきりの状態が続くと説明されたが、それよりも骨にがんが転移したという事実のほうがショックだった。

 母の病気については、それなりに書物やネットで調べていたから「骨転移(こつてんい)」が何を意味するのか、がんのステージがいくつなのかといった基礎知識は持っていた。ついにこの日が来てしまったかと、先のことが考えられなくなった。

  病状の進行は人それぞれで、必ずしも骨転移イコール末期というわけではないので、誤解する人がいるといけないが、このときのぼくはそんなふうにしか受け止められなかった。

 悪いことは不思議なほど連鎖する。

 母の寝たきり入院生活が始まって数日後、今度は父の入所する特養から、夜に電話がかかってきた。

「お父さまが倒れました。今、**病院へ救急車で搬送していますので、そちらへ向かってください」

 なんてこったい。ちょうど母の病院から付き添いを終えて、自宅へ帰ってきたばかりのタイミングだった。急いで自転車に飛び乗り、指定された病院へ向かった。

※本連載は隔週木曜日「夕暮時」に更新します。本連載に関するご意見・ご要望は「besttimes■bestsellers.co.jp」までお送りください(■を@に変えてください)。連載第1~10回はnoteで公開中! 

文/夕暮 二郎

最終更新:3/22(金) 17:42
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