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人間爆弾・桜花を発案した男の「あまりに過酷なその後の人生」

3/23(土) 13:01配信

現代ビジネス

 「桜花」――まもなく満開となる桜のことではない。戦時中の日本軍の非常さを象徴する、生還不能の特攻兵器につけられた名である。大型爆弾に操縦席と翼、ロケットをつけ、母機から放された瞬間に搭乗員の死が約束されるこの兵器は、敵の米軍にとって理解不能だったようで、彼らは「Baka Bomb(馬鹿爆弾)」と呼んでいた。

 この兵器を発案した男は、終戦直後に死亡したとされたが、生存説もささやかれ、長らくその消息は謎に包まれていた。だが、5年前、遺族から神立さんへ一報があり、戦後、別人として生きてきた詳細な軌跡が判明する。

 「特攻兵器『桜花』の生みの親」という過去を消し去って生きた男は、どのような後半生を送っていたのか? 

特攻兵器「桜花」の初陣は全機撃墜された

 いまから74年前、昭和20(1945)年3月21日午前11時20分。鹿児島県の鹿屋海軍航空基地から、「神雷(じんらい)部隊」の異名をもつ第七二一海軍航空隊の双発の一式陸上攻撃機(一式陸攻)18機、続いて、陸攻を護衛する零戦が相次いで離陸滑走をはじめた。

 一式陸攻のうち15機は、胴体下の爆弾倉からはみ出す形で、小型の飛行機のようなものを搭載している。それは、母が子を抱いているような姿だった。陸攻に抱かれていたのは特攻兵器「桜花」。1.2トンの爆弾に翼と操縦席とロケットをつけ、それを人間が操縦して敵艦に体当りする超小型の飛行機で、「人間爆弾」とも呼ばれる。

 母機の一式陸攻に懸吊(けんちょう)されて敵艦隊の近くまで運ばれ、投下されると主に滑空で、ときには装備したロケットを噴射して増速し、搭乗員もろとも敵艦に突入することになっていた。一機で一艦を撃沈することを目的とした、日本海軍の最終兵器だった。

 「桜花」はこれが初の出撃だったが、レーダーで探知して待ち構えていた米海軍戦闘機と遭遇、敵艦隊にたどり着くことなく、全機が母機とともに撃墜された。護衛の零戦も、30機のうち10機が還らなかった。桜花搭乗員15名、一式陸攻搭乗員135名、零戦搭乗員10名、計160名もの若い命が、九州・都井岬南東の沖に消えた。

 この日、神雷部隊を攻撃する米軍戦闘機のガンカメラ(機銃発射に連動して動画を撮影する、戦果確認用カメラ)のカラー映像が残されている。攻撃を受けて次々と火を噴き、あるいは片翼を飛散させて墜落してゆく一式陸攻の姿は、テレビ番組でもたびたび放送されている。

 この映像は、昭和50年代までは一部を切りとって、「昭和18年4月18日、山本五十六聯合艦隊司令長官機の最期」と誤って紹介されたりもしたが、よく見ると、一式陸攻の胴体の下に「桜花」がはっきりと映っているのがわかる。近年、大分県在住の戦史研究家・織田祐輔氏の調査で、従来知られていた1分45秒のカラー映像のほかに、4分13秒におよぶ白黒映像が新たに発見され、「桜花」初出撃時の模様を、より克明にたどることができるようになった。

 ――米戦闘機の奇襲を受けた護衛戦闘機の零戦が、反撃に転じようと上昇する姿。総重量2トンを超える「桜花」を搭載した一式陸攻は、本来のスピードが出せない。それでも、被弾して火を噴き、墜落する瞬間まで、指揮官機に続こうと必死の操縦を続け、銃座からは米戦闘機に対して激しく機銃を撃ち続けている。「桜花」を切り離せば身軽になるのに、あくまでも攻撃を成功させようとしているのが手に取るように伝わる映像である。

 この日、陸攻隊を指揮した野中五郎少佐は、数多の実戦経験から、一式陸攻が「桜花」を搭載したまま、無事に敵艦隊上空に到達できるとは考えておらず、

 「俺は、たとえ国賊とののしられても、桜花作戦だけは司令部に断念させたい」

 と、後輩の指揮官に漏らしていたという。出撃前夜には、桜花隊分隊長の一人であった林富士夫さん(当時大尉)に、

 「ろくに戦闘機もない状況ではまず成功しないよ。特攻なんてぶっ潰してくれ」

 と遺言していた。

 野中少佐の言葉もむなしく、以後、桜花隊の出撃は10回にわたって続き、神雷部隊は、「桜花」搭乗員55名をふくむ829名もの戦死者を出した(陸攻搭乗員や護衛の零戦搭乗員、また零戦で特攻出撃した者もふくむ)。「桜花」による戦果は、米側記録との照合で、駆逐艦1隻撃沈、3隻に再起不能となるほどの大きな損傷を与え、ほか3隻を小破させたことが判明している。

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最終更新:3/23(土) 13:01
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