ここから本文です

同窓会嫌いのハライチ岩井が仕方なく会った昔の同級生にイラついた理由

3/22(金) 7:00配信

Book Bang

お笑い芸人・ハライチの岩井勇気による初めての連載エッセイ。お笑いのこと、ラジオのこと、アニメのこと、この世界のこと……独自の視点で日常に潜むちょっとした違和感を綴ります。今回のテーマは「同窓会」です。

 ***

第14回「同窓会」

 人が集まるようなパーティや飲み会が苦手だと以前のコラムに書いた。それに当てはまるのだが、僕は誘われてもなるべく行かないようにしているものがある。同窓会だ。

 僕の地元は埼玉県なので、上京した同級生も40分も電車に乗れば地元に帰れるからか、同窓会が年1回ぐらいの頻度で行われている。一般的な同窓会の開催頻度はわからないが、僕はそれがハイペースだと思っている。

 僕がなぜ同窓会が苦手か。理由はいくつかある。

 まず、同級生同士で集まった時の話題が毎回一緒なのだ。同窓会の序盤は自分と久しぶりに会った友達との現状報告。それが終われば「○○と××が付き合ってたよなー」「あの時の○○のあれ面白かったー」「久々に○○のあれ見たいわ!」といった毎回同じ学生時代の話だ。仮に5年に1回の頻度で集まっていても、このメニューは変わらない。それを1年に1回やっていたらなおさら。

 学生時代のお調子者がはしゃいで周りの男達が騒ぎ、それを見た同級生の女達は「またあいつ、馬鹿やってー」などと笑う。これを年に1回やられてみたらどうか。さすがにもういい。という気持ちになるだろう。

 しかし、同級生達は毎回同じ話をしていても、毎回同じところで笑っているので、僕はこれが非常に怖い。1年に1回同窓会を開き、学生時代の話をして、全員その楽しかった日々に帰ったかのように笑い合う。僕にはそれが『学生時代は楽しかった』という記憶を植え付けられ、大人になってもその記憶に縛り付けられている呪いのように見えるのだ。

 もうひとつの苦手な理由は、主催者だ。30歳を過ぎたくらいで、人を集めて同窓会をやろうと思う訳は大体想像がつく。同級生に自分の現状を聞かれて、答えたいのだ。自慢したいのだ。

 大体自分の仕事や私生活が上手くいっている人間が同窓会を開催したがる。仕事や私生活が上手くいっていない人間が同窓会を主催しているのを僕は見たことがない。僕はそんな主催者の思惑が嫌いだ。自分で同窓会を開いて、今どんな生活をしているとか、どんな仕事をしているかを自信満々に答えている主催者を見ていると、こっちまで恥ずかしくなる。

 しかし僕が思うのは、本当に仕事と私生活に満足している人間は同窓会など開かないということだ。端から見て私生活と仕事が上手くいっていても、どこか楽しくないとか、満足していないとか、もっと人に認められたい人間が、学生時代の楽しさのピークを更新できていないからか、同級生より上に立ったことを確認したいという理由で同窓会を開くのだ。なので、楽しさのピークを更新していて、今を楽しんでいる人間は同窓会など求めていない。

 あと、こうやって同窓会を否定した時に「でも久々に昔の友達に会えるの嬉しいじゃん」などと言われることがあるが、会いたい友達なら同窓会など無くても会っているし、同窓会が無いと会わない程度の友達だから“昔の友達”なのだろうと思う。

 先日、僕が唯一今も連絡を取っている中学の同級生の女の子から電話がかかってきた。その子とは、その子が歯科助手をやっている歯医者に通っていた関係で連絡を取っていたのだ。

 電話に出てみると、電話の向こうはざわついた様子。「同窓会来ないのー?」と大きめの声でその子が言う。知らなかったが、どうやらその日は地元で中学の同窓会があったらしい。同窓会に誘われても行かないことが続いたので、もはや僕は誘われもしなくなっていたようだ。

 夕方6時くらいに電話がかかってきたが、その後仕事があったので断ると「何時に終わるの? 一緒に飲みたいって言ってる奴がいるんだけど」と聞いてきた。僕は「夜中12時過ぎると思うなぁ。もしかしたらもっと遅いかも」と、相手にわかるように行きたくない感じを最大限に出しつつ答えた。すると「わかった! とりあえず都内でそいつと飲んでるから、終わったら連絡して」と食い下がってきたので、逃げきれなくなって止むを得ず了承した。

 しかし、その女の子は僕の性格をわかっているので、普段はそんなにしつこく連絡はしてこない。どうやら今回はもう1人からしつこく誘うように言われているように感じた。

 夜12時過ぎに仕事が終わり、携帯電話を見るとその子からの着信が何件かあった。面倒ではあったが、折り返し電話をすると「今都内のバーで2人で飲んでるから来てー」とのことだった。どこかで「もう遅いから解散しちゃった! また今度ー」という結末を望んでいたが、思うようにはならなかった。

 タクシーに乗り、言われた住所の店に着くと、夜中までやっているひっそりとした少し高級感のあるバーだった。中に入ると、他の客はおらず、テーブル席に同級生2人が座っていた。手前に座っていたのが歯科助手の女の子、そして奥に座っていた男が僕を見つけ「お、天才来た! 天才ー!」と言った。適当に言われる“天才”ほど気持ちの悪いものはない。

 その男とは、中学時代一緒のクラスになったことはなく、直接遊んだこともないが、多人数でいる時にはなんとなく居るという絶妙な距離感の同級生だった。

“天才”と言われたことは面倒なので一旦置いておいて「おう、久々」と挨拶した。そいつは「天才と飲みたかったんだよー」と続けた。

 女の子の方を見ると顔をしかめて「ごめんね!」といった表情。ここで即刻帰っても、長年会っていなかった同級生に嫌われるだけなのでなんともないが、様子を見るためにその店で1杯だけ飲むことにした。

 飲み物を注文し、なぜ僕とお酒を飲みたかったかをそいつに聞いた。すると「いやー、頑張ってるのかなと思ってさー?」という答えが返ってきた。

『頑張ってるのかなと思ってさー?』というのは、久々に会った後輩や部下といった目下の者への言葉ではないだろうか。そして、みんな各々自分の場所で頑張っている。他人がとやかく言えることではない。他業種の人間に「お前頑張ってるの?」と聞くことが、どれだけ失礼かを理解していないのだと思った。

 とりあえず呆れ気味に「まぁまぁだよ」と答えた。何の仕事をしているのか聞いてみると「ビットコインとか、仮想通貨系の仕事。仮想通貨でまぁまぁ儲けててさー」と早くも自慢話が始まる。

 僕が興味なさそうに「へぇ、あそう」と言うと、さすがに会ってからずっと気の抜けた相槌を僕が打っていたことに気付いたのか、そいつは「俺もそっち界隈では岩井くらいは有名だからな!」と切り札を出すかのように言った。

 僕は「そうなんだ」と返した。しかし、つい少し笑ってしまっていたらしい。そいつが「あ、バカにした?」と怪訝そうな表情で言う。僕は「いや、わるいわるい」と謝った。

 自分と相手のどっちが有名かを競ったり、自分がどれだけ有名かを相手に説明することは、不良や暴走族までで終わっていると思っていた。その価値観を持っている大人がいることに、僕は単純に驚いたのだ。

 少し不穏な空気になったことに女の子が気付いたのか「ほら、今日の写真見せてあげるよ」と言って、携帯電話で写真を見せてきた。何人もの同級生の写真を見る中で、中学の時に仲が良かった部活の友達の写真が出てきた。

「こいつも全然会ってないなぁ、何やってるんだろう」と僕がつぶやくと、女の子は「元気だったよ。今はビルの警備員やってるらしい」と答えた。仲が良かった友達も元気でやっていると聞いて、僕は少しだけ嬉しかった。

 するとその男がグラスの酒を飲みながら「っていうかさ、30過ぎて警備員ってどうなの?」と吐き捨てるように言った。警備員も立派な仕事だ。友達が今警備員の仕事をやっている。何が悪いのだ。僕は同級生のその友達が下に見られ、バカにされたような気がして許せなかった。

 僕は会ってから30分も経たないうちに、今日のこいつの考えが大体想像できた。

 こいつは今、仕事も私生活も上手くいき、人に羨まれるくらいになった。同窓会に行けば、同級生に持てはやされ、羨まれると思っていたものの、恐らく同級生からは、口を開けば『ハライチ』という名前が出たのだろう。

 少しでも主役になれると思って臨んだ同窓会で、想像通りの快感を得られなかったことに憤りを覚え、唯一僕と仲のいい同級生の女の子に僕を呼び出させた。そして現状を僕に話し、自分の価値を認めさせたかったのだ。

 こいつは収入で人の価値が決まると思っている。しかしその価値観が全てだと思っていた場合、自分より収入が多い同級生から「お前頑張ってんの?」と言われた時に、ぐうの音も出なくなる事を分かっていない様子だった。

 やはりこういう思惑が渦巻いている同窓会には、行かなくて正解だったと思った。

 僕は、僕が来るまで何杯か酒を飲んで酔っ払っているそいつにさらに酒を勧め、バーのソファーでそいつが寝た後、3人分のお会計を全て支払い、バーを後にした。

 その同級生の男とはもう一緒に飲むことはないだろう。東京の帰り道、僕はそう思った。

 ***

次回の更新予定日は2019年4月12日(金)です。

新潮社

最終更新:3/22(金) 18:39
Book Bang

記事提供社からのご案内(外部サイト)

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事